ACT.32 “CHRONICLE”の胎動(Ⅵ)
▽▲▽
カイト立案の作戦を共有したのち、三人はまた焼野原エリアに戻ってきた。
そして【“砲弾”の鉛兎】の生息地の近くに、今回の作戦に適した窪地を見つけ、そこで戦うことを決めた。
「【口寄せ:ギンコ】!」
作戦実行場所を決めたカイトは、【“砲弾”の鉛兎】をおびき寄せるために、ギンコを呼び出す。
呼び出されたギンコは相変わらず不服そうな、不機嫌そうな態度を隠さない。
しかし、今回のカイトはそんなことなど意にも介さずにギンコに命令を出す。
「ギンコ、少し離れたところにいるバカでかい兎をここに連れてきてくれ。お前そういうの得意だろ?」
そう聞くと、ギンコはふんっと鼻を鳴らして駆け出した。
「大丈夫ですか? 彼女はちゃんと連れてくるでしょうか?」
傍らに、自分の方の準備を終えたナギがやってきてそうカイトに問う。
「大丈夫だろ。 アイツは俺に試練与えることを前提に動いているんだ。こういう内容なら素直に聞くさ。――それより」
「はい?」
「本当なんだよな、ギンコの懐かせ方ってのが、自分より10以上レベルが上の相手を倒すってのは?」
「はい、わたしもカナタとコナタを懐かせるのにそうしました」
先ほど、此処へ来る途中でナギが、カイトに語った狐型妖魔の懐かせ方は、想像以上にハードだった。
「ただ、カイトさんのギンコは特別製みたいなので、基準のレベルがもう少し高いかもしれないです」
「マジか。――じゃあ、今回の兎狩りは是が非でも成功させなきゃな」
「ですね、流石に二つ名を狩っても従わない妖魔はいないと思いますし」
「よっしゃ! 俄然やる気が出てきた! レナの様子はどうだ?」
「完璧に仕上げときました」
そういってサムズアップするナギに答え、親指を立てるカイト。
やがてそんな話をしているうちに、向こうから迫る土煙が見えてきた。
「よし、スタンバイだ! 気張っていくぞ!」
▽▲▽
自身を挑発した白狐を追いかけていった【“砲弾”の鉛兎】は、行く手である者を見つけた。
ソレは、ちょっと前に自分に喧嘩を売ってシバキ倒した愚かなシノビの男だった。
その姿を見た瞬間、彼にとっての獲物は白狐じゃなくそのシノビに移った。
『シノビは優先的に殺す』それが彼ら妖魔の基本行動だ。
狙いをそのシノビに移し替えた【“砲弾”の鉛兎】は、疾風のごとく迫る。
そして自身が、そのシノビの間合いと思われる位置に入ったその時、そのシノビは、手に持った何かを思いっきり地面にたたきつけた。
瞬間、そこから煙が巻き起こり、あたりを白濁化させる。
これにはたまらず、【“砲弾”の鉛兎】も一時急停止する。
そしてその中で長い耳を立てて周囲を探る。
――目を奪われただけで、彼が不利になったわけではない。
むしろこの状況は、優秀な聴覚を持ち合われていないシノビたちの方が不利なのだ。
そしてその漂白された視界の中で、何か布の擦れる音を【“砲弾”の鉛兎】は捉えた。
あのシノビの居場所を掴んだ彼は、文字通り砲弾となりて走り出す。
――だがすぐに、巨大な何かに衝突したような衝撃とダメージを受け、弾き飛ばされた。
そして突如吹き飛ばされ、動揺した彼の口の中にナニカが放り込まれた。
▽▲▽
「よっしゃ、成功!」
忍者の十八番道具と名高い煙玉の煙が、滞留していた窪地からようやく晴れたその時、そこにいたのは、煙玉を発動させたカイトと、【“砲弾”の鉛兎】の口の中に例のアレを放り込んだナギ、そして――
「怖かった! めっちゃ怖かった!!」
巨大な盾を構え、【
今回カイトの立てた作戦を簡単に説明しよう。
まず、大盾を構えた状態のレナにナギが防御力上昇、重量上昇のバフを目いっぱい掛ける。
そしてその状態のレナとナギを、これまたシノビの十八番アイテムである隠れ蓑で隠す。
カイトは表にたって、【“砲弾”の鉛兎】をおびき寄せて煙玉で視界を奪い、わざと大げさにレナの隠れ蓑を暴いて音を立てる。
すると、巨大な壁となったレナに【“砲弾”の鉛兎】が向かって突進して来る。
そして自身のスピードと衝撃を逆に反動で喰らって大ダメージを受けた兎が吹き飛ばされ、その開いた口に、ナギが例のアレをぶち込むというものだ。
咄嗟に口に入ってしまった異物を吐き出そうとして、うっかり噛んでしまった【“砲弾”の鉛兎】は、噛んだ異物――瓢箪の中身を誤って接種してしまう。
その瞬間、【“砲弾”の鉛兎】の視界は歪み、思考はまとまらなくなる。
――そう、その中身は、なんと妖魔用の酒であった。
これを飲んでしまった【“砲弾”の鉛兎】はたちまち【酩酊】の状態異常を受ける。
「はっ、これでまともに突進もできないだろう!」
そうしてしまえば、カイトにとって奴はバカでかい愛玩動物程度にしかならない。
残りHPをゆうゆうと削って勝ちだ!
――カイトがそう勝利を確信したその時だった。
突如、空に暗雲が立ち込め、翡翠色の雷が【“砲弾”の鉛兎】を貫いた。
「なっ!?」
そしてその雷は、濁流のように――まるで鉛兎に力を注ぎこむかのように降り注ぎ続ける。
「え、な、なにが起こってるの!?」
混乱するレナの目の前で、鉛兎の頭上にポップアップしていた名前が、焼け落ちるように崩れ、その崩れ落ちた後ろに、新たな名前が現れる。
ただ一人、この事態を理解したナギは、急いで警告を発する。
「に、逃げてください! これは――これは、“予兆”です!!」
そして完全に焼け落ちたウインドウに新たな名前が掲示される。
――【“
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