秘められた紅い血

志野実

一、はじまり

 今朝も雲ひとつなく、陽射しが耐え難いほど強い。

 小川に沿った小さな店の裏庭では、そんな暑さにも負けず、野菜がすくすく育っている。

 多くはこの田舎家の納屋で見つけた種から育てたものだ。


「よう、今日も例の薬、一袋ね」


 店に入るなり笑顔でそう言うのは、日本人のイッチだ。

 彼は冗談めかして薬というけれど、この店で食材と交換しているのは、薬と呼べるものは気休め程度のハーブの塗り薬などだ。メインで渡しているのは昼食用の携帯食。



 ふざけるイッチの笑顔は固く、明らかに心からのものではない。

 この小さな村に溶け込もうと焦っている様子が窺える。


 無理もない。この生活に慣れるまでは、まずは各々が孤独と、寂しさと戦わなくてはならない。

 他の住人が何人いても、それは変わらない。


 そして、生きていくために何かをしなくてはならないのだ。

 私はこうやって店番や庭の手伝い、イッチは釣りや農業の手伝いなどをし……。


 ちょうど一年ほど前に私がこの町にやってきた時は、働くことの意味すらわからない、ただの子供だった。


 一緒にいたユキさんが料理が得意だったので、この仕事を始めたけれど。


 そう、その時にはここには村すらなかった。緑あふれる山麓に、森や幾つかの古びた田舎家が点在しているだけで、突然……そう、突然、無人のこの地にやってきた私たちは、糧食を手に入れることすら事欠いた。


 そんな中、ユキさんは植物を集め、土を掘り起こし、食べられそうなものを探した。

 そしてそれらに火を通し、自分自身で試食をした。

 彼女は食べられるとわかったものだけを調理して、皆に渡している。


 こんなわけのわからない安心できない状況で、必ず食べられるものがあるこの店は、皆の溜まり場だ。

 今や二十人ほどになった村では、食材の入手もままならなくなってきて、最近ではイッチ達にも山菜採りなどを頼んでいる。

 村とは言っても、大きな一軒家とその納屋、そして店として使っている物置小屋だけで、全員が共同生活をしているのだ——。

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