第73話 ごそごそ

その後、ギルドマスター達はエレメントドラゴン達がシラルークへの攻撃の意思がない事を確認して、色々な話をした。


永い睡眠から目覚めた聖竜が突然絶叫を上げたかと思うと、住処である竜の国を飛び出していった事。


なんでもギー君が度々勇者の襲撃を受けていたことは本当の事らしい。


ギルドマスターが「それは竜ですか?」と尋ねたがなぜかアクアにお茶を濁らされてしまった。


もしかしたら、ギー君はエレメントドラゴンではないのかもしれない。


事情があって話せないのだろう。


アクアが露骨に言いづらそうな顔をしたので、ギルドマスターは追及しないことにしたのだ。


後ろから都市長がギャーギャーと何かを言う声が聞こえたが、茶髪イケメンことガイアがきっと睨みを利かせると黙り込んだのでギルドマスターは何も見なかったことにした。


今後、聖竜がシラルークを襲うという事はないのか? という事もギルドマスターはアクアに尋ねると、聖竜がユリウスさえ倒しさえすれば、ひとまず聖竜の怒りは収まるだろうという事だった。


これに対しても都市長がギャーギャーと騒ぎ立てた。


が、やはり茶髪イケメンことガイアに——以下省略。


ギルドマスターもこれには少し思う事があったが、都市長ほどの熱狂的なユリウス教徒でもない。


法王はどうかとちらっと確認してみたが、何やら考え事をしているようだった。


偉い人が考える事はギルドマスターにはよく分からないのでこれもスルーすることにした。


というか、ギルドマスターが何か言った程度であの戦いに口出しなどできるわけがない。


試しに「聖竜がユリウス様に敗れる可能性はないのですか?」とギルドマスターはアクアに聞いてみた。


神ユリウスはなにやらふざけた神に見えたが、仮にも3神の一角である。十分に聖竜に勝利する可能性もあるのではないのかと考えたのだ。


しかし、それを尋ねられたアクアはポカンとした顔でギルドマスターを見た後——



「ふふふ、ギルドマスターさんはご冗談がお上手ですね」



と笑って返された。どうやら冗談かと思われたらしい。


更にこれにも都市長が——以下省略。


アクアは再度頭を下げると懐からジャラジャラとギルドマスターが見たことのない量の金銀財宝を取り出し地面に置いた。


あの細身のどこから出したのか不明だが、町の修復には十分過ぎる量だった。


これまで怒りっぱなしだった都市長が初めて笑顔になった。


都市長は部下を呼んで、金銀財宝を運ばせていく。


この状況で横領などはないだろうが、一応都市長の信頼する部下数名をつけてだ。


更に関係ない話からこれからの事に関する事などをギルドマスターは話し合う——。




その光景をを陰から覗いている冒険者達の姿があった。



「……クドウ様、なぜ出て行かれないのですか?」


「…………。」


「アールさんの言う通りです。出ましょう」


アルジールとクドウとアリアスである。


更に後ろには『魔王』と『光の剣』の面々も集まっていた。



「待て、アリアス。クドウさんには考えがあるのだ。例えば……あの竜達が実は敵でクドウさんはあの竜達の隙を伺っているのかもしれない」



「なんと! 流石です! クドウ様! なんというご慧眼! 私もまだまだ修行が足りませんね!」



「えっ、そういう風には見えないですけど……」



ハイ、アリアス君、大正解。流石は勇者、大した慧眼だ。


ていうか実は敵ってなんだよ?


別に敵なら偽る必要ないよ?


だって、彼らが敵ならシラルークなんか既に10回は消滅しているもの。


だが、俺が出れない理由なら確かに存在する。——正確に言えば出たくない理由だが。


とはいえ、いつまでもこのままというわけにもいかないのも確かである。



(よし!)



クドウは革カバンの中をゴソゴソした。


正確には革カバン内の異次元空間をゴソゴソしたが正しいがそんなことは今はどうでもいい。


クドウは革カバンの中からあるものを取り出した。



「なんですか? それ?」



ゴソゴソを見ていたアリアスは俺に言う。



「仮面です。カッコいいでしょう?」



「あ、いや、そういう事を聞いているのではなく」



アリアスがどう言おうとこれは仮面である。


特に特殊効果などがあるわけでもない単なるスタイリッシュな仮面なのだ。



「こ、これはまさか伝説の……?」



「そうだ、アール。よく気づいたな。これは第68話『秘密のあっくん』で登場するあの魔剣士あっくんが敵の目を欺く為につけていた例の仮面だ」



「おぉ、凄まじい魔力を感じます!」



「えっ、何も感じませんが? ていうか第68話ってなんですか? あっくんって誰?」



アリアスがなんか言った気がするが、きっと気のせいだろう。間違いない。



「ふっ、では行くとしましょうか、みなさん」



俺がそう言うとみんなで仲良く大広場へ向かう事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る