ACT.44 ファースト・コンタクト(Ⅱ)
▽▲▽
その日の夜、いつものようにカイトたち三人が「CO-ROU・THE・CHRONICLE」にログインした時、カイトはふと、自分の視界に見覚えのないアイコンがポップしていることに気が付いた。
「ん、なんだこれ?」
「どうしたの?」
「いや、なんか『新着メッセージがあります』って」
「DMなんて珍しいですね」
この世界には、特定の人物にクローズドでメッセージを送れる機能がある。
送り先は、メニュー画面でユーザー検索をするだけでフレンドにのみ送信できる。
「拙僧さんからだ」
拙僧さんとは、カイトとレナのフレンドのクロスのことである。
一人称が“拙僧”である武僧のアバターをしているので、彼らからは親しみを込めてそう呼ばれていた。
そのDMには、こう書いてあった。
『至急、カイト殿たちと面会を希望している方がおられるので、このメッセージをご拝読したらば、折り返し願いたい』
「――だってよ」
「今日は急ぎのクエストないから、折り返してみれば? 急ぎらしいし」
そのメッセージにカイトは『了解、今ミナトにいるがそっちは?』と返信する。
すると、数秒もせず『了解』と返信が帰ってきた。
「――アイツ、暇なのか?」
「え、そんなにすぐに返事きたの?」
「何かよほど大事な用事があるのではないでしょうか?」
ミナトでそんな話を三人でしていると、遠く“門”の方からこちらに向かって全力疾走する影が。
「か、かかかかカイト殿ー!!」
その正体は案の定クロスだった。
クロスはカイトに突進するように急停止した。
「な、なんだいきなり!?」
ひどく慌てた様子の彼に、流石のカイトも動揺する。
「カイト殿、一体何したんですか!?」
「え、俺なにしたの!?」
「ちょ、ちょっと落ち着きましょう二人とも」
そんな二人の間にナギが入って落ち着くように促す。
「そんなに慌てて、どうしたのさ、拙僧さん」
「レナ殿、拙僧の名前は、“拙僧”ではなくクロスと――ってそれどころではなかった!」
いつものやりとりで若干冷静さを取り戻したクロスは、気をと要り直してカイトにこういった。
「あの【暗夜公忍軍】の代表が、カイトたちと面会を希望しておられるとかの
「【暗夜公忍軍】って、まず忍軍ってなんだ」
突如出てきた知らないワードと、知らない団体名に困惑するカイト。
そこに、カイトたちよりもプレイ歴の長いナギが助け舟をだ出す。
「忍軍というのは、五~百人で構成されるシノビの団体のことですね。ほかのゲームだと、“ギルド”とか“クラン”に近いでしょうか? そして【暗夜公忍軍】というのは、この“影の国”の三大トップ忍軍の一角で、戦績も知名度もかなり高い有名なところですね」
「うむ、その代表のライガどのは、あのジライヤ様に次ぐ実力者で【慧眼のライガ】などという渾名が付くほど有名なトッププレイヤーですぞ」
その説明に、なるほどとうなずくカイト。
ぶっちゃけ、そのすごさというものを、実力をみてもいないカイトはあまり実感として湧かないのではあるが、クロスの慌てぶりをみるかぎりすごい人なのだろう。
しかし、同時に疑問も湧いてきた。
「いや、そんな有名人が俺に何の用?」
「それが拙僧にもわからなくて慌てていたのです」
「ちなみにいつ会いに行けばいいんだ?」
「向こう曰く、いつでも構わないとのこと」
それもまた妙な話である。
格上の奴が格下であるカイトたちに会うなら、時間を指定して会いに来させるのが普通である。
それが、時間は何時でも構わないといっているということは、カイトたちにためにわざわざそちら側が時間を作るということ。
これは、ちょっと腑に落ちない。
そこでカイトはもう一段階頭を回転させる。
こういう場合が、成立する状況は、なんだと。
そして、ある答えにたどり着いた。
「緊急の、頼み事か?」
そう考えれば、全ての辻褄は合った。
有名なトッププレイヤーが、今ようやく中忍に達したカイトに何の頼みがあるのかはわからないが、向こうが急いでいるのなら、こちらもいかねばなるまい。
「拙僧さん、案内頼めるか?」
「無論である。あと、拙僧の名前は“拙僧”でなくクロス――」
「レナとナギは、なんか適当にクエスト行っててくれ!」
「ま、待ってよ、私も行く!!」
「じゃ、じゃあわたしも」
そういって、カイトたちは件のトッププレイヤー【慧眼のライガ】のもとへ向かった。
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