第5章6幕 極フリ<extreme assignment>
「はえぇお戻りで」
ジュンヤはそう言って立ち上がり、コートの裾をパンパンと叩きます。
「デスペナか。最近なってなかったし、ちょっとショックだな」
「今回で二度目」
ポータルから転移してきた『ELS』は3人でした。
「向こうさんも諦めが悪い奴、いるみてぇだな。≪投擲≫しようにも武器がねぇ」
「私のこの剣投げる?」
私は腰に差してある【神器 チャンドラハース】を少しだけ抜きます。
「いや。俺の≪投擲≫は槍系統しか投げれねぇ。竹槍でも用意しとくんだったな。それか軽い魔法で生成するのも悪くねぇか」
「ジュンヤのMPじゃ無理」
「私も無理だと思う」
「少しくらい夢見たっていいだろうが」
軽口の押収をしていると、現れた『ELS』の片手斧使いが声をかけてきます。
「てめぇらのせいでこっちのメンバーの心が折れちまったじゃねぇか。残りは俺らとボスだけだ」
あっ。親切に残存戦力教えてくれた。
「おい。てめぇ。何約束破ってんだ?」
先ほどあのプレイヤーはジュンヤと『負けた方は二度とこのマップに入らない』と約束していたはずです。
「はぁ? 誰がそんな約束守るんだよ? なぁ?」
そう取り巻きに言っています。
げらげらと下衆な笑い声が聞こえますが、無視することにします。
「見たところおめぇらもうなんもできねぇだろ。それによぉ。もう俺らのパーティーメンバーがこのマップ探索始めてんだわ。合流して何が悪いんだ? おいごらぁ」
「カス」
「クズ」
てれさなと私がそう言うと、聞こえていたようで返事をしてきます。
「おい。このゲームはなぁ? 強えぇのが正義なんだよ。お前らみてぇなゴミが俺らに来やすく話しかけんじゃねぇ」
「なら俺以下のカス共は失せろ」
そう声が聞こえた瞬間に、片手斧使いの頭が胴体から離れ、空に飛び上がりました。
「お前らもだ」
残りの2人も瞬殺した声の主が、こちらに向かって歩いてきます。
「久しぶりだな」
そう私達に声をかけてきます。
「まさかお前に助けられる時が来るとはな」
「あの件では迷惑かけちまったな。まぁこれでチャラにしてもらうか」
かつて、ギルド『猫姫王国』でマオの側近だったという奏寅が助っ人として来てくれました。
「奏寅さん。お久しぶりです」
「あぁ。事情は大体纏花から聞いた」
「すまねぇ。奥に3人消えた」
「ならマップに散った3人も殺してくる」
そう言いながら私達の方までゆっくりと歩いて来て、アイテムボックスを投げてきます。
「回復してから向こうに戻れ」
「助かります」
「それと落ちてた武器も回収しておいた」
カランと地面にジュンヤの槍を置きました。
「そう言えばお前、能力の制限は?」
「あぁ。今性向度マイナス800くらいだからな。心地いいぜ」
どうやったらそんな低くなるの……。
「んじゃぁまぁ行ってくるわ」
そう言って奏寅は駆けだしていきました。
奏寅が置いていったアイテムボックスから取り出した上質なポーションで回復を済ませ、ポータルに向かおうとするとジュンヤが言ってきます。
「なぁ? 性向度ってどうやって下げるんだ?」
「自分より性向度が高くて、敵対してないプレイヤーを殺せば10下がる。差が10レべつくともっと早い」
「そうなんだ」
私も具体的な数値とか条件は知らなかったのでこの際に聞いておきます。
「悪いことしても下がるわけじゃないんだな?」
「下がる。でも1とか2とか。大量に下げるならNPCの無差別殺人がおすすめ」
「しねぇよ!」
「ジュンヤ……やめてよ?」
「だからしねぇって! ん。まぁなんていうか。奏寅がなんでマイナスなのかイマイチわからなくてな」
「私にはなんとなく分かったよ」
「そうかい。よし。一度戻るか」
てれさながフィールドを細く伸ばし、ポータルの場所まで行けるようにしてくれたのでなんとか帰ることができそうです。
