第6章6幕 陽動<diversionary>
訓練場の扉を開けて中に入った私は担いでいた盗賊をぽいと地面に捨て、声を上げます。
「先ほど私の部屋に盗賊が侵入しました」
すると訓練場の内部がドッとうるさくなります。
「まだ他に侵入してくる人がいるかもしれません」
私がそこまで言うと先ほどの隊長らしき人物がこちらにむかって歩いてきます。
「チェリーだったな? それは本当か?」
「事実です。おやじがどうの言っていました」
「そうか。皆聞け!」
隊長が大きな声をあげると訓練場内部が少し静かになります。
「旦那様が外出中ということで私兵の半数が護衛中だ。残っている我々だけでお屋敷をお守りするぞ!」
「おぉ!」
隊長の声のあと私兵たちが拳を高く突き上げ、
「NPCの私兵としては練度は悪くないんだよねー。問題は、スキルに関する知識が薄いこと、かなー」
ステイシーが団結し、武器を手に取る私兵達を見ながらそう言います。
「そうなんだ。私はサリアさんとレルカレンさんしか見ていなかったからわからなかった」
「だろうねー。皆素質は十分あるのに、簡単に扱えるから剣を選んでるー」
そう言われてちらりと訓練場内部を見回すと、ステイシーに雷属性魔法を習っていた人たちも皆剣を手にしていました。
「何のために訓練にきたんだかわからないよー」
「それならこういうのはどうだ?」
背中からサツキの声が掛かります。
「サツキ。もどったんだ」
「あぁ。つい先ほどね。訓練場から大声が聞こえたから来たんだが。いや。大丈夫だ。大体察している」
私が説明しようと口を開こうとしますが、サツキは言葉と動作で制します。
「私達が最終防衛を担当し、先ほど習ったことを実践させるのが一番なのではないか? でないと本当に私達が来たのが無意味になるところだ」
「そうだね」
「僕もそれでいいよー」
「決まりだ」
サツキはそう言うと、コホンと咳ばらいをし、訓練場に声を響かせます。
「皆聞いてくれ」
すると視線が一斉にサツキに集まり、訓練場が静まり返ります。
「サツキだ。先ほど、銃の扱いについてレクチャーしていた者だが、まぁこの際それはどうでもいいな。私から提案がある。聞いてもらえるだろうか」
隊長がサツキを見てコクリと頷いたのでサツキが続けます。
「皆、先ほど訓練したモノを扱ってくれないだろうか。銃を学んだ者は銃だ。そして魔法を学んだ者は魔法だ」
「サツキ、それは無理だ。練度が足らん」
隊長がそう言い返すのは想定済みなので、サツキがニヤリと笑いながら続きを口にします。
「ふっ……。だから私達がここにいるのだ。私達が最終防衛として屋敷ないしは私兵、従業員全てを守ると誓おう。だから思う存分先ほどの訓練をぶつけてみないか?」
すると、沈黙が一時的に訓練場を支配し、その後再びドッと湧きました。
「恩に着る」
私達にそう言って頭を下げる隊長は少しほっとしているようにも感じました。
「気にすることはない。私達がここに来た理由がなくなっては困るからね」
「あぁ。そうだな。俺はもう一度部隊を編成しなおす。内門内部に敵を侵入させない様に編成するが、もし突破されたら、その時はよろしく頼む」
「わかった。内門というとあそこか?」
サツキが訓練場の扉から見える門を指さします。
「そうだ。外門を突破されることはあっても内門だけは守りきる。それが旦那様との約束なんでな」
「心得た。私達も準備しておこう」
そう告げると、サツキはこちらに向き直り、隊長は私兵の集まっている場所へ戻りました。
「これで大丈夫だろう。一応全方位を探知できた方がいいだろうな。それはステイシーに頼めるだろうか?」
「おまかせー」
「ということは侵入者の迎撃は私とサツキかな?」
「相手の規模にもよるね。今のところマオとエルマが戻ってきていない以上二人でやるしかないだろう」
「そうだね」
「じゃぁ私も改めて新武装のチェックと行こうか」
サツキはそう言ってインベントリから銃身のようなものを取り出します。
「これは?」
「魔銃の拡張に使えるかもしれないと思って先ほど訓練の際に拝借しておいたんだ」
そう言いながら普段使う、ねおん製魔銃ではない別の魔銃を取り出します。
「たぶんこれにハマるだろう。ほらね」
