第141話 嬉しい再会

「ミストちゃんも元気だった?」


 テーブルに座り、宿の人に頼んだお茶を何杯も飲んだ後、リンダがミリネに話しかけた。

 あー、そうだった。

 ミリネは、彼らの前では「ミスト」って偽名使ってたんだよね。

 だけど、もう本名でもいいでしょ。


「私、ホントはミリネっていう名前なの」


 ミリネも俺と同じことを考えていたようだ。


「えっ、そうだったの? じゃ、これからはそう呼ぶね!」


 リンダの丸顔がほころぶ。ホントいいだよね。

 

「それより、俺たちがここにいるってどうして知ってるの?」


 さも旨そうにお茶をすすっているルークに尋ねてみる。


「コレンティンギルドでプーキーさんって名前の人から依頼が出てたんだ。ボク、クレタンの『プーキーの魔道具屋』を思いだしちゃったよ」


 いや、それ、本人ですから。


「最初、この依頼は『剣と杖』っていう有名なパーティが請けおう予定だったらしいんだ。でも、ボクたちがピュウのこと知ってたから、リーダーのコウチャンさんが、こっちに仕事を譲ってくれたんだ。報酬、信じられないくらい高いんだから」


 へー、コウチャンさん、俺のために気をつかってくれたのかな?


「私なんか、憧れのメイリーン様と握手してもらっちゃった」


 イニスが胸の前で手を合わせ、うっとりとした表情でそう言った。 

 少女たちを次々と魅了するメイリーンさんって、もしかして魔性の女?


「ねえねえ、それより、あの後、どうしてたの?」


 俺の隣に座ったリンダが、その体を押しつけてくる。腕に当たるものが、ちょっとぷにぷにしているが、なんか固い。


「あ、みんなまだ装備着けたまま?」


「うん、ほんのたった今、着いたばかりだから」


「じゃあ、ここでお風呂に入って着替えたら?」


 そう、この超高級宿は、なんとお風呂があるのだよ! 


「ははは、いくら依頼の報酬が高いからって、ここは無理! たぶん、一泊銀貨十枚くらいするんじゃないかな?」


 おいおい、一泊十万円もするのか、この宿!


「金の心配はするでない」


 あ、この声は……。


「「「ルシル校長!」」」


『絆』の四人が声を揃える。

 ルシルは、彼らが通ってた冒険者学校の校長だからね。


「グレンが言うとおり、お前たちもここへ泊るがよい。積もる話もあるじゃろうからな」


 お人形のようなフリル付きの黒いドレスを着た、緑髪の小柄なエルフが、意味ありげに微笑む。

 この人、絶対に何かたくらんでる!


「にぎやかだのう」


 マール老を先頭に、ゴリアテとラディクが食堂に入ってくる。

 

 ガタン


 ルークたち四人が、椅子を床に倒して立ちあがる。

 なんか、四人とも立ちあがった姿勢のまま固まってる。

 ルークなんか、顔の前で手を振っても反応しないし。


「も、もしかして『剣と盾』のみなさんですか?」


 あれ? コルテスってこんなしゃべり方だったっけ?


「そうだけど、君たちは?」


 ラディクの声を聞いたルークが、そちらに跳びだそうとして、自分が倒した椅子の脚に膝をひどくぶつけ、うずくまってうめいている。

 なにやってんの?


「ああ、本物のラディク様‼」


 イニスが杖を両手で握りしめ、ハート形の目になっている。

 お前は有名冒険者なら誰でもいいのかい!

 だけど、『絆』のみんなって、なんでラディクが勇者だってわかったんだろう?

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