第61話 まだ終わってねぇぞ!

目の前に突如としてふっ飛んで来たガデュスを見てゾデュスは呆然としていた。



「……おい、ガデュス、お前なにしてる?」



ゾデュスが呼びかけるが、ガデュスはピクリとも動かない。


魔力の流れは感じるので死んでいるわけではないが、気絶しているようだった。


それでも現在ゾデュスを戦闘の真っ最中である。このままにしておくわけにはいかなかった。


ゾデュスは気絶しているガデュスに声をかけながら揺さぶるとゾデュスはなんとか目を覚ました。



「あ、兄貴ぃ~? ここは?」



「何寝ぼけてる? お前ここまで吹き飛ばされてきたんだぞ。誰にやられた? 勇者か?」



目の前のクドウはE級冒険者がなんだと抜かしていたが、ガデュスをここまで痛めつけられる存在など普通勇者くらいしか考えられない。


ガデュスの身体がびくっと震えた。



「E級冒険者だ、あいつ化け物だ! 逃げようぜ! 兄貴ぃ~! アレは俺達の手に負える相手じゃない! 部下達も勇者1人に全員やられちまったぁ——!」



ガデュスはそう言いながら今の周囲の様子を見渡していた。


周りには倒れている魔人達。生きているかどうかは分からないがどう考えても戦闘を継続できる様子ではない。



「……まさか兄貴たちも?」



ガデュスの周りには倒れている魔人達の他にほとんど無傷の知らない冒険者達が3人立っていた。


つまりゾデュス達もまたたった3人の人間達にほぼ全滅の状態に追い込まれていたことになる。



「なんなんだぁ~! こいつらはぁ~!」



ガデュスとゾデュスがそんな会話をしていた時、森の奥からアルジールとアリアス達がやってきた。


4人共ほとんど無傷だった。


アルジールはクドウの姿を確認すると、傍まで駆け寄っていく。



「クドウ様、お待たせいたしました。雑魚共の殲滅完了いたしました」



「おー、ご苦労様。ガデュス君強かった?」



クドウがアルジールにそう言うと、アルジールがクスッとした笑みを溢した。



「お戯れを、クドウ様。私があのような雑魚に苦戦するなどあるはずがございません」



実際は当初少し苦戦していたのだが、結果を見ればアルジールは1つの傷も受けていなかったので完勝と言っても間違いではない。


そんなクドウ達の会話にガランが入ってきた。



「クドウさん、アールさんマジパネェっス! めっちゃ助かったっスよ。アールさんがガデュスでアリアスが魔人全員相手してくれたおかげで俺なんもしてねぇっスよ」



「そうですか、それはよかったです」



アリアスはやはりめちゃくちゃ強かったようだ。ゾデュスとガデュスに劣るとはいえ配下の魔人もなかなかの強さだった。



どのように戦ったかは知らないが全員を同時に相手をして傷一つ負っていないのは見事というしかない。



(ていうかガラン、お前も手伝えよ)



アリアスからニア死守の指示を受けていたことを知らないクドウは密かにそう思ったのだった。



一方、アリアスとニアはシステアと話を始めていた。



「システアさん、お疲れ様です」



「うむ、そちらも無事だったようじゃな」



3人はお互いの労をねぎらった後、アリアスはこんなことを言い始めた。



「システアさん、僕はアールさんを勇者に推薦しようかと思っています」



アリアスが他人を褒めるのは珍しい事だった。それも勇者に推薦などとは滅多なことではない。



「アールはそんなに凄かったのか?」



「凄いなんてものじゃありませんよ! ガデュスって名の強い魔人を第2級魔法と第3級魔法の怒涛の攻撃でそれはもう一方的に!」



アリアスはかなり興奮した様子で如何にアルジールが凄かったのかを解説していく。


アリアスがここまで言うのだ。アルジールは本当に強かったのだろう。


だが、システアはシステアで言いたいことがある。



「ダメじゃ、ダメじゃ! 勇者はクドウさんになっていただく。あの人こそ真の勇者。あの人こそが人間界を救う救世主となるのじゃ!」



現勇者アリアスを前にシステアはそんなことを言いだす。


だが、アリアスも負けてはいなかった。



「アールさんが勇者になるんです!」



「クドウさんじゃ、そもそも『魔王』のリーダーはクドウさんじゃろう? パーティーリーダーがA級冒険者で一パーティーメンバーのアール殿が勇者などありえるか!」



「ぐぐっ……、よし、ではこうしましょう。僕らのパーティー全員でクドウさんとアールさんの勇者推薦を全力で行いましょう。あの人の勇者昇格を認めない冒険者協会なら僕はこっちから願い下げですよ」



「む、まぁいいじゃろう。ゴリ押しじゃな? まぁこれだけの功績じゃ。冒険者協会も無下にはできんはずじゃ」



二人の意見がまとまり、アリアスとシステアの視線は傍で話を聞いていたニアへと向かった。



「えっ、はい。私もご協力させていただきます」



一種の脅しだったが、ニアとしてもアルジールの戦闘をその場で見ていた一人である。


あれならば勇者として認めても何ら問題はないとニアも納得していた。



「あとはガランの奴じゃな。まぁあやつはアール殿と仲も良い。反対はせんじゃろう。その場でアール殿の戦いを見ていたようじゃしな」



「えぇ、僕からそのように伝えておきます」



そうしてアリアスとシステアの勇者推薦合戦が終焉を迎えた所で——。



「おいっ! てめえらいつまで談笑してやがる! 俺達を無視するんじゃねぇ!」



完全に意識を取り戻したガデュスと共にいたゾデュスが大きな声で怒鳴り声を上げたのだ。



「あっ、そういえば、まだ終わってなかったな、すまん」



「とはいっても、1人は虫の息。もう片方はほぼ無傷ですが……雑魚ですね。私が掃除してまいりましょうか? クドウ様」



知らない間に次期勇者候補となっている2人であるクドウとアルジールの弁だ。


2人がそんな事を言っている中、システアはかなり後方にいるであろう『巨人殺し』ギランディーに連絡を取っている。



「おぉ、ギランディーか。すまん、すまん。もう終わったみたいじゃから、そっちは適当に撤収してもらって構わんぞ。……なに? 報酬じゃと? まぁ適当に成果をでっちあげてそちらにも報酬と功績が行くようにしておくから心配するでない。じゃあの」



そう言ってシステアは魔法通信を切った。


「てめぇらぁ! 舐めやがってぇー!」



完全に舐め切られているゾデュスはクドウ達に向けて怒りの声を上げたのだった。

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