第47話 錯乱
ダンジョン第二層のボスであるコボルト五匹を倒し、第三層に降りた。
足早に通路を進み、コルテスの背中が見えてきたときには、張りつめていた緊張が解け、膝が抜けそうになった。
クレタンダンジョンは、下層に行くほど通路が入り組んでいて複雑になるが、各層にボス部屋は一つしかない。
つまり、どんな経路を選んでも、ボス部屋の前で合流することになる。
それは、俺がみんなに追いつくにはいいが、例の化けものがこちらを狙っているなら、かえってヤツに有利になりかねなかった。
ボス部屋の前で待ってさえいれば、「獲物」がやってくるのだから。
その上、ダンジョンの通路は、三人が並んで戦うのがせいぜいだ。
一対三というのは、有利に思えるが、あの化けものと直接戦った俺には、そんなことでなんとかできる相手とは思えなかった。
「グレン! よかった! 無事だったんだね」
俺の顔を見たルークが、心底ホッとしたという表情を浮かべた。
「はあ、はあ、なんとか、はあ、逃げてきた」
「アレはどうなった?」
「たぶん、追ってきてる」
「……ちょっと、こっちに来てくれる?」
ルークに連れられ、何人かの生徒たちを追いこす。どうやら第二班と合流できたみたいだね。
集団の先頭まで進むと、兜を頭に乗せた大柄な少年がいた。腰に差した長剣から見て、戦士タイプだろう。
「彼は、リッチモンド。『疾風の虎』のリーダーだよ。リッチー、彼はグレン。一年生だけどボクたちのパーティに参加してる」
「ああ、お前がグレンか。この前あった『赤い剣』の事件、噂は本当か?」
「今はそんな話している時間はないと思うけど」
「そうだな、ルークが言うその化けものってどんなやつだ? 姿は見たんだろ?」
「戦った」
「そうか、お前が戦えるんならなんとかなるな」
「いや、そう簡単にはいきそうもない」
「なんでだ?」
「ヤツは心臓を貫いても死なないんだ」
「おい、どういうこった、そりゃ?」
「剣で切りつけても、傷がすぐに塞がってしまう。血も出ない。スピードはそれほどでもないが、力がもの凄い」
「マジかよ……」
「とにかく、第一班と合流して作戦会議をしよう」
こういうとき、ルークのように落ち着いた人がいると、ホント助かるね。
「よし、そうするか。おい、みんな! 先を急ぐぞ!」
リッチモンドの大声が通路に響いた。
◇
男たちは焦っていた。
下層に逃げてきたのはいいが、彼らが追いこしたきた、冒険者学校の生徒たちに追いぬかれてしまったからだ。その中に彼らの標的がいるかどうかなど、もうどうでもよくなっていた。
化けものから命からがら逃げることで、神経をすり減らしていたのだ。
そして、とうとうここまで来て、足が動かなくなっていた。
「はあはあ、くそう、誰か、はあ、スタミナポーション、はあ、持ってねえか?」
先頭を行く男が振りかえる。
憔悴した男たちの誰一人、それに答えなかった。
中にはスタミナポーションを持っている男もいたが、彼はそれをすでに自分で使いきっていた。
グキリ
後ろで異様な音がして、全員が振りむく。
最後尾にいたはずの男が消えている。
ポキポキ
パキパキ
闇の中から、枝を折るような音が聞こえてくる。
「「「ひ、ひいいいーっ!」」」
男たちが悲鳴を上げたのは、暗闇に光る、紅い目を見たからだ。
そいつは口に何かを
ある者は手と膝で地面を這い、ある者は腰が抜け地面に座った姿勢のまま、化けものから遠ざかろうとする。
「ちくしょー!」
とり乱した男が、化けものに剣で切りかかる。
紅い目が光ると、それは剣を素手で受けとめた。
「ケケケケケ」
口から何かをボトリと落とした紅目の化けものが、まっ白な歯を剥き笑うような声を立てた。
男たちは武器を抜き、魅入られたようにソレに襲いかかった。
しばらくして、戦いの音がやむと、血に濡れた通路の床を踏むぴちゃぴちゃという音と共に例の声が聞こえてきた。
「ケケケケケ」
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