第4章26幕 権利<right>

 「あの……」

 私は彼女に話しかけます。

 「はい?」

 「先ほど町中で保護した少女は預かっている者です」

 「あぁ。あなたが」

 「はい。ご案内いたします」

 「はい」

 そう言って彼女を連れ階段を上ります。

 

 コンコンコンと少女がいる部屋をノックします。

 「保護者さんをお連れしました」

 「いま、開けるね」

 サツキがロックを解除し、扉を開けてくれます。

 「ご足労痛み入ります。では中へどうぞ」

 「すいません」

 彼女はそう言って部屋に入っていきました。私も中へと入ります。

 「そちらにかけてくれ」

 サツキが手を向けた方にあるソファーに彼女は座ります。

 「軽く自己紹介させてもらおう。ワタシはサツキという外の人です。そちらにいるのはチェリー。ワタシの仲間だから安心してくれ」

 「ご丁寧に。私はキンカンと言います。その子はチョコです」

 あっ。加工品の名前もあるんですね。

 「そうか君の名前はチョコちゃんっていうんだね。改めてサツキという。よろしく」

 「その子はどこにいたんですか?」

 そうキンカンという名の女性がサツキに尋ねます。

 「私達がこの中心街に入って少し進んだあたりだから、ちょうど商店が立ち並んでいるところだったね」

 「近くに果物屋さんがあったよ」

 私がそう付け足します。

 「あぁ。そのあたりですか。すぐに迎えに来れなくてごめんなさいね」

 「気にすることはない。そちらも仕事があるのにわざわざ呼び出すような形になってしまい申し訳ない」

 「なぜ兵士に引き渡さなかったのですか?」

 「この子がおびえていたからだ」

 「そう……ですか」

 「できれば理由をお聞きしたいのだが」

 サツキがそう言うと、キンカンはぽつりと言葉を紡ぎます。

 「チョコは来週から本都に奉公に行くんです」

 「この歳でかい?」

 「チョコはもう13歳になります。この国では13歳になると職が与えられるのです」

 「そうなのか。ワタシ達からすると随分早いとしか感想が出てこないね。チョコちゃん。奉公に行くのが嫌だったのかい?」

 サツキがチョコの方に向きなおしそう問います。

 「ううん。ただお城からほとんと出たことがないのに、この町を出なきゃいけないっていうのが嫌だっただけ」

 「なるほど。ちなみに本都のどこで働くんだい?」

 その答えは母親のキンカンからありました。

 「この子は武芸に秀でていまして、それで精霊騎士見習いになるそうです」

 「それは立派なことじゃないか」

 「でももうお母さんに会えない」

 寂しそうにチョコが言いました。

 「精霊騎士になると親に会えないのかい?」

 「うん。精霊騎士はずっと精宮にいないといけないから」

 「そうか。母君。職は自分で選べないのかい?」

 「一応選べます。ですが私は城仕えなので私の子供はみな選ぶことができません」

 なるほど。城に仕えているからその決定が最優先と。

 「副都の城仕えの者から本都で重役についてほしいという気持ちが強いんです。私はそうは思いませんが。できればこのこと城で働きたいです」

 「ふむ。ワタシ達に何かできることはあるかい?」

 「無いと思います。もうこの子の未来は決まってしまったのです」

 気に入りませんね。13歳で未来が決まっている? そんなのは気に入らない。

 「未来を決めるのはチョコさんではないのですか。それを勝手に決める? 未来は決まっている? 実に気に入りません。部外者が何を、と思うかもしれませんが、私は非常に気に入りません」

 私はそう伝え、部屋から出ようとします。

 「チェリー。無茶はしないでくれ。君の立場は危うい」

 「無理はしないよ。ただ、一言言いたいだけ」

 振り向かずそう一言残し、私は部屋をでて城へと向かいます。


 城の前まで来ると兵士が数人立っていました。

 「すいません。ちょっとご相談があるのですが」

 「お伺いしましょう」

 兵士の中で一番位が高いであろう老齢の男性が話を聞いてくれるようです。

 「私は、『ヨルダン』で王族騎士の立場についています」

 少し横暴かもしれませんが、このくらいの使用でしたら『ヨルダン』国王も許してくれるでしょう。

 「王族騎士ですかな。こちらには休暇で?」

 「ええ。発券した滞在許可をご覧になりますか?」

 「念のため拝見いたします」

 私はインベントリから紙を取り出し、男性に渡します。

 「ふむ。確かに王族騎士で間違いありませんな。ではお話をお聞かせください。応接間までご案内いたします」

 「恐れ入ります」

 先導して歩く男性について、城の内部へと入ります。

 城の内部は他の国の城程、豪華ではありませんが、価値のありそうな家具や絵画などが置いてありました。

 「ではこちらでございます。いま女給長も呼んでまいります」

 「お手数おかけします」

 

