4月 広島市中区基町にある広島護国神社で「広島護国神社御創建150年記念喜多流広島蝋燭薪能」を観た。

仕事帰りに能舞台へ。広島護国神社御創建150年記念喜多流広島蝋燭薪能を観に行った。


素謡「翁」、狂言「末広かり」、能「安宅」。


野村萬斎さんがお目当てで、一度著名な人物の生の芸を観ておこうと行ってきた。


安いB席でも、舞台の雰囲気は十分伝わり、表情や体の動きの細かい所作を観たいという欲は置いといて、雰囲気を味わえるだけで満足するべきだと自分自身に納得させなくても、素人のうちだけに味わえる無分別に楽しめる盲目な感受性で、今夕の舞台を存分に楽しんだ。


映画でもコンサートでも、自分の体調が良くなければ味わいは半減する。前日、22時に就寝しただけあって、眠気にはあまり襲われず(今の自分は、少しでも集中力を切らすとだらけてしまい、眠くなってしまうから)、たっぷりと幽玄の時を楽しめた。


動きの多い華やかな演劇も良いが、日本の古典芸能も素晴らしい。静寂は時を変換させ、一つの音が幽谷に聴くように染み入り、熾のぱちぱちする音さえ永続性を感じさせ、古の日本人の感性の集大成から万葉の世を絵巻に観るような感慨に陥りさせる。


夜空を横切る燕、蝙蝠、雁に鵜、しまいには蛍まで宙に浮くという始末だ。昼の暑さが幻影のように夜寒が募り、人人は寒がり、篝火に手を近づける。こんな気温で蛍など、火の粉と紛うようだけれど、あれは本物の蛍だとまわりの人の動きが言っていた。


舞台が終わり、家路に帰る。日常からずれた感覚を徐々に戻しながら、本川沿いを自転車でこいで家へ向かうのにはすっかり慣れた。映画、演劇、クラシック音楽、仕事帰りに芸術に触れられるのは何よりも嬉しい。今の住まいと生活は本当に悪くない。家に帰ればいくつもの本も待っている。


晩春の花盛りが高揚させているのだろう。冬とは打って変って、家でも、職場でも、笑顔に務める。人間は環境の生き物だとどの季節も自分を操る。


来年の広島蝋燭薪能は6月2日だと言っていた。湿気に苛立つ季節だろうか。初夏は違った雰囲気で日の伸びた外の舞台を楽しめるだろうか。

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