カチリと音を立てて、魔銃の銃口に拡張として装備され、銃身が長くなりました。
「これで安定性が増すだろう。そしてこいつらだ」
再びインベントリからごっそり取り出します。
「これも拡張として使えるだろう」
サツキはその中から何かを手に取り、銃身を伸ばした魔銃にカチャカチャとはめていきます。
「銃の拡張パーツなんだよね?」
「あぁ。そうだ。でもこの魔銃が特別製なんだ。銃の拡張を使うことができる。≪銃衝術≫を修めてから手に入れたモノでね。強度的な不安もあって使えなかったんだが、これが上手く扱えれば超遠距離の攻撃手段を得ることになる。これはパーティーとしても大きな成長になるだろう。見てくれ」
「ライフルだねー。しかも対物だー」
そう言えばステイシーって銃詳しいんですよね。私は銃をバンバンするゲームはあまりやっていないのでわかりません。
「試しに撃ってみよう」
地面に伏せ、足みたいなものを開いき拡張された魔銃を構え、そして放ちました。
「≪アクア・ショット≫」
タァンと音がし、壁の一角に大きな穴が生まれます。
「これは結構リスクがあるね。味方ごと行ってしまいそうだ。それに、消耗が尋常ではない」
サツキの情報をちらりと覗き見るとMPが今の一射で8割程消耗していました。
「発射された玉自体は大きくなかったよー。でも周囲にガンガン衝撃波出しながら進んでたからもっと威力を下げないと狙撃に向かないねー」
眼の色が普段と何故か違うステイシーがそうサツキに告げます。
「玉が見えたのかい?」
「≪スローズ・ドット・アイ≫」
「それは【
「持ってるからねー」
「「えっ?」」
「僕の≪射程延長≫は【精密狙撃手】由来だよー。このパーツをこっちにしたらー?」
そうステイシーとサツキが二人で狙撃銃談義に入ってしまったので私はしばらく空気になっていました。
私兵たちが持ち場に着いた後も、ぼーと内門を見ていると、かすかに戦闘音と声が聞こえてきたので視線をそちらに動かしました。
「通すわけにはいかない! ≪ライトニング≫」
「んだぁ? そのちゃちな魔法はよぉ。魔法ってのはこう使うんだぜ? ≪ライトニング・ピアス≫」
あぶないっ!
「≪アース・シールド≫」
私はとっさに障壁を発動します。
距離が遠く間に合ったかどうかわかりません。
「ギリギリで間に合ったねー。さて銃談義はここで終わりにして、サツキー、よろしく。≪広域探知≫」
「あぁ。任せろ」
訓練場からシュッと飛び出したサツキが屋根の上に登ったようなので、私もついて行きます。
「ここからなら狙撃できる」
「MPは大丈夫?」
「あぁ。ステイシーのおかげでかなり消費を減らせた。その分威力は下がったけどね。≪スタン・シュート≫」
先ほどの音とは違い
「人数は多くない。そして練度も高くない。だが数人できるのが混じっているな」
サツキが内門のギリギリで隊長と戦闘を行う男性を指さします。
「あれがさっき捕まえた人が言っていたおやじかな? 顔がそれっぽい」
「確かに、『古傷が疼くな』とか言いそうな見た目だ。狙撃する」
「よろしく」
『ふたりともー。正面から来ているのはおとりだー。裏から隠密が来てるー』
『私が行く』
「サツキよろしく!」
「あぁ。任せろ」
サツキの魔銃から発せられた音を背に聞きながら私は家の裏側へと飛び降りました。
「それ以上は行かせませんよ」
「すげぇな。正直驚いたぜ。用心棒か?」
「いえ。たまたまこちらに指導に来ていただけです」
「おー。そうか。あまりにも盗られるってんで訓練して底上げってか。ベルダートに伝えな。盗られるのは兵のせいじゃねぇ、てめぇの頭んせいだ、ってな」
「自分で伝えたらどうですか? といっても今は外出中でいないようですが。あっ。もしよろしければご案内しましょうか?」
「いいや。遠慮しておく。ベルダート本人よりもため込んだ金を返してもらう方が大事なんでね」
「そうですか。あんまり大っぴらに盗ると罪人になってしまいますよ?」
「ふっ。お前用心棒で来てんのに知らねぇんだな」
「何がですか?」
「いまこの家から全てを奪っても
to be continued...
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