9月22日(土) 広島市中区基町にある広島市映像文化ライブラリーでブリュノ・デュモン監督の「ジャネット、ジャンヌ・ダルクの幼年期」を観た。

広島市映像文化ライブラリーで、ブリュノ・デュモン監督の「ジャネット、ジャンヌ・ダルクの幼年期」を観た。


白っぽい砂の底を青空に反射する小川が流れていて、固定されたカメラの遠くから、あどけない女の子がスカートをまくったまま、歌いながら川の中を近づいてくる。


どこまで歌は続くのかと思っていたら、なかなか終わらず、突然疑問を抱かせる奇妙な踊りも始まり、それが二度三度繰り返されてから、これはミュージカル映画なのだと気がついた。


映像文化ライブラリーのハリウッド特集で、フレッド・アステアのタップダンスを観ていたから、この奈落の底に落ちたような完璧とは程遠い歌と踊りを観て困惑した。唐突な場面展開のわりになかなか物語は進まず、リュック・ベッソン監督の「ジャンヌ・ダルク」を昔観たことがあるせいで、壮大な物語を期待してしまい、戦争に参加する場面を欲してしまった。


ところが、そんな荒々しさとドラマティックはやって来ない。巨人の坂本に似ていると思ってしまう小さなかわいいジャンヌ・ダルクは、苦悩を抱えていると吐露するも、それが伝わってこないせいで空々しくあり、セリフの内容がどれも言わされた感じがあり、要するに演技に問題があると思わせる。ハードロックや電子音楽などのヒットチャートに流れる趣味に合わない音楽に合わせて、ステップを踏み、バレエ・ダンスの踊りをみせるも、あまり上手ではなく、一生懸命さが伝わってくるばかりだ。


一人の人物が分身して現れる修道女、小さな友達の女の子、小川に浮かぶ天使と聖女、アクロバティックな動きでスカラベのように登場する成長した友達、動きのぎこちない若いおじさん、などなど、歌の上手な役者もいるが、どこか踊りは不自然で、違和感がどの場面も拭えない。


しまいにはおじさんがラップを披露する場面などは、呆れるというよりも、革新的な試みに感心した。


そう、途中からこの映画の世界に慣れてしまい、不具合が面白さとも感じられるようになった。なにより、映像は美しさに溢れている。光の強い青空を基調に、白っぽい砂のうえで羊たちがのんびりしている横での懸命な踊りや、ヘヴィ・メタルでの修道女と小さいジャンヌの三人による豪快なヘッドバンキングや(小さいジャンヌはくらついて少しよろめき、踏ん張っているところがかわいらしい)、小さい川、劇中にムーズ川という語が出ていたからそうなのだろうが、小川の中を歩く緑の広がる光景などは、静寂にあふれている。それはいずれ火炙りにされることが決定されているジャンヌの、まだ戦いには参加しないあくまで人間らしい時の平和を、小川が象徴しているようにもとれる。


エンディング近くのシーンでも、やはり気になったのがあった。ジャンヌが乗る馬におじさんも一緒に乗るシーンで、競走馬ではなく馬車を引くのに適した馬だから大きく、高さがあって乗りづらいので、おじさんが跳んで乗ろうとすると勢いよく向こう側に落ちてしまうのだが、その時にジャンヌは下を向きながら一瞬だけ笑いを堪えるのだ。


これが自分の中で決定的となった、この映画は好ましいと。


気になって調べてみれば、素人俳優を起用した監督の意図をすぐに知れて、この作品の構造をたやすく理解できた。とても独特なミュージカル映画で、ある人には受け入れ難い作品だろうが、一見の価値はあるだろう。


とてもユニークな映画だ。

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