2月20日(水) 広島市中区加古町にあるJMAアステールプラザ多目的スタジオで演劇引力廣島第16回プロデュース公演「顔も、声も、」を観る。

広島市中区加古町にあるJMAアステールプラザ多目的スタジオで演劇引力廣島第16回プロデュース公演「顔も、声も、」を観る。


作・演出:象千誠


昨年に観た演劇引力廣島第15回プロデュース公演「昼下がりの思春期たちは漂う狼のようだ」作・演出:蓬莱竜太さんの印象が強いので比較して観てしまう。


しかしそんなのは無駄なことだから、そんな感想は抜きにしないといけない。


出演者は16名いて、それほどの登場人物をどのように立たせ、描き分け、どれほど焦点を当てて組み込んでいくか、休憩なしの2時間を超える舞台だとしても、複雑に考えてしまう。


幕で明確に区切られて、登場人物がどっしり構えてその幕に登場するような劇ではなく、映画のように部分部分のショットをつなぎ合わせたような演出の劇では、どのように役者という素材を紡ぎ合わせるのか、表現の幅は広くても、より手応えをつかみにくいと感じてしまう。


劇の入りは食べ過ぎたお好み焼きの消化を理由にしたくなるが、おそらく、この公演の初日ということで、まだ感じがつかめていないのか、舞台自体が確信という血のつながりに息が吹き込まれていないからか、退屈に思えた。舞台に入り込めずに、舞台と観客席の間の、動物園の柵のようなものが隔たっていたのを感じた。


数人の役者を抜かすと、声量が足りず、音量というよりも、質としての存在感がこちらの意識をがっちり捕まえていなかったのだろう、役者と観客の距離が近い舞台でありながら、目の前の劇に目をやるのではなく、目を離したり、落としたりする瞬間があった。それはセリフにもいえることで、青森が舞台の場面で、ついつい土地の言葉を探してしまい、見当たらず、確信が持てず、自分の趣味に合う文学性と芸を得られずにいたのもあるだろう。おそらくそれは、最近聴いている落語のせいで、あの名人とよばれる人間達の東北弁を聴いていて、違いを感じたからだろう。無理な話を自分にしている。


劇は本当に難しいものだと思った。映画も同様にそう思った。音楽なんかはとても手に負えない。時間芸術はその名の通り、的確な時間をつかむのが本当に難しい。おそらく演説もそうだろう。とある場面の語りが少しでも長ければ、観客は飽きてしまうし、最適な時間幅で枠を取られていたとしても、セリフが平凡なら味わいもなく、演技や演出、照明、あらゆる要素に手落ちがあれば、注意はあっさりと削がれて、他へ向いてしまう。気ままな観客の気分を留めておくのは、並大抵のことではないのだろう。


それでも、中盤から後半にかけて物語の各要素が意味と個性を持って膨らみ、交差して、積み重なり、しだいに引き込まれていった。場面展開にも意識を鷲掴みするリズムが表れ、構成と展開の上手さがようやく形になってくるのを確かに感じて、ああ、さすがだと、象千誠さんの作・演出の質を飲み込むことができた。


昨年の蓬莱竜太さんの手がけた公演ですっかり気に入ってしまった竹野さんが今年も出演していて、芸人のようなアクの強さを持つ過剰ともいえる演技は、出演者のなかで際立ってエネルギーがあり、今回も素晴らしい体の動きと、目玉が飛び出そうな表情や、つばの飛ばし具合にほころんでしまった。生きが良くて、好感が持てる。この人が登場すると、舞台のテリトリーがぐっと広がり、注視させられる。


違った性質ながら、田原さんも目を引く人だった。演技と声が一際つよい風味を持ち、より繊密なニュアンスと存在感により、その横顔から舞台に地場を歪ませて想像力を喚起させる波動が出ていた。一言でいえば、演技が上手なのだ。


また、合田さんも体一杯に使ったくだけた演技により、舞台にひと味違った場面を作り出して、おかしくなった。


昨年のような日常を喪失させるほどの感動と陶酔は今回の劇にはなく、むしろ冷静に劇というもののありかたを観て、その難しさを実感した。


パンフレットに、演劇引力廣島~CORE~についてと書かれてあり、「広島市文化財団の演劇事業が始まって8年目の平成15年度に、さらなるステップアップを目指してプロジェクト名を付けました。それが、“演劇引力廣島”です。『引力』という言葉には“お互いに引き合う”という意味があり、演劇創造を通じて、広島から他地域へ出て行くだけでなく、他地域からも広島を目指して来てもらえるような、双方向の関係を築いていける魅力のある演劇都市『広島』を目標に命名しました。」とある。なんとも頼もしい説明だろう。観劇歴わずか1年という自分で言うのでは重みがいささか足りないが、ぜひ頑張って演劇でも有名な都市として名を馳せてほしい。東区民文化センターでも頑張っているし、広島交響楽団のように、本格的な劇団が常時質の高い公演をしてくれたら……、考えただけで喜びに満たされる。立派な美術館が幾つかあり、スポーツも賑わい、音楽も素晴らしい。あとは神楽に負けない劇団があったら言うことなしだ。


近藤良平さんや平原慎太郎さんのダンス育成、推奨プログラムもあり、もっともっと劇や踊りが盛んになって欲しい。


差し出がましいが、今日の劇で、最も大切な舞台に対する熱意は確かに感じられたので、計5日間、大変なのは簡単に想像できるにしても、その熱意を保って頑張って欲しいと願わずにはいられない。おそらく、木曜日はより密度の締まった舞台になるだろうから。

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