「お待ちしておりました」
「…………」
奏寅には何度か会いましたし、『猫姫王国』事件で関わった他の人達にも何度か会ったりしていました。しかし、一度も会わなかったのがこいつです。
「リンプさん……あなたが『ELS』のリーダーですか?」
「チェリー知ってんのか?」
「たぶんハリリンも知ってるよ」
ジュンヤに聞かれたのでそう返事をします。
「話してもよろしいですか?」
「はい」
「確かに『ELS』……『each lament sanction』は私が作ったギルドです」
正式名称はなんか難しい単語が並んでるんですね。初めて知りました。意味はよくわかりませんね。
「最近の行動はあなたがすべて指示を?」
「いえ。あれはレギュンという片手斧使いが勝手にやっていることです」
「そうですか。悪いんですが、私はあなたを信用できません」
「そうでしょうね。構いませんよ、信用なんていらないですから」
「ところでここに来たであろうプレイヤーはどうしたんですか?」
「殺しました」
「でしょうね」
「一つ聞いてもいいですか?」
「『猫姫王国』の件で答えられることはありません。私は秘密を明かさない」
心を読まれたかのように正確に答えられ、私は少し動揺します。
「では死んでいただきます」
そう言ったリンプが正面から消え、次の瞬間ジュンヤの右腕と私の左腕は引きちぎられました。
「くっ……」
「はやい……」
それでもジュンヤは今戦闘をするうえで一番大事なのがてれさなの存在だとわかっているようで、傷付いた身体でかばっています。
「一番強く、最も信頼できる武器はなんでしょうか?」
リンプは私達の正面に戻り、私とジュンヤの腕を投げ捨てながら聞いてきます。
「この槍だろ?」
そう言ってジュンヤは【聖槍】を構えます。
「魔法ですね」
「魔法」
私とてれさなの答えは同じでした。
「惜しいですね。だからあなた達は弱いのです。一番信頼がおける武器は……」
突然目の前から消え、私達の背後から声が聞こえます。
「肉体、ですよ」
リンプの声に振り向くと、心臓をえぐられ、おびただしい出血をし、デスペナルティー特有の演出に包まれるてれさなの姿が目に移りました。
「てっ……」
ジュンヤがすぐに槍を振り回しますが、それも捕まれてしまいます。
「頑丈な武器です。壊れませんね」
「あぁ。相棒なんでな」
「そうですか」
リンプが手を下に振りぬき、ジュンヤの左腕も引きちぎりました。
「これで相棒はにぎれませんね。それでどうしますか?」
「この……」
ジュンヤの方を見ていたので私が魔法を発動しようとすると、こちらに視線を向けたリンプが人差し指で私の喉を突きました。
直後私は吹き飛ばされ、木に激突し止まりました。
「っ……!」
口から血を吐き出し、声をあげようとしますが、空気が漏れるような声しか出ずに困惑します。
「……! ……っ」
ステータス画面を覗き、≪声帯損傷≫という初めて見る状態異常と残りHPの少なさを見て全て合点がいきました。
リンプが言っていた言葉、最初立っていた地面にある窪み、そして人差し指だけでこの威力を出すこと。
リンプというプレイヤーはすべてを、STRに注いだ、パワーバカだということに。
ジュンヤも羽をもがれた昆虫のようにデスペルティーにされていました。
てれさなとジュンヤがすぐに戻ってこないことを考えると蘇生場所は少し離れたところかもしれませんね。
さて、次は私を殺しに来ますね。
声が出ない状況で発動できるスキルは少ないですがやるしかありませんね。
残った右腕に普段は左手に握る【短雷刀 ペインボルト】を握り、走り出します。
to be continued...
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