第4章2幕 褒美<reward>

 王城の前に≪ワープ・ゲート≫でやってきた私達、ギルド『虎の子』のメンバーと他2名は門の前で待っていた案内係に案内され、控室のような場所に通されます。

 「こちらで少々お待ちください」

 少しおびえたような口調で私達に声をかけてきます。

 「わかった。時間になったら呼んでくれ」

 ジュンヤが皆を代表して返事します。

 「なんでおびえてたんだろう?」

 私は何も考えず口走ります。

 「さぁな」

 

 控室のような場所に案内されてから30分ほど経ちます。

 その間お茶も出ず、これが国のために命を懸けて戦った人達への扱いなのか、と心の内で憤慨しています。仮初の命ですけど。

 「ジュンヤー。お呼ばれしたのは何時なのかなー?」

 「17時だ」

 「えっ。もう20分以上過ぎてるじゃん」

 私は時計を確認しつつ驚きの声をあげます。

 「まぁいろいろごたついてるんじゃね?」

 「一言くらい何かあってもいいと思うのに……」

 「それができないくらいごたついてるんだろうよ」

 「そういうものかな?」

 「そういうものだ。納得しろ」

 そう横からファンダンに言われてしまったので、引き下がることにします。


 控室に詰め込まれ、1時間ほど経ち、みんなが雑談を始めていた頃、扉がノックされます。

 「失礼します! これから国王様に謁見の機会を与えます。名誉に思いなさい!」

 ちょっとイラっとする言い回しですね。

 心の内で怒りを留め、衛兵についていきます。

 連れだってぞろぞろと歩き、謁見の間の扉の前へとやってきました。

 「国王様に謁見する栄誉に涙せよ!」

 「くれぐれもご無礼がないように!」

 扉の前に立っている衛兵がそう告げます。

 私は無心になっています。

 「開けろ!」

 「「はっ!」」

 衛兵と衛兵のやり取りを聞き流し、扉が開くのを待ちます。

 

