間章13幕 便利<convenient>
見た目をドレスを着た箱入りお嬢様に変更した私とゴシック・アンド・ロリータに変更したサツキを見たエルマは満足そうに鼻をふんっと鳴らします。
「もう無理……死んじゃう……」
「耐えてサツキ」
「さぁ二人とも、それっぽくするんだよー?」
「わかりましたわ」
そう私はそれっぽく返事します。
「うんうん。やっぱりチェリーはちゃんとできるね。サツキもほら、返事は?」
「はい……」
「んー。普通に考えたら合格点は上げられないんだけど、普段のサツキから考えたらギリギリ合格点をあげてもいいかな。よしじゃぁ部屋を決めよう!」
「エルマさんから選んでもよろしくってよ? 何せ、勝者ですもの。できれば角の部屋は残しておいてもらえるかしら?」
「いいねー! それっぽい! ちなみにモデルは?」
そこで私はニヤリと笑いエルマに返します。
「サツキのデビュー作『君は私に傅くのよ』の二木佳苗の真似」
「ダブルで殺しに来ないで……。もうほんとにワタシ死ぬ……」
「楽しんだ方がいいと思うよー?」
「でも……」
「王様の言うことは……」
そこまで発したエルマが、一度言葉を止め、息を吸います。ならばこのタイミングでこそ親友として息の合うところを見せましょう。
「「ぜったーい」」
私とエルマの声が重なります。
「ノリについてけない」
「かー! これだから最近の若い娘は! 仕方ない、口調は普段通りでいいよ。その服を着てくれただけでよしとしましょう」
「感謝するよ」
「ということで私は角部屋なわけなんだけど」
私がそう宣言すると、エルマが人差し指を立てチッチッチと下を鳴らしています。
「このロッジは全部角部屋だよん」
あっ。そうですか。なら私はどこでもいいです。
「ていうかね。場所を決めるメリットなんて無いとワタシは思うんだけれど?」
そういったサツキにエルマが頬をぷくっと膨らませつつ答えます。
「雰囲気の問題だよ!」
「そういうものかな?」
「かー! これだから最近の若い娘は!」
部屋割りはあまり意味をなさないという結論に至り、何のためにかくれんぼをしたのかがわからなくなってきた頃、朝の6時を告げる鐘の音が鳴ります。
「おや。もうこんな時間か。申し訳ないんだけれど、ワタシは今日予定があってね。大した予定じゃ、ないんだけど」
「あー。おつかれー。また話そ!」
「デスペナ明けるまではこっちでエルマと何かしてるからいつでも来てね」
「そう言ってもらえるとゆとりが生まれるよ。取材旅行ってほどじゃないんだけど少し温泉旅館にね。土産話はたくさん持ち帰ることにるよ。じゃぁまたね」
男らしいしゃべり方でゴシック・アンド・ロリータファッションに身を包んだサツキはそう言ってログアウトしていきました。
「最後の違和感がひどいことになってた」
「わかる。さて私も少し眠くなて来たから寝ようかな?」
「うーん。あたしも眠くなってきた。じゃぁ今日はここで解散かな?」
「そうしよう。じゃぁエルマおやすみ」
「うん。おやすみ!」
私はメニュー板を操作し、ツールの終了を行います。
現実世界へと帰ってきた私は、改めて時代の進歩が凄まじいなと感想を抱きつつ、専用端末を外し、掛布団を顔の半分ほどまで持ち上げ、夢の扉をコンコンとノックし始めました。
それほど長時間眠っていたわけではありませんが、身体の疲れも取れ、いい目覚めを迎えられます。
ベッドの中で全身を上下に伸ばし、寝てる間に固まっていた筋肉に血液を流し込みます。
「ふっ……ふぅ」
そして息を吐き出して、ベッドからおきあがります。
いつもと変わらない、無意識にでもできる動作をこなし、ベッドに戻った私は、頭に専用端末をかぶり、TACを起動します。
現実の自分と変わらない体型のアバターを作っていたので、このまま洋服を買ったりすることができるので便利ですね。
そして<窓際の紫陽花>のルームへとログインした私は、ルームを出、少し買い物に行くことにしました。
一昨日、嘉納から聞いた化粧品と少し厚めのカーディガンを買うつもりです。
こちらのツールで買い物してみたかったんですよね。
