ACT.25 気難しき銀光(Ⅳ)
▽▲▽
すこし後、彼らは再び草原エリアに出向いていた。
因みに、昨日のような事態防止のため、草原エリア内でも周囲にいる妖魔のレベルが低い場所である。
「【口寄せ:ギンコ】!」
カイトはそう言って。昨日と同じ手順でギンコを口寄せする。
するとまた口寄せ特有の光が現れ、そこから不機嫌そうな銀色の狐――ギンコが現れた。
呼び出されたギンコは、“お前に呼び出されるとか、マジ不服~”とでもいいたげな表情でカイトを睨む。
「俺だって不服だわ! ――だが、レナが立てた仮説を実証しなければと思ってな」
そう仮説の立証が今回ギンコを呼び出した理由だ。
「――じゃ、じゃあカイト、やってみて!」
「お、おう」
そう言ってカイトは恐る恐るといった感じで、ギンコの頭に手を伸ばした。
さっきなら即叩き落されていたその手は――問題なくその頭に届いた。
そして、撫でる――撫でれる。
「お、おお!」
相も変わらず、ギンコ自身は“わっちに触れるとはマジ不敬~”とでもいいたげな不愉快極まりないっていう表情を浮かべているが、それでも手を振りほどこうとしない。
これは確実な前進、変化である。
「やっぱり、私の仮説合ってたんだね!」
「いやまぁ、仮説というほどのものでもなかったけどな」
「ひどい!」
確かに、レナのアレを仮説というのはおこがましいかもしれない。
だが、有益な情報であったことには変わらない。
彼女の持ってきた情報は――
「『狐系妖魔は、
「あぁ、それで気に入らなければ、従わないなんて知らなかった」
――まさしくその通りであった。
さっきほどのあの行為は、ギンコがカイトを主と認めていなかったが故に、カイトを試したのだ。
そしてなんだかんだでクリアした為、ギンコは渋々カイトを主と認めたのである。
「ちゃんと主と認めたなら、今後は楯突くようなことはしなくなるんじゃない?」
「そっか、じゃあよろしくなギンコ!」
そう言って強引に頭をわっしゃわっしゃ撫でるカイトだが――
――がぶり。
「いってぇ!?」
その乱雑な扱いに業を煮やしたギンコがその手に噛みついたのだ。
そして“ざまぁ無いわね!”とでもいいたげな表情で嘲笑ったギンコはそのまま光に消えていった。
――今回は時間切れではなく、自発的に帰ったのだ。
「あーこれは、まだ認められていないってことなのかな?」
レナが思わず苦笑いをする。
おそらくギンコ的には、“頭撫でるまでは許すけど、それ以上は許さないし、なんなら主としてなんて全然認めてないんだからね!”と言ったところであろうか。
「――あの性悪狐め、いつか目にもの見せてやる」
そうやってカイトが謎の闘志を燃やしたその時――
「――あの、わたしで良ければ力になりましょうか?」
突然、そんな声が聞こえた。
「――誰!?」
カイトもレナもこの世界にきてしばらくたち、こういうエリアでは予想外のタイミングで妖魔からの襲撃があったりするのは知っている。
故に、エリアで何かする時でも常に周囲を警戒しているのだが――その声の主の存在には、決して気づかなかった。
「なっ、どこだ! 姿を現せ!!」
慌てて周囲を見渡すカイトだが、視界にはレナ以外誰も見えない。
おかしい、これは上位の【潜伏】を使われている可能性――いや、それならなんでそんなことを――
「め、目の前にいます!」
「――ん?」
そう謎の声に言われて、目の前をきょろきょろするカイトだが誰も――
「――カイト。下、下」
そこにあきれたようなレナの声が入る。
レナに言われたように首を下に向けると、そこには小柄な少女がいた。
白と紺を主体にした衣装、髪型はレナと正反対のショートボブ。
そして何よりカイトからしてみるととても小柄だ。
身長145cmくらいだろうか。
リアルとバーチャルで体格の差のないVRMMOでこのサイズということは、リアルも同じくらいなのだろう。
身長が185cm以上あるカイトとの差は40cmくらい、見つけにくいはずである。
「えーと、君は?」
普段威圧感があるらしいといわれるカイトは、目の前の見るからに小動物な彼女に、最大限優しそうに声をかける。
すると彼女は、少々怯えたような表情を浮かべながらもこう答えた。
「――は、初めまして、ナギといいます。あ、あのもしよろしければ、条件付きではありますが、狐系妖魔の手懐け方お教えしましょうか?」
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