 扉が全開になると私達をここまで案内した衛兵が私達の背後から押してきます。

 「ほら! さっさと歩け! 国王様がお待ちであるぞ!」

 待たされたのはこっちなんですが。しかも、この犯罪者のような扱い……。解せませんね。

 「国王様、お連れいたしました!」

 「うむ。勇敢な我が民よ。我はベルルド・ルルレイガー・ヴァンヘイデンである。面をあげよ」

 一応国王様なので皆、頭を垂れていましたが、その一声で顔をあげます。

 「うむ。みな良い顔をしている。さて、先日の争いにおいて其方らの助力、感謝する。さてまずは褒章についてである。おい」

 国王は顔を横に向け、宰相のような人を呼びます。

 「はっ」

 彼が返事をして国王の横に並びます。

 「ギルド『虎の子』構成員及び『魔城』構成員、他1名。褒美の授与である。ギルド『虎の子』管理者、ジュンヤ、前へ」

 呼ばれたジュンヤが立ち上がり、宰相の前まで進みます。

 「褒美である」

 そう宰相から手渡されていました。

 「ほう。其方がジュンヤか。我の娘をよくぞ守ってくれた。感謝する。褒美はその中に入っておる」

 「うっす」

 受け取ったジュンヤはガニ股で歩き、私達と並び再び跪きます。

 「ギルド『虎の子』構成員、ハリリン、前へ」

 次はハリリンが呼ばれ、宰相の前へと向かいます。

 「褒美である」

 ジュンヤ同様にハリリンも受け取ります。

 「ほう。其方がハリリンか。日頃我が国のために尽力していると聞く。これからも頼むぞ」

 「ありがとっすー」

 受け取ったハリリンも戻ってきます。


 その後同じような流れで、ファンダンも褒美を受け取りました。

 エルマは欠席で纏花はすでに褒美をもらったと聞いていたのであとは私とステイシーと愛猫姫ですね。

 愛猫姫にあるかどうかは怪しいですが。

 「以上で褒美の授与を終了する。これからも我らが大国のために精進せよ」

 「はぁ?」

 つい声が漏れてしまいました。

 「ん? 誰か何か申したか?」

 すでに声に出してしまったので仕方ありませんね。聞いてみましょう。

 「私含めこちら3人褒美を頂いていないのですが?」

 そう国王に向かって言います。

 「不満か?」

 「はっきりと申せば、その通りでございます」

 「何が不満だというのだ?」

 「彼女はともかく、私達二人は作戦の要と言ってもいい立場でした。それで報酬なしというのは少し理解ができません」

 「褒美なら与えたであろう」

 「いえ。いただいていません」

 「気付かぬのか。おい」

 そして国王が再び宰相を呼びつけます。

 「コホン。では代わりに私が説明してあげましょう」

 「納得のいく説明をお願いいたします」

 「罪状、ギルド『虎の子』構成員、チェリー、及び、ギルド『魔城』管理者、ステイシー。上記2名は、不可侵とされる他国の領土に対し、高位の魔術を用い、消滅させ、地域周辺の生態系を破壊し、他国へと多大な損害を与える行為を行った。このことを踏まえ、上記2名に国民資格の剥奪、及び、他国間で上記2名に関する情報を共有し、永続的な対応を取ることにする」

 「は?」

 「つまり僕たち二人を最初から捨て駒にするつもりだったのか?」

 私の堪忍袋の緒が切れる前に、ステイシーが焼け石になってしまいました。

 「ほっほっほ。そこまではいっておらんよ。これをもみ消してあげたのだから褒美などいらんだろう?」

 汚い前歯を見せながら笑う宰相をぶっ飛ばしておきたいところですが、ここはこらえます。

 「そういうことでしたら納得しました。では私達は失礼します。≪テレポート≫」

 「≪テレポート≫」

 私とステイシーは≪テレポート≫でこの胸糞悪い空間から脱出しました。

 ホームに帰ってきた私はすぐにステイシーにチャットを送ります。


 『これは想像できてた?』

 『いやー、さすがに想像できなかったー。いま僕の店にいるよ』

 『いくね』


 再び≪テレポート≫を使いステイシーの店へとやってきます。

 「重罪人に仕立て上げるとか怖い」

 「国として、示しがつかなかったんじゃないかなー?」

 「それでもさすがにこれは腹が立つね」

 「ここにいたんだ!」

 そう風紅の声がしたので振り向きます。

 「エルマ! どうしてサブキャラなの?」

 「話すと長いんだけど、国王に直談判したら、反逆罪だーって牢屋に10日間ぶち込まれることになった」

 「まじか」

 「まじまじ」

 「『ヴァンヘイデン』の国王はまともだと思ってたんだけどなー」

 「いやー? まともな方だよー?」

 「まじか」

 「ほかの国はもっとひどい。あっでも『ヨルデン』の国王はいいひとだね」

 「変な人だけどね」

 「これからどうする?」

 「んー。しばらく『セーラム』はフランに任せて旅に出ようかな。あっでもマオのこともあるから……」

 「ならマオも連れだしちゃえばいいんじゃない?」

 そうエルマに言われ納得します。

 「そうだね。そうするよ」

 「もうじき第二陣のログインが始まるし、サツキも連れて5人でパーティー組んで色々まわろっか」

 「おー? サツキも第二陣でくるのー?」

 「そうそう。TACで最近話したんだよ」

 「そうだったんだねー」

 「チェリー行くあて、っていうか目標はあるの?」

 「んー……あっ。『エレスティアナ』に行きたい」

 「あぁ。車?」

 「うん」

 「いいね。私は賛成」

 「僕も賛成ー。サツキも『エレスティアナ』なら賛成じゃないかな?」

 「どうして?」

 「あそこは魔銃の第一線だからー」

 「そうなんだ!」

 そう話しているとチャットが届きます。ジュンヤからですね。


 『悪いなチェリー』

 『気にしてないよ。少し旅に出るね。戻るのがいつになるかわからないからギルドも抜けておくよ。迷惑になるかもしれなないから』

 『別に迷惑じゃねぇよ。重罪判定になったわじゃねぇし。でもまぁわかったよ。いつでも帰ってこい。あと何かあったら言ってこい』

 『わかった。今までありがと』

 『おう。またな』


 『ギルド『虎の子』を脱退しますか?』

 『YES』


 私は『虎の子』を抜け、久々のソロプレイヤーになりました。


to be continued...

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