第24話 ラクリィの能力

 俺とフィオンが静かに聞く態勢に入るとリレンザは話し出した。


「これはまだ私が若く、好奇心が旺盛で世界のあちこちを見て回っていた頃の話だ」


 その日もリレンザは霧の正体や原因を見つけるべく、あまり人が立ち入らないような場所に来ていた。勿論外なので霧魔獣とも何度も遭遇したが、通常見かける霧魔獣など脅威にはならないほど、リレンザは腕もたった。

 木々が生い茂り、人が手を加えていないために歩きにくい道を進む。休憩を挟みつつ奥に歩いていくと、遂に出会ってしまったのだ、この世界の生き物の中で頂点に立つ存在に。

 考えずとも分かった。それが大型の霧魔獣だということに。

 後にフェンリルと名付けられることになるその生物は、15メートルの巨体で美しい毛並みと鋭く尖った牙を持ったハウンドに酷似した霧魔獣だった。

 勿論リレンザと言えど、そんなものに1人で勝てるわけがなかった。あるいは、異能というものがあれば勝てたかもしれない。

 結局、逃げることも出来ずに食われるしかないと思った。


 しかし、そうはならなかった。フェンリルではない別のがその場に現れたからだ。

 その者はリレンザと同じ人間でありながら、決定的に違う部分があった。

 髪の色だ。その者の髪の色は、普通の人間であれば黒や茶のところが白であった。

 どこかの国の王族かと思った。各王国の王族は代々特徴的な髪の色を引き継いでいる。

 金、緑、紫、赤。思い出してみるが白など記憶のどこにもない。


 男にしては長い髪を靡かせながらフェンリルと対峙するその者を、突然ことに思考が追い付かず眺めていると、突然男の姿が消えた。

 何が起こったか分からなかった。ふと瞬きをするとフェンリルの体は、まるで何度も剣で突き刺されたかのように傷だらけになっていた。

 そして、男の姿が空中に現れたかと思うと、フェンリルを剣で斬りつける。気持ちのいいくらい無抵抗に剣が斬り抜けたが、その体には傷1つ付いていなかったが。にもかかわらず、フェンリルはゆっくりと地面に倒れる。


「何が起こった・・・・・・」


 思わずそう呟いてしまった。だが仕方がなかろう、それほどまでに異常な光景であった。


「無事だったかい?」

「ああ」


 男はこちらの呟きは聞こえていなかったかのように話しかけていた。反射的に返事をしてしまう。


「間に合って良かったよ」

「その力は異能か? ああいや、礼がまだだったな、助かったよ」

「気にしなくていいよ、僕もたまたま通りかかっただけだからね。 この力についてだけど、ごめんね、詳しくは答えられないんだ。ただ、異能と呼ばれるものではないよ、似たものではあるけどね」

「そうか・・・・・・、いや、深くは聞かないでおこう」

「助かるよ」


 呟くと男は去って行った。






 ――――――――――






 ここでリレンザの話は終わった。

 何故この話を聞かせたのだろう、とは言うまい。


「最後の方にフェンリルを斬った力、ラクリィの能力と似ているな」

「そうだろう。まあ、中身が斬れているか確認していないから確実とも言えんが」

「だが、姿が消えたというのは? 俺はそんなこと出来ないぞ」


 異能というものは、持つ者が意識さえすればどういったことができるか理解することが出来るという。

 俺自身にもその経験はあった、その結果がソードミストである。あらゆるものを霧化させ、それを再び凝固させる。

 いや、待てよ・・・・・・ということは。


「どうしたラクリィ。何かわかったか?」

「少しな。なあフィオン、お前は自分の異能をどう理解している?」

「なんだ突然、まあいい。エレメントオペは私の半径1メートル圏内の元素を自在に操ることができる。まあ人の身で出来るのは限られているが」

「なるほど、俺には使いこなせそうにないな」

「一体何なんだ?」

「俺が異能を理解したとき頭に浮かんだのは、あらゆるものを霧化させ、それを再び凝固させるというものだ」

「――――――ああ、なるほど」


 どうやら気付いたようだ。

 あらゆるものを霧化させるというのであれば、武器等だけではなく生き物の体ですら霧化させることが出来てしまうかもしれない。

 このことを前提に、リレンザの話に出てきた男が自分のことを霧化させ、その間に移動することが出来るとしたら。


「できると思うかラクリィ」

「正直分からないな、可能性の話だ」

「なら試してみればいいじゃないか。何なら戦闘の試しに上で暴れている奴でも倒してこい」

「上に何かいるのか?」

「いるだろう、ここはどこだと思っている。フィオンを連れてってもいいぞ」


 一体リレンザの言っている奴ってのはなんなんだ? ミストライフの拠点の上にいるって言っても、何がいてもおかしくはないが。

 思い当たらず考えているとフィオンが呆れたように口を開いた。


「なんだラクリィ、3ヵ月で忘れてしまったのか? お前は何にやられて怪我をしていたんだ?」

「おま! それってまさか・・・・・・」

「お前たちメリユースの軍が殺し逃したヨルムンガンドだよ」










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