俺のスキルは【中二病（ｗ）】 なぜかスキルに草が生えてるんですが？

第143話 疾風

　その日、俺はルシルに連れられ、ワーロックの冒険者ギルドを訪れていた。

　宿から歩いて五分もかからず到着したギルドは、かなり立派な建物だった。

　二階建てだが、間口が広い。ゆうに三軒分はありそうだった。

　両開きの表戸を潜り、ルシルが中へ入った途端、ざわついていた待合室から音が消えた。

　驚いた表情で動きをとめた冒険者たちを気にもかけず、ルシルは受付カウンターへ向かう。

　受付に並んでいた冒険者たちは、さっと横へ動き、彼女に道を空けた。

「な、な、な、なんでしょうか？」

　若い受付の女性は、胸の所に金属製の飾りを着けていたが、震えているのかそれがカチャカチャ音を立てた。

「掲示板を使いたい」

　うわ、ルシル、自分の名前も言わないのか。

　受付のお姉さんは、彼女が誰だかわかってるみたいだけど。

「け、掲示板の利用は一週間銅貨五十枚ですが、金ランクの方は無料です」

「分かっておる。書いた内容は、全ギルドの掲示板に掲載してくれ。では、使わせてもらうぞ」

　ルシルは、奥の壁に掛けられた、小さな黒板のようなものに近づくと、文字が書かれていない空きスペースをワンドで指した。

　無詠唱で生じた水が、その部分を濡らす。

　続いて、ワンドの先から吹いた風が、あっというまに濡れた黒板を乾かす。

　黒板の汚れを落としたってわけね。

「うむ、いいじゃろう。グレン、私が言うとおり書け」

「いや、俺、文字ってほとんど書けませんよ」

「なに！　ちっ、役立たずじゃな！」

　おい、あんた、字を書かせるためだけに俺をここまで連れてきたのか！？

　結局、ルシル自身が伝言を書いた。

「『愛し子は、緑の葉の下に、ワーロック』ですか……」

　緑の葉ってなんだろう？　もしかして『翡翠亭』の事かな？

「グレン、お前、読むことはできるのか？」

「いや、そんな古めかしい言い方、読めるわけないじゃないですか。書くとき、口に出してましたよ。それより、自分の名前、書かなくていいんですか？」

「いいのじゃ。伝えたい相手は、私の筆跡を知っておるでな」

　そうなると、ここで書いたままの文字が、他のギルドの黒板にも写されるんだね、きっと。

　なるほど、確かに親しい相手なら、それでいいかもしれないね。

「誰に向けた言葉ですか？」

「それはな――」

　ルシルの言葉を誰かの声が繋ぐ。

「私だよ。久しぶりだね、ルー姉（ねえ）！」

　振りむくと、どこか見覚えがある女性が立っていた。

　二十五才くらいだろうか？

　両耳の先が少しだけ尖っている。

　革鎧をつけたスレンダーな体は、日本なら「モデル体型」と呼ばれるやつだ。

「カフネ！　この街にいたのじゃな！」

　あー、そういえば、コルテスが持ってたカードの絵に描かれてた人だ。

　有名な盗賊で、二つ名は、確か『疾風』だったね。

「この坊やは？」

　カフネは、なんだか胡散臭そうに俺を見ている。

　俺は、失礼なこの女性を無視することに決めた。

　だけど、ルシルのおせっかいが、即座にそれを台無しにする。

「どうして黙っておる？　こやつは、グレンじゃ」

「へー、グレンか。じゃあ、グー坊かな」

「グレンです！」

　しまった！　思わず反応してしまった。

「グレン君、よろしくね」

「……」

　ルシルは黒板の文字を水魔術で消すと、俺とカフネを残したまま受付へ向かった。掲示板利用の依頼をとり消すのだろう。

「ねえねえ、君、どうしてルー姉と一緒なの？　依頼人の子供さん？　あ、分かった！　護衛を依頼した商人さんの子供でしょ？」

　どうやら、この女、とことん俺を子供扱いしたいらしい。

　俺は何をきかれても黙っていた。

　ルシルが受付から戻ってくる。

「ルー姉、この子、すっごく無口だね」

「そういうヤツじゃ」

　いや、ルシルの前で無口だったことって一度もないから！

　このカフネとかいう女、マジむかつく！

　美人だけに、よけいにね！