第83話 3神なにそれ知らないわ

「……えっ? どうしてなの?」



俺が家に帰らないと言うとフィーリーアが絶望したような顔で俺を見た。


泣きそうな顔のフィーリーアに俺は言う。



「なんでって……なんで逆に俺がそっちの家に帰ると思ったの?」



魔王になってからはたまにしかフィーリーアの家というか宮殿には帰っていない。


それでも1年に一度はちゃんと帰省するようにはしている。


そうでもしないと「ギー君に会いに行くー!」とうるさいからだ。


別に1年に一度くらい帰るのは全く問題ないが、流石に魔王城にフィーリーアが来てしまうと色々な問題が発生する気がするのだ。



「だって帰るって……」



「人間界にね。今はそっちで暮らしてるの」



暮らしているとは言っても今の所はシラルークで単なる宿屋暮らしをしているだけなのだが、もう魔界に戻るつもりもないので、人間界で暮らしていると言っても間違いではない。



「うー、またギー君は母さんを置いて遠くに行っちゃうのね」



フィーリーアは恨めしそうに俺も見ているつもりなのだろうが、俺から見ればただの子供に甘える親バカにしか見えない。


確かにフィーリーアの宮殿は一応魔界にあるので、距離的に言えばシラルークの方が断然遠くなるのだが、フィーリーアにとってさほど距離は意味がない。


来ようと思えば毎日でも通える距離なのだ。——とはいえ毎日来られると滅茶苦茶困るが。



「まぁまた今度帰るよ」



「そんなこと言ってたまにしか帰ってこないくせにぃー」



そう言いながらフィーリーアは俺の頬を突きまくってくる。


俺は面倒くさそうになりそうなので、話題を変える為に天界に逃げ帰ったユリウスの話をすることにした。



「そういえば母さんはユリウスが俺の転生を手伝った事に疑問持っていたみたいだけどなんで?」



神であるユリウスならば転生アイテムくらい持っていてもおかしくはないだろう。


少なくても俺はそう思っていた。



「あぁ、えーと、転生というのはね。ギー君が思っているほど簡単な事じゃないのよ」



フィーリーアはそんな事を俺に言うが俺もそんな簡単な事だとは思っていない。


だからこそ俺は部下から聞いた3神の一人であるユリウスがいる魔界の神山まで転生アイテムを奪いに——いや、違った。譲ってもらいにわざわざ出向いたのだ。


更にフィーリーアは話を続ける。



「それこそ神が直接魔法を行使するか、時間をかけて転生アイテムを生成するしか方法はないのよ」



うん。それはそうだろう。


だから俺はユリウスを訪ねたのだ。



「いや、だからユリウスは一応3神の一人なんだからそれが可能だったんじゃないのかな?」



俺がそう言うとフィーリーアは笑いを堪えられなかったのかクスクスと笑った。



「ふふふ、アレが神ねぇ。私が知る神はあの子ただ一人よ。いつからいるのか知らないけど、たかだか数百年程度しか生きてない者が神とは私には思えないわ」



神の定義を俺は知らないが、数百年前に俺の前任であった前魔王が初代勇者によって討たれた直後に現れたというユリウスを含む3神はフィーリーアにとってはまだまだ若輩者なのだろう。



「じゃあ、3神ってなんなのさ?」



「そんなこと私が知るわけないじゃない。私も知ったのはついさっきなのよね。単なる神を自称する痴れ者の集まりかもしくは……」



「もしくは?」



俺が聞き返すとフィーリーアは少し考えた後、頭をブンブンと振った後、小さな声で言った。



「……なんでもないわ」



なんでもなくないな。——と俺はそう思ったが、フィーリーアが俺に話さないのであれば、話したくないかもしくは話せない話なのだろう。


潤んだ目で甘えた声を出しつつ、聞き出せばいけなくもない気もしたが、それは俺のキャラではない。


他にも気になるワードがちらほら聞こえた気がしたが俺はこの話は忘れる事にして、転生後の俺の話をすることにした。


アルジールがバカやった話にアルジールがバカやった話、最後にアルジールがバカやった話等々だ。


あれ? これまでの俺の冒険を要約すると馬鹿がバカやった話ばっかりだな。


そんな主人公であるはずの俺を差し置いたアルジール(バカ)の馬鹿な冒険の話をフィーリーアは楽しそうに耳を傾け聞いていたのだった。

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