第5章4幕 とめどない戦闘<endless battle>
「野郎ども、敵は4人だ。2人で1人確実に殺せ」
「了解」
『ELS』連中の指揮を取っている一番レベルの高いプレイヤーを除いた8人が二人一組を作りこちらに走ってきます。
「この状態で二対一。へっ楽勝かよ」
額に流れる汗をぬぐいながらジュンヤがそう言います。
「チェリーさん。右側からくる二人をお願いします。ジュンヤは左。僕はてれさなさんのガードと正面を」
正面からくる二組と左右に展開した二組の戦力を判断して纏花が指示を出します。
私とジュンヤは纏花の指示に従い動きます。
「任せたぜ」
「お願いね」
「ええ。生憎こういう戦場は僕向きなので」
抜刀していた刀を一度鞘に納めた纏花がスキルを発動します。
「≪能力変化〔AGI〕≫」
全てのステータスを1にすることで発動するスキルで、そのステータスの合計数値分を一つのステータスに加えるという物だったはずです。確かにこの状況ではうってつけ、かもしれませんね。
纏花の方ばかり見ているわけにはいかないので、私も自分に向かって走ってくる二人のプレイヤーを観察します。
片方は長剣、片方は銃ですね。
観察通り、銃を持つプレイヤーが私の10メートルほど手前で止まり、長剣のプレイヤーはそのまま走ってきます。
私がこのステータスが大幅に制限されてる状況でも、戦えるであろうと判断した理由はあるスキルが使えるのに気付いたからです。
そのスキルは≪影渡り≫。
このフィールドは黒い雲に覆われていて、光は届いていないはずですが≪影渡り≫が使える以上、空には太陽か月、またはそれに準ずる何かがあるということです。
だから私は勝てると判断しました。
「≪影渡り≫」
銃を構えるプレイヤーはてれさなが作ったフィールドの外にいます。
ジュンヤの言うことが正しければ10秒も持たずにHPが無くなってしまいますが、首を捌く事は容易です。
銃を構えるプレイヤーはこちらを見失っているようで、辺りを見回すようなそぶりをしています。
「一人目」
私は後ろから一言声を掛け刈り取ります。
一人が消える様子を見て、私は遅くなった脚でてれさなのフィールドまで走ります。
「てめぇそんなところに居やがったのか!」
たまたま後ろを振り向いた長剣使いがこちらに向かって走り出し、長剣を上段に構え、振り下ろします。
「うっらぁ!」
走りながら私は両手の短剣と短刀を頭上に構え、長剣を受け止めます。
「ふっ!」
受け止めた瞬間に右手を持ち上げ、左手を下げるという方法で長剣を左にいなし、横を駆け抜ると同時に斬り付けます。
そして、てれさなのフィールドに足を踏み入れた瞬間片足でブレーキを掛け、身体を反転させ、長剣使いの方に視線をもどしデスペナルティーになったことを確認します。
「≪スフィア・ヒーリング≫」
「ありがとうございます」
てれさなは私達三人のHPを的確に回復させ、自らはポーションでMPを回復させていました。
走っていてわかりましたが、普段の速度の十分の一程度だと思います。
「てれさなさん。ステータスの制限ってどのぐらいだかわかりましたか?」
「具体的にはまだ。でも1000で十分の一になってる。たぶん100につき分母が1ずつ増えて行く感じ?」
「ええ。僕もそう感じました」
いつの間にか私の横に並んだ纏花もそう言います。
「なら私のAGIは100未満か……」
でも100未満にしては速度が出ているような……。
「装備の分は減少しません。スキルで増加した分もです」
確かに纏花の言う通りかもしれません。
十分の一になっているにしては纏花が早すぎます。
「私がバフかける。AGIに」
「お願いします」
バフは貰っていた方がいいですね。
「MP消費から考えて2分が限度。でもジュンヤにも掛けたいから1分で我慢して」
「大丈夫です」
「≪ゲイン・アジリティー≫、≪ゲイン・コンスティテューション≫」
私にAGIの上昇バフを、ジュンヤにCON上昇バフをてれさなが掛けます。
ジュンヤの「助かるぜ」という声が聞こえ前を見た私達は絶句します。
「ダンジョン扱いで即時復活は無理ですが、転移門の前で復活といったところでしょうか」
「永遠の戦闘……。死んだら増援よんで戻ること」
「うん」
「もちろんです」
欲を言えば先に脱出できたエルマ達の内誰かが増援を呼んでくれれば……。
いま考えても仕方ありませんね。
こちらの増援や、すでにデスペナルティーになった人がちらほらと戻っては来ているのですが、てれさなの作ったフィールドは狭く、ここにたどり着くまでにスリップダメージで皆デスペナになってしまっています。
十分の一のステータスでもやりあえて、なおかつ性向度が少し低いという都合のいいプレイヤーはいませんかね。
あっ!
