きゅっきゅちゃん、四十匹目

「そんなに怖がられるとないちゃうのだけどー」 

「きゅきゅっ」

 体毛を波打たせて威嚇するきなこ。

「最初はごめんってぇ。あまりにかわいいから、びっくりしちゃったの」

「きゅきゅ?」

 あ、かわいいに反応した。態度が軟化する。

「いっしょに住まない?」

「ちゃーん! ちゃーん!」

 警戒音をまた発するきなこ。

 嫌われたハネズさんはがっくりと肩を落としていた。

 ……ちょっとホッとしたとか、思ってないヨ?

「人の家族を拐かさないで頂きたいのですが」

「おっとごめんよ? つい」

 てへぺろ。

 さして反省してないように思えるジェスチャー。

「反省なさい反省を。被害者に誠意を示しなさい」

「申し訳ございませんでした、出来心だったのです」

 半眼で訴えるユウキにハネズさんはきなこに向かて深く腰を折る。

 その声はひどく真摯なもので


「あの、同一人物?」

 さっきまでのハネズさんとは別人のようだ。

「お前、なかなかに酷いな?」

 ユウキが呆れていた。

 つっても、ねえ。


「まあ、謝ったことだし。ちょっときなこちゃんを借りていい? デートしたい、デート」

「誘拐未遂やらかした人を信用しろと?」

 半眼で俺はハネズさんを睨む。

 そこまで俺は馬鹿じゃないぞぅ。

「いやあ……きなこちゃんが嫌なら諦めるからぁ。1、2時間でいいからぁ」

 この、とーり。とハネズさんが手を合わせる。

 それにきなこは俺の顔を見上げて一拍。

「きゅっきゅちゃん」

 ハネズさんの前に飛び出す。

 そして長く触手を伸ばして手を繋ぎ、ブンブンと振る。

「きゅっきゅきゅー」

 楽しそうだ。

 って、いつの間にそんな親交度あげたんです?

 きなこ的にはデートはオッケーらしい。

 うーん。

「きなこの位置を確認できるようにしてくれるのなら」

と了承する。

しぶしぶだ。しぶしぶである。

「やたー! あざまっす、あざまっす。あ、見せたくないもの、見せれないものもあるから、ポイントたてるなら位置情報だけにしてくだしぁ」

 と、注文をつけてくるハネズさん。

 まぁ、きなこが無事ならそれでいいんので文句はない。俺はサテライトを起動してGPS……もとい、きなこにサテライトのポイントを仕込んで位置情報が把握できるようにする。

 それを確認してからハネズさんは大きく頷いた。

「じゃあ、きなこちゃん……ハネズさんのコレクションルームへご案内しよう……。ユウキとハルトきゅんはそこにいてねー」

 といいつつハネズさんはきなこを抱えて奧へと消えた。

「うっわ、超もちもち。きもちぃ~。きゅっきゅちゃん後で貰いに行こうかなぁ……でもなぁ……うーん……」

 なんて声が遠くなっていく。


……。


俺はそんな一人と一匹を見送りつつサテライトを起動した。

サテライトは瞬時に立体的にマップを表示してくれる。

……地下、か。

思ったより、この建物の地下は広いらしい。

って、あれ?

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