 すぐに女給長と呼ばれた女性もやって来て、お茶が出されます。

 「ではお伺いします」

 一口お茶を飲み、話し始めます。

 「こちらで働いている女給のキンカンさんの娘さんを街で保護しました」

 「存じております」

 「先ほどキンカンさんとお話をした際に、チョコの未来は決まってしまった、そうおっしゃっていました」

 「彼女ももう13歳になりますから」

 「未来が決まってしまった、私はそれを聞いてここまでやってきました。まだ彼女の未来は決まっていない、そう伝えるために」

 「つまり?」

 「彼女に仕事を選ぶ権利を上げて下さい」

 「それはできません」

 「なぜです?」

 「都市長閣下がお決めになったことです」

 「では都市長閣下に直談判します。面会の場を用意してください」

 「ご期待には沿えないと思いますが?」

 「構いません。一度お話ができれば」

 「かしこまりました。『ヨルダン』の王族騎士がお呼びだとなれば閣下も無下にはできますまい」

 「ではお願いします」

 「女給長お願いできますかな?」

 「かしこまりました」

 そう言って女給長が応接間を出ていきました。


 「申し訳ない。女給長がいる前で本音での会話は無理そうでございましたので。先ほどまでのご無礼をお許しください」

 「いえ。こちらこそすいません。部外者の立場で」

 「では、お話します」

 そう言ってお茶を一口すすり、男性は話し始めました。

 「チョコに、武芸の才はありません」

 「えっ?」

 「精霊騎士見習いになるというのは建前で実際は精宮での雑務が仕事になります」

 「騙しているのですか?」

 「『エレスティアナ』の副都市であるここもそうですが、おおむねどこの副都市でも変わらないでしょう。精霊騎士になれるのは、元々本都市にいる者たちだけですから」

 「それで才があると偽り、奉公に行かせるんですか」

 「ええ。そうなります。この提案者は先ほどの女給長です」

 「何故です?」

 「それは、女給長がキンカンを嫌っているからです。恐らく城から脱走する手配をしたのも彼女だと思われます」

 「黒幕ってわけですね。なぜ嫌われているのです?」

 「そうなります。キンカンは非常に働けますから」

 「なるほど。長である自分より仕事ができるから嫌いと」

 「その理解で間違いございません」

 これもう私が何しても変わらない気がしてきた。

 ん? でもチョコには武芸の才が無いんですよね。ならばそれを告げるしかなさそうです。本人とその事実を知るべき人に。

 「こちらにチョコを保護している仲間を呼んでもよろしいですか?」

 「聞かせるべきだと思いましたので」

 「わかりました」

 「ではすぐに呼んでまいります。門の前で待ってていただいても?」

 「かしこまりました」

 門の前まで送ってもらい、私はそこで≪テレポート≫を用いてショートカットします。

 そして宿屋の前に戻った私は実験段階だったある魔法を発動させます。

 「≪グラビティーコントロール≫」

 重力制御の魔法で自身に加わる重力を操作可能にします。

 「≪リバース・マジック≫」

 ≪リバース・マジック≫は魔法の効果を反転させる魔法です。これで緩やかにかかる重力を浮力へと変換できると考えた少し前の私は実験程度にやって成功はしていました。

 するすると地上から浮き上がり、サツキがいる階まで登ります。この状態ですと横に移動したりはできませんがそれはすでに解決策があります。

 「≪スライド移動≫」

 これで理論上は移動できるはずですね。

 案の定横にスルスルと移動することができました。

 まだ戦闘に使えるほどではありませんが、なかなか優秀な組み合わせの様です。

 コンコンコンと窓をノックします。

 少し疑問そうなサツキの顔が驚きに変わり、私は満足しました。

                                      to be continued...

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る