第172話 決戦の地(5)
「グレン坊、どうして出てきた! お前は引っこんでろ!」
傷だらけのゴリアテが、地面からよろよろ起きあがり、俺の進路に立ちふさがる。
鬼のような顔が、こちらを見下ろす。
「あのデカイのをなんとかしないと、みんなやられちゃいますよ。俺がなんとかしてみます」
「馬鹿を言え! 相手は『不死獣』、しかもドラゴンだぞ!」
「俺、一度、その『不死獣』ってのやっつけた事があるんですよ」
「なんだと!?」
あれ? この人、クレタン
「とにかく、このままだと、俺たちもミリネもあいつに喰われちゃいますよ」
娘の名前は、大男の動揺を誘ったようだ。
ゴリアテの目が一瞬泳いだように見えた。
そして、すがるような表情で俺を見た。
「……力を貸してくれるか、グレン?」
この期におよんで、やっと「グレン坊」から「グレン」に昇格したか。
「ええ、一緒にあいつをぶっ飛ばそうぜ、ゴリアテ!」
俺たちは肩を並べ前へ出ると、ルシルとマールの横に並んだ。
「ゴリアテよ、盾役がまっさきに戦線離脱するのは感心せんのう!」
マールが左手でアゴひげを撫でながら、そんなことを言った。
「ふっ、コイツを呼びに行ってただけさ!」
丸太のようなゴリアテの腕が、俺の背中にぶつかる。
痛いよ! 敵と戦う前に、これで死ぬって!
「グレンよ、お前、戦うのじゃな?」
うつむいたまま、ルシルがチラリとこちらを見る。
「ええ、あの赤い目のドラゴン、めっためたにしてやりましょう!」
ドラゴンは、その鼻先で枢機卿が金色のワンドを振っているからか、足を停めている。
「どうした、不死のドラゴンよ! 私のことが分からぬか! 私は、お前の
枢機卿の呼びかけに、ドラゴンは頭を小さく上下させている。
「あのドラゴン、なんか術式で縛ってたんだろうけど、その効果が消えてるみたいだね」
いつの間にか俺の横に立っていたラディクが、そんなことを言った。
え?
じゃあ、あの枢機卿がしてることって……。
ガブンッ
そんな音がしたと思ったら、枢機卿の姿が跡形もなく消えていた。
ドラゴンに喰われたのだ。
ギャウウウウウーッ!
獲物を捕らえた喜びからだろうか、ドラゴンはまるで錆びた門が開くような声で鳴いた。
「ひいっ!」
ガブン
「わあああ!」
ガブン
「キャー!」
ガブン
ドラゴンの大きな口が開くたび、次々と白ローブが喰われていく。
「みんな、行くよ!」
ラディクの声に、『剣と盾』の仲間が答える。
「ほほほっ、長年の研究を試せるわい!」
賢者マールが笑っている。初めて見えたけど、彼ってキラキラおめめだね。
「久々に腕が鳴るぜ!」
ゴリアテが手のひらで大盾を叩くと、ゴーンといい音がした。
「カフネ……馬鹿者が! 新しく開発した私の魔術が見られるチャンスじゃというのに!」
少しうつむいていたルシルが顔をあげると、彼女らしい凛とした表情があった。
よし、俺も何か言っておこう!
「ぶちかましてやる!」
「「「おー!」」」
いや、そういうの、俺の言葉じゃなくて、ラディクのでやってよ!
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