第26話 隙と正義
食堂に着くと水沼が九城の上に乗っていた。水沼の手は九城の首元にあった。
「ちょっと!」
葉山が水沼を押し、転ばせる。解放された九城は絞められていたところを押さえ、咳き込む。
「なにやってるのよ!」
「俺は聖人だ……透は白だった……白だったのに……お前が、お前が殺したんだ!透を殺したお前が人狼だ!」
水沼の声はベランダで話していた水沼の声よりもガサガサで、顔色がクマの濃さを目立たせる。頬には涙の跡がくっきりと残っていて、少なくとも「生きている」と呼べたものではなかった。
「いいえ、私が聖人よ」
「うるせぇ、お前が人狼だ!死ね!」
水沼は近くの椅子を掴み、葉山の顔めがけて振り下ろした。
*
酷い音を立てて椅子はバラバラに砕ける。
吹き飛ばされた身体は、破片が刺さり血が滲み出てきた。腕の曲がった場所と方向は人間が曲げられるものではなかった。
「がはっ……!」
同時に肋骨も折れたのだろう。口から血が噴き出す。
座っても軋むことが無かった丈夫なものを、バラバラにするほどの力で殴られたら、女性の身体は愚か、男性の身体でも耐えられない。
「あぁ……ああぁ……」
折れた右腕を押さえ、呻き声を漏らす。
「人を殺そうとして何が聖人だ腐れ野郎」
京也の手には、椅子の背もたれだったものが握られていた。
「お前ぇ……お前も人狼かぁ……殺す殺す殺す殺す殺す!」
水沼が転がっていた椅子の破片を握り、京也の方にめがけて突進する。
五十嵐は近くにあった壊れていない椅子を掴み、再び殴る。椅子はまたバラバラになる。
水沼は転げ吹き飛ぶ。
「いがぁしぃ……いがぁs――」
再び椅子を掴み、倒れている水沼の頭目掛けて振り下ろした。
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