第4章41幕 <サツキ修行編壱>

「こんなことになってしまいもうしわけございません。少し急いていました」

 「いや。気にすることはない。彼女たちは彼女たちでやることをみつけるだろうさ」

 シャンプーに連れられ、ワタシは玄関を出た。

 「そう言えば、シャンプー……さん。精霊族というのはなんなのだろうか。よければ教えていただけないだろうか」

 馬車を準備するシャンプーにワタシは問う。

 「ええ。構いませんよ。あと呼び捨てで結構ですよ」

 「すまない。慣れていなくてね。ではお聞かせ願おう」

 「はい。あっ。でも少しお待ちください。多少ですが長旅になりますので、肴に残しておきましょう」

 「悪くないね。何か手伝えることはあるかい?」

 「大丈夫ですよ。……っと。終わりました」

 「結構な荷物だね」

 馬車に積み込まれた荷物を見てワタシはそう呟く。

 「色々と必要ですから。では乗ってください」

 「あぁ。失礼するよ」

 ワタシは馬車の開け放たれている扉の横を掴み、軽快に飛び乗った。


 「ではまず精霊族についてお話いたしますね」

 「あぁ」

 御者台側の椅子に掛け、窓越しに会話する。

 「精霊族というのはその字の通りです。精霊の力を先祖から受け継いでいる種族になります」

 「興味深いね」

 「総称なので、私は厳密には精霊人族となります」

 「うん? つまり人以外の精霊族もいる、ということなのかい?」

 「ええ。精霊魔族や精霊獣族等居りますよ」

 「へぇ。いつか会ってみたいね」

 「これから嫌というほど会いますよ」

 「どういうことだい?」

 「着いてからのお楽しみです」

 ふっ。色々と期待してしまうね。


 それから目的地へ馬車に揺られつつ、シャンプーと会話をしていた。

 途中で何度か休憩がてら立ち寄った街や集落で食料等を物色していたのだが、やはりどこも味が薄いね。

 「シャンプーは食事について何か思うことはあるかい?」

 「ありますね。味しませんから」

 「そうか。では自炊するときは味を?」

 「もちろんです。ところでサツキさん」

 「なにかな?」

 「どうして魔銃を?」

 あぁ。少し打ち解けられたのだろうか。口調が軽くなっている。

 「笑ってくれるなよ。カッコイイじゃないか」

 「ふふっ。分かります。私も最初こそ、祖父の影響ですが、格好の良さに取り憑かれてしまったのです」

 「魅力的な武器だからね」

 さらにシャンプーと打ち解けられた様で、他愛もない話をしつつ、馬車に揺られていると目的地が見えてきたとシャンプーが言った。

 「見えてまいりました。『聖地』です」

 「『聖地』? 聞いたことがないね」

 「仕方ありませんよ。『聖地』は我々精霊族しか知り得ない場所ですから」

 「良かったのかい? そんなところに身元もわからないワタシを連れて行って」

 「魔銃を扱えるだけで資格は十分ですよ。【精霊女王】も持っていると聞いていますし」

 「ならよかった。未だに【精霊女王】が取れた理由がわからないね」

 「簡単ですよ。精霊を複数使役するに値する人物である、そう証明されただけですから」

 「あぁ。そう言うことだったのか」

 もう少し前に知っていればね。エルマに苦労を掛けないで済んだというのに。


 シャンプーは『聖地』と呼ばれる場所の前で馬車を停めた。

 「では降りてください」

 「あぁ。すまないね。御者の経験でもあれば変わってあげられただろうに。まぁ道が分からないから意味はなかっただろうがね」

 「気にしないでください」

 そう言った彼女は右手を上に掲げ、何やら模様を描いているように見える。

 「それが何か聞いてもいいかい?」

 「認識阻害など10層で構成された結界に存在を刻みました」

 「つまり?」

 「入るための儀式です」

 「非常に分かりやすいね。ワタシは何かすることはあるかい?」

 「でしたら魔銃を、片方で良いので持っていてください」

 「うん? わかった」

 右脚のレッグホルスターに装備していた【機甲魔銃 シャンガンカル】と左腰のヒップホルスターに装備していた【怪鋼筒 ミルコルピア】で少し悩んだが、フォルムが気に入った【機甲魔銃 シャンガンカル】を右手で握ることにした。

