ACT.18 凡人の牙(Ⅰ)
半壊した天守閣にて、スズハヤは静かに沈む夕日を眺めていた。
「いくらVRとはいえ、この光景には価値がある」
ニホンという国に強いあこがれを持ち続けていた彼にとって、この朽ちた城と沈みゆく太陽のコントラストは何物にも代えがたいものがあった。
そして、今の場所からどこにも飛び立てない彼にとっても、この
――ゆえに、彼は頂点を目指す。
自分の好きなモノでは、一番になるという当たり前の動機で。
彼にとってそれは当然のことだった。
幼いころから、周囲はあらゆることで彼に頂点であることを望んでいたし、彼もまたそれに答え続ける力があった。
あらゆる場面で絶対王者として君臨する彼には、いつしか好敵手と呼べる相手がいなくなっていた。
勝てる訳のない勝負を挑み続けるような意志を持つ輩を、スズハヤは知らず知らずのうちに根こそぎに心を折っていた。
孤独な絶対王者、それが現実のスズハヤだった。
――だが、先日状況が変わる。
先日、あるクエストをクリアした際に出会った、カイトというプレイヤー。
カイトは、あろうことかスズハヤに向かって宣戦布告した。
“ジライヤ杯で、お前を倒す”、そう言ったのだ。
その瞬間、スズハヤは歓喜した。
敵対心を向けられることすらなくなって久しい彼にとって、その向けられた感情は、非常に好ましいものだった。
だからこそ、彼は願う。
どうか、つぶれないでくれ。
何度僕に負けても、その心を保ってぶつかってきてくれ、と。
「ソレでこそ、僕はきっとより輝けるから」
そういって下の階に視線を向ける。
そこには先ほどまで4つのアイコンがあったが、それらはもうない。
あるのは、この天守閣を目指し、上ってくる一つのみ。
そして、その最後の一つが、今階段から姿を現した。
「――あぁ、やっぱり君だったんだね、カイト」
「よう、待たせたな」
そういって現れたオーソドックスなシノビ装束の青年・カイトの姿に、スズハヤは歓喜する。
「ねぇ、カイト。これが、今回の大会の最終決戦みたいだね」
「――そうか」
「なにか、戦いの前に話すこととかはあるかい?」
そう言うスズハヤの問いかけに、カイトは少し間をおいてこう答える。
「無いな。さっさと始めようぜ?」
そういってクナイを構えるカイト。
ソレに応じて腰の小刀に手を添えるスズハヤ。
「そうだね、拳で語るとしようか!」
――こうして、第三回ジライヤ杯の最終決戦は幕を開けた。
▽▲▽
カイトが、まずクナイをスズハヤの眉間に向かって投擲する。
弱点一転狙いのその攻撃を、スズハヤは上空に待機させていた【魔剣:喰鉄】で撃墜させる。
そこでスズハヤは半歩後ろに下がりつつ、少し横――自分の死角となっていた場所に視線をやる。
するとそこには、間近に迫りくるカイトの姿があった。
そう、最初に一投されたクナイは視線誘導のおとり。
本命である自分自身は、投擲と共に走り出し、死角を移動して接敵するというカイトがレナ戦でみせた技だ。
むろん、スズハヤにとっては、この技は初見である。
だが彼は、自身の持つ直感を持って、その技を見抜いた。
そしてもう一つの【魔剣:喰鉄 複製品】をカイトに差し向ける。
そのカイトに【魔剣:喰鉄 複製品】の刃が容赦なく食い込んだ――その時。
両断されたカイトは、煙となって雲散霧消した。
「――な!?」
そしてその煙の後ろから、【魔剣:喰鉄 複製品】を飛び越えて走る――カイトの姿が。
先ほどいたカイトは、彼の作り出した影分身。
彼は、二枚の手裏剣に対応するために考え出した、“おとりのおとり”であった。
そして接敵したカイトは、スズハヤの小刀の間合いの外から、クナイを更に投擲。
クナイは、スズハヤの小刀を構える右肩に深く刺さる。
「くっ!」
「――お前は、最強なんかじゃない」
カイトはそのまま、スズハヤの横を駆け抜け、背後に回って更に距離を取る。
そこでもう一度、静かにクナイを構えなおして、こう続けた。
「お前のその奥義には、お前も自覚していない2つの弱点がある!」
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