第98話 断じて嘘ではない(嘘)

その後の話し合いで決まった事を要約すると3点だった。



1つ、3日後アルレイラ軍、ブリガンティス軍、ミッキー軍により人間界に進軍し、SSS級勇者クドウ、アールを戦場へと誘き出し、討伐する事。


2つ、クドウ、アールを討伐後は速やかに魔界へと撤退し、人間界に手出ししない事。


3つ、2つ目の条件を破る軍(ほぼブリガンティス軍に対してだが)が現れた場合残る2軍によって、条件を破ったその軍に総攻撃を加える事。



2つ目と3つ目の条件を渋ったのはブリガンティスのみだったが、流石のブリガンティスも状況が状況だけに渋々その条件を飲まされる事となったのだ。


話がまとまり、一旦準備の為に自分の城に戻る事になったアルレイラはセラフィーナに話しかけた。



「セラフィーナさん、情報提供感謝するわ」



「えっ、はい、どうも、こちらこそ」



セラフィーナは内心凄く動揺していた。


思い通りに事が進み過ぎた上にかなり大事になってきてしまったからである。


セラフィーナの目的はクドウとアルジールだけだ。


流石に魔王軍による人間界の蹂躙など望んではいないのだから。



(まぁ大丈夫よね? 最悪ユリウス様と他の3神の方々もいるし……大丈夫よね? うん、きっと)



セラフィーナは内心ではユリウスや他の3神の2人は人間界の壊滅など望んではいないと信じている。


だが、本当にそうなのだろうか?


だとしたらなぜユリウスはこれまで人間界に積極的に関わってこなかったのだろうか?


セラフィーナは数百年に渡ってユリウスに仕えてきたがユリウスの事をほとんど知らない。


知っている事と言えば、今は姿を見せなくなったこの世界を作ったと言われる創世神の神託を得てユリウスは神になったということくらいのものだ。


あとは高笑いを上げながらワインを飲んでいるくらいしかセラフィーナの印象にはない。


ユリウスがセラフィーナを拾ってくれた事には今でも感謝し、忠誠も尽くしている。


あの日、身寄りもなく力も何もなかったセラフィーナを拾い、力を与えてくれなかったらセラフィーナは今ここにはいなかっただろう。


だが、それでもセラフィーナはユリウスの事が分からない。



「……セラフィーナさん?」



知らず知らずの内に考え込んでいたセラフィーナの顔をアルレイラが覗き込む。



「え、あ、すいません」



「あなたも事情があるのですね。お互い頑張りましょう」



「あ、はい」



アルレイラがセラフィーナに笑顔で手を差し出すと、2人はきっちりと握手した。



「じゃあ、私はこれで」



そう言ってアルレイラは会議室を後にしていった。


その後、アルジール軍の魔人達やいつの間にか寝てしまったミッキーも配下の魔人におぶられて会議室を出て行き、会議室にはブリガンティス陣営の魔人のみが残った。



「おいっ、ハルピュイア! お前、さっきの話は本当なんだろうな?」



会議室に残されたブリガンティスはセラフィーナに先程の話の真偽を問う。


ブリガンティスとしても先程セラフィーナが言った魔王とアルジールを倒したのがその2人のSSS級勇者という話を疑問に思っていた。


ブリガンティスは魔王ギラスマティアと魔人アルジールの強さを身を以って知っていたからだ。


魔人アルジールはブリガンティスと長年に渡って争ってきた好敵手であり、魔王ギラスマティアに至ってはブリガンティスや魔人アルジールを凌ぐ化け物である。


そんな2人を倒す存在などブリガンティスからしてもそう心当たり多くはない。


だからこそブリガンティスは生前魔王ギラスマティアが居所を探していた3神の一人であるユリウスが返り討ちにした可能性が一番高いと考えていた。


だというのに、あの2体の魔人を倒したのはブリガンティスが侮っていた人間だったというのだからブリガンティスが疑問に思うのももっともだった。



「私が嘘を言ってるって言うの?」



セラフィーナはブリガンティスに堂々とそう言い返したがもちろん嘘だ。


というか今更嘘などと言えるわけがない。


だが、ブリガンティスにはセラフィーナの発言の真偽とは別に気になっていることがあった。



「……お前、ずっと思ってたが口の利き方がなってないな。——一回死んどくか?」



ブリガンティスの右手に凄まじい魔力が収束する気配を感じてゾデュスとガデュスに緊張が走る。


ブリガンティスは無慈悲な魔人である。


気分一つで配下の魔人は躊躇なく殺すし、無礼を働けば他軍団の魔人でさえ手にかける。


そういう点で言えばセラフィーナはまだ幸運だった。


ブリガンティス相手に無礼を働いて返答のチャンスを得たのだから。


ゾデュスは慌てて、セラフィーナにブリガンティスへの謝罪をするように促そうとしたがその前に——。



「えっ、まさかさっきの魔法で私を殺す気なの? 冗談でしょ? たかが第2級魔法で?」



完全に手遅れだった。


ゾデュスとガデュスの顔は真っ青となり、ブリガンティスの顔にはピクピクと青筋が走っていた。



「……そうか、なら防いでみろ。クソガキ」



そう呟いたブリガンティスの右手には会議の場でアルレイラが見せたものに近い凝縮された魔力が渦巻いていた。

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