 「こうかい?」

 「ええ。それで大丈夫です」

 事情はよく分からないが、シャンプーがそうしろと言ったということは必要があるということ、そう納得することにした。

 

 認識阻害などの結界でよく景色を見ることができていなかったが、内部へ入ると、普通の都市のような場所だった。

 「ここが『聖地』です。『聖魔圏 ディセスアンテ』が正式名称です」

 「聖と魔ね。相容れない存在だとおもっていたけれど。あぁ。そうか。精霊魔族というのがいるようだし、問題はないのか」

 そう一人で納得する。

 「では挨拶に行きましょう。この地域の統括者に」

 「あぁ」

 歩いていくシャンプーについてワタシも歩き出す。


 「見えてきましたね。聖魔宮です」

 「ただのお城にしか見えないが」

 「ええ。まだお昼ですから。今は聖精霊が管理している時間ですので」

 「聖精霊?」

 違和感を感じたのでシャンプーに聞いた。 「あぁ。精霊は属性で分けると10種と1種の計11種類なのですが、活発な時間で陽精霊と陰精霊と分けることもできるんです。陽精霊を通称で聖精霊と呼ぶんです。同様に陰精霊は魔精霊と呼ばれますね」

 「なるほど。今は昼過ぎ、陽精霊の聖精霊が活発である、そういうことか」

 「はい。なので夜になればまた違う風景になりますよ」

 「少し、楽しみだね」

 口角が自然と上がっていた。


 聖魔宮という場所に入ると、ほとんど警備のようなものは無く大きな広間まで行くことができた。

 「警備とかないようだが?」

 「そのための結界です」

 「そういうことか」

 「ではお呼びしますね」

 そう言ったシャンプーが右手を宙に翳し、

何かを描きつつ、口走る。

 『オイデマセ オイデマセ 我ラヲ統ベル御姿ヲ オイデマセ アァ オイデマセ』

 そう言っていたように聞き取れた。

 すると正面にスッと光が差し、椅子が現れ、その椅子に座る一人の男性が見えてきた。

 『あぁ。精霊の加護を受けし者よ。よくぞ参られた。我は聖精霊、この地域を統べる二柱の精霊神である』

 「お久しぶりです」

 『おお。久しい。そちらは?』

 「はい。私の弟子になって頂いたサツキ様です」

 『ほう。主の弟子であるならここまで死なずに来れたのも頷ける』

 どういうことだろうか。死ぬ可能性があったと言わんばかりの会話だ。

 「えぇ。私の弟子になる前に、すでに規定は超えていましたので」

 『なるほど。それは逸材と呼ぶにふさわしい。外の者故か』

 神と言われるだけはあって、ワタシが外の人であるというのもお見通しの様だ。

 『何故戻ってきたのだ? 挨拶のためというわけではないのだろう?』

 「はい。彼女に≪銃衝術≫と【奇銃士】を与えたく」

 『なるほど。では力を貸そう。我が眷属を呼び出そう』

 そう言った聖精霊が指をパチンと鳴らす。

 すると上から5本の光が降り注ぎ交差する、幻想的で詩的な光景を目の当たりにした。

 『では励むのだ』

 「はい」

 

 「私の名は赤と申します。久しぶりです。シャンプー」

 「ええ。久しぶり。早速修行したいのだけど」

 「でしたらご案内しましょう。夜の時間になったら魔精霊様の眷属の方にお任せすることなりますが」

 活発な時間が違うとそうなってしまうのか。仕方のないことだろうけど。

 「ではサツキ。参りましょう。あなたの素質見させてもらいますよ」

 赤という眷属が光を放った瞬間、ワタシはシャンプーの屋敷にあった訓練場のような場所にいた。

                                      to be continued...

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