第4話 緊急招集
アロマと緑流亭に行った日から1週間程がたった。俺はいつものようにランニングに行こうと思い、外に出た。
「ん? なんだこれ」
ほとんど何も来ることのないポストに一通の封筒が挟まっているのが見えたので取り合えず手に取ってみる。すると側面に花に剣が刺さっている紋章が描かれていた、これはこの国を象徴するものだ。だとするならば考えられるのは王族からのものか、もしくは軍事的指令書の可能性がある。
流石にこんなものをランニングの後で見るなんてことは出来ないため、1度家に戻り落ち着いて読むことにする。
【命令権第1級指令書】
明日午前10時、この指令書を受け取った者は北区画霧魔獣対策本部に集合せよ。
注意事項として、このことは他言しないように。招集した理由については招集の場にて説明する。
メリユース軍所属レイラ・トレース中佐
読み終わり手紙を閉じる。今回は指令書の方だったようだ。
それにしても俺に指令書が届くなんて初めてだ。本来は何かあっても部隊長のみに指令書が届き、そこで話された内容、下された命令が部隊長からその部隊の兵士に伝えられる。
俺は部隊長ではないし、特別な立場にあるわけでもない。
アロマもこの指令書を受け取っているのだろうか。
しかし聞こうにも他言しないようにと書かれていればそれも出来ない。
あと気になるのは招集場所だ。
軍には、大きな括りが2つある。1つは他国の兵士と戦い、人と実際に命のやり取りをする人戦部隊。もう1つは領地付近に現れた霧魔獣を狩る対災害部隊。
霧魔獣対策本部というのは、対災害部隊が使う場所であり、俺は行ったことすらない。
やはり届け先を間違えたか? でもここまで俺に当てはまらないものを届け間違えるのも変だな。何かあったと考えたほうが自然か・・・・・・。
どの道受け取ってしまった以上行く以外の選択肢がないには確かなので心の準備だけはしておくことにした。
翌日、俺は早めに向かうことにした。周りの状況を見て事態を把握しておきたかったからだ。
会場に着くと、まばらだが部隊長が数名既に到着していた。
しばらく待つが来るのは部隊長のみ。やはり指令書は届け間違いだったかのかと思っていると、よく見た赤い髪が入ってくるのが見えた。
「アロマ!」
「え? らっくん!?」
もしかしたらと思っていたが、アロマも呼ばれていたなんて。
俺と同じくアロマも部隊長ではない。だが仮に何か大きなことが起きているなら、対災害部隊の中でも屈指の実力者であるアロマなら呼ばれていてもおかしくはないと思っていた。
「どうして人戦部隊のらっくんがここに? わたしも部隊長じゃないのに呼ばれて混乱してるのに」
「それが俺にもわからないんだ。さっきから来るのは部隊長だけだし」
「おー!そこにいるのはラクリィか!」
2人で混乱していると後ろから声を掛けられた。振り向いてみると俺の所属する部隊の部隊長であるリリックが立っていた。
「リリック隊長!? あなたまで何故ここに・・・・・・」
「それはこっちのセリフだ! おっとその前に、失礼しましたアロマ姫、話しているところに突然割り込んでしまって」
「あはは・・・・・・気にしないでください」
リリックの礼儀正しい態度にアロマは苦笑いしている。
流石に気さくな態度をほとんど会ったことがない相手に求めるのは無理があると思ったようで何も言わないみたいだ。
「しかし、まさかラクリィがいるとはな。そりゃあその辺の部隊長なんか目にならないくらいお前は強いが」
「やめてくださいよリリック隊長、他の部隊長に聞かれたらどうするんですか!」
「ははっ、そんなんだからお前はいつまでたっても出世できないんだよ。それより周りを見てみろよ、人戦部隊で呼ばれているのは俺だけじゃない、ほとんどの部隊長が呼ばれてるようだぞ」
言われて周りを見てみると、確かに人戦部隊で見たことのある人物が入ってくるのが見えた。
何か話しているのが聞こえたので聞き耳を立てて聞いてみたが、どうして俺たちが呼ばれただとか相変わらずその話ばかりだった。
「ま、その辺のことはそろそろわかるだろ。――――――ほら、来たぞ」
最後に部屋に入ってきたのは、長い黒髪を靡かせ顔つきは眼鏡も相まってとても知的に見える女性だった。
噂にもよく聞く人物レイラ・トレース中佐。知略にとても優れ作戦指揮などで数々の武勲を上げたと有名だ。さらに、魔法はあまり得意ではないものの剣1つで他を圧倒したという。
実際に会ったには初めてだが、すぐに只者ではないとわかった。
「皆、今日は集まってくれてありがとう。人戦部隊の者は混乱していることだろう、理由は後程説明する」
話をスムーズに進めるためだろう、質問が出ないように先に潰したようだ。流石に手馴れている。
「さて、いきなりだがさっそく本題に入っていく。―――――今回ここから西、石材の採掘がされている大地の裂け目と呼ばれる渓谷に大型の霧魔獣が現れた」
その通告の意味を理解出来た者はどのくらいいただろう。
俺の耳には「うそ・・・・・・」と呟くアロマの声だけが聞こえてきた。
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