一人いました。
たった一人だけ、単独でこの状況を打破できるプレイヤーが。
彼が来てくれることを祈りましょう。
「ジュンヤ少し交代で」
ジュンヤほぼ一人に食い止めるのを任せていたので纏花がそう提案します。
「スリーカウントで行くぞ! 3……」
「2……」
「1……。≪シフト≫ぉ!」
纏花とジュンヤの位置が入れ替わり、ジュンヤが食い止めていた左側から攻めてくる二人組を纏花が一太刀で葬り、蘇生してきたプレイヤーを一人ずつ倒していきます。
「だいたい聞こえてた。んでどーする?」
「このままじゃ本当に持たない」
そう言ったてれさながアイテムバッグをひっくり返します。
中から出てきたのは高位のMPポーションが2本だけです。
「MPの上限も減ってるから1本で全回復だけど、ロスが」
高位MPポーションの中でも特上品に見えます。1本で恐らく5万程度のMPを回復させる品物でしょう。
「これも使って」
私はインベントリにしまってあった10本程のMPポーションをてれさなに渡し、私はTPポーションを飲みます。
「チェリー。なんかねぇのか?」
「いまはない……と思う。なるべく交代で長くこの場を持たせることしかできない……」
「くそっ……。なんか手はねぇのか!」
手に持った槍を地面に突き刺しながらいら立ちを表現します。
「少なくとも私にできるのは、近接武器で戻った『ELS』連中を狩ることだけだよ」
MPの上限も少ないですし、何よりMNDが制限されていることで詠唱魔法すら使えません。
「せめてもの救いは纏花がてれさなのフィールド内ならまず無敵ってことだけか」
「うん」
それから何度か交代をしながら敵を食い止めてはいますが、私がてれさなに渡したMPポーションも残りが1本になってしまいました。
「チェリー。あと一個」
「っ……わかった!」
私が正面から来た片手斧使いを何とか倒し、一度敵の波が引きます。
「小休止だな」
一度てれさなの近くへと集まりポーション等で回復をしておきます。
「ステイシーあたりがそろそろもどってくんじゃねぇか?」
「わからない。でも何か考えてる様子だったし、対策を練ってくるかも」
もしかしたら、彼を呼びに行ったかもしれません。
「増援は望み薄か。あいつら向こうの転移門前でも張ってるんじゃねぇか」
「そうですね。その可能性はあります。でも向こう側でなら負けない人もほどほどにはいるはずです」
「それでも来ないってことは……」
「首領のお出まし」
てれさなが言った通り、『ELS』のボスが来ているかもしれませんね。
「また来たぞ!」
ジュンヤがいち早く、転移門の光に気付き、知らせてくれます。
「僕が」
纏花が一瞬で駆け,実体化前に両断しました。
「増援を必ず呼んできます。5分で戻ります」
転移門から向こうの世界に戻った纏花が戻るまでの時間を稼がないといけませんね。
おそらく向こうに戻った纏花が転移門周辺の『ELS』を殲滅したはずなので少し時間的な猶予が生まれます。
なら……切り札を切りましょうか。
突然、武器をしまった私にジュンヤが声をかけてきますが、集中するのでここは無視しましょう。
さぁ……新技のお披露目です。
to be continued...
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