【しりとり】秋冬春夏

秋の風は君の装い

いつもの道で君を想う

薄れる記憶は届かぬ遠吠え

描く虚空は悲しき青


置いてけぼりの僕の背中

掻きわけ進む指の先

きっと君なら空にも届く

悔し涙は待ちぼうけ


煙る故郷と遠い過去

木漏れ日揺れる冬の朝

寒空見上げる君の眼差し

シクラメンが花弁を落とす


廃れた街の静かな年の瀬

急いた心を満たした空疎

素知らぬ顔の理由を問うた

只々今はそれも過ち


契りを捨てて道分かつ

月夜に浮かぶ轍を追って

手招く未来は明るかろうと

時を憎んだあの刹那


失くした夢を道連れに

二度と郷里の土踏まぬ

濡れた袖に染みる鐘の音

根雪も残らぬ未練の枯れ野


野火の消えた大地を抱くは

春も麗の弥生の日

昼時過ぎの怠惰な毛布

不意に寂しき一人の窓辺


平静装い失う接ぎ穂

欲せば余計に埋まらぬ隙間

微睡む瞼に映る青海

見果てぬ彼方は言葉を拒む


迎える明日は昨日の正夢

巡る季節の無常を思うも

もはや帰るところにあるまじや

山の背望む夏が燃ゆ


揺らぐ陽炎映す夢の世

寄っては返す想いは裏腹

来夏は再び君と二人

離愁を堪えて笑顔で終える


留守を預かる懐古の夕暮れ

煉瓦の感触忘れぬ暖炉

路地裏覆う光の輪

佗しき初秋の風吹かん



「あ」で始まり「い」で終わる

「い」で始まり「う」で終わる……

 そうやって、季節は巡っていく

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