ゲーム内部百貨店のような場所へ入り、化粧品を選び購入します。
『お支払い方法をお選びください』
えっと。やはり生活費等諸々纏めてあるクレジットカードの支払いが一番いいでしょうか。
そう考えた私は、『クレジットカード払い』を選択します。
『クレジットカードの情報を確認してくください』
私が普段使っていて、この専用端末に保存してあるカードの情報を違いがないことを確認し、暗証番号を打ち込みます。
『初決済を確認しました。次回から暗証番号の入力は不要となります。3万円以上のお買い物の際は……』
クレジットカードを用いた支払いの場合の注意事項が出たので一通り目を通し、購入を完了させます。
その後配送先の住所入力等も済ませ、本格的に欲しい物を買うだけで家に届くという理想の環境が構築されました。
少し、気合を入れておかないと無駄遣いして破産してしまいそうです。
その後、さっと服を見たのですが、私に似合いそうなものがなかったので今回は見送ります。
ポーンという音がなったので、メニュー板を確認します。
エルマからのメッセージのようですね。
『おはようー』
『おはよう』
『買い物中?』
『もう終わっちゃった』
『そっか。結構気に入った感じかにゃ?』
『うん。生活の拡張って考えたらこれほど便利な物はないよ。<Imperial Of Egg>とはまた違う安心感がある』
『そっか。あと2日くらいだっけ? デスペナ』
『うん。正確に言うとあと1日と18時間くらい』
『細かっ!』
『とりあえずはこのツールの有用性を確かめることにするよ』
『もう十分知ってるでしょ!』
『そうだった。エルマは今どこ?』
『ルーム』
『おっけい。いくね』
すぐさまルームへ飛びました。
「おまたせ」
「うーん。やっぱり便利。消費パラメーターとかないし」
「一応お金は消費するんだけどね」
「それもそうですな」
そうエルマと合流し、話し始めます。
「やっ! お二人さん!」
するとすぐ取材旅行中だったサツキがログインしてきました。
「サツキ! 早いね」
「おつー!」
「取材と言っても軽い物だったしね。一人で来ているから暇でね。良かったらワタシとおしゃべりでもいかがかな?」
そう朝、落ちる前に身に着けていたゴシック・アンド・ロリータファッションで頭を下げ、私とエルマの手を握っています。
「服着替えたら?」
少しにやけ顔でエルマがサツキに言うと、顔をボンッと赤く染め、すぐにいつもの格好へ戻りました。
「妙に足元が涼しい感じはしたんだけどね。まず鏡を確認しておくべきだった」
「そう言えば次回作の原稿はもういいの?」
気になっていたことなので聞きます。
「あぁ。それかい? そっちはもうワタシの手を離れて、たくさん刷られてるところだよ。今回の取材は次々回作の取材さ」
「温泉宿のお話か。そっちも読んでみたいな」
「でもまぁ出るのはずいぶん先になるだろうけどね。それまでは再来月発売の新刊で我慢してくれるかな?」
「しかたないね」
「あたし文字嫌いだからサツキが読み聞かせしてー」
「大きなお姫様のご要望とあらば」
そうエルマに向かって一礼します。
「普通に失礼じゃない?」
真顔のエルマが少し本気の目をしていました。
その後、3人でトランプやボードゲームで遊んだり、TACの中の温泉にも行ってみました。
夜の11時を回るころサツキが寝るというのでお開きになり、私もエルマもきりがよかったので、そのまま寝ることにしました。
お昼過ぎまで寝ていたせいか、後30時間ほどで再び<Imperial Of Egg>ができる興奮かはわかりませんが、なかなか寝付けませんした。
『寝る方法』でインターネットサーフィンをしたり、動画配信サイトで動画を見たりしながら、自然と寝てしまうその瞬間を待ちます。
そして、頭に残る夢を見ました。
黒い人型が高い塔から私を、私達を、見下ろし、嘲笑っている奇妙な夢を。
to be continued...
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