第3章8幕 誹り<reproach>

 リンプから黒幕の情報を貰い、すぐさま『セーラム』へ帰ります。

 閉店と書かれている札がかかっている扉をバンッと開け、階段を上り、4階へ行き、ラビの部屋を3度ノックします。

 「ラビ! いる?」

 「どうしたのー?」

 「良かった! ちょっとまってて!」

 ラビが『セーラム』にいることに少しの安堵を覚えますが、すぐさま愛猫姫の部屋へ向かいます。

 「マオ! いる?」

 「いるわ」

 「ちょっと出てきてもらってもいい?」

 「? わかった、わ」

 そう返事をしたマオがクーデレスペシャルを着用して出てきます。

 「これ、きにいったの」

 「よかった。あんまり良くない方に進んでるっぽくて、ラビの部屋まで来てほしい」

 「わかった」

 エレベーターでともに4階へ向かいます。

 

 「はいるね」

 そう声をかけてからラビの部屋へ入ります。

 「どうしたんですか? マオさんも連れて」

 「えーっと、話すと長くなるから手短に言うね。ラビが狙われているかもしれない、それも超高レベルの暗殺特化の人に」

 「えーっ?」

 「だから私の目の届くところに常にいてほしい。もちろんマオも狙われてる」

 「マオも?」

 「たぶんだけどね。だから一応マオも目の届くところにいてほしい」

 「うん」

 「とりあえず何かあった時すぐ≪シフト≫できるように、パーティー送るね」

 私はそういってラビとマオにパーティー申請を送ります。

 すぐ加入をしてもらえたので、その旨を通信機でハリリン達に告げます。

 

 『無事にパーティーに入れることはできたけど、『ヴァンヘイデン』のお姫様のほうはどうしたらいいかな?』

 『そっちは俺が何とかするっす。もしどうしようもなくなったら、チェリーを≪シフト≫させるっす。その場面は絶対に来ないほうがいいんすけど』

 『そうだね。私がそっちに行っちゃったらラビが危険。愛猫姫はデスペナになっても長くて1日だし』

 『その通りっす。とりあえず連絡は逐一お願いするっす』

 『わかった』


 ハリリンとの通信を終え、二人に向き直ります。

 「窮屈な思いをさせちゃうかも知れないけど、許してください」

 罪悪感を感じ、二人に頭を下げ、謝罪します。

 「顔、あげて」

 そう愛猫姫が言うので顔をあげます。

 「マオ、は大丈夫。何かあったら、ラビちゃんを守って、あげて」

 「でも……」

 そうラビが悲しそうな顔をして愛猫姫を見上げると、愛猫姫はニッコリ笑ってラビの頭の上に手を置きます。

 「マオは、すぐ、もどってこれる、から。でも、ラビちゃんは、そうじゃない、でしょ?」

 「そうだけど……」

 「だから、心配しないで」

 「わかった……」

 泣かせますね。

 ええ。

 わかっています。

 私がこの国のお姫様を含めて全員、毛ほどの傷もつけずに守ってみせましょう。


 そのための力は、すでにある。


 私がそう決意するとアナウンスが流れます。

 『【称号】の互換が可能になりました。』

 どういうことだかわからなかったので画面をよく見ます。

 すると、【魔導勇者】が【真魔導勇者】に変化することができるようになったようです。

 私は少しの躊躇もなく、【称号】を【真魔導勇者】へと互換します。

 【称号】の効果やスキルそのものに変更はありませんが、自分よりレベルが低いプレイヤーやNPCとパーティーを組む際、全体のダメージを自分に大幅に移すことができ、自分のスキルの一部を分けることができるようになりました。

 詳しくは使ってみていないのでわかりませんが、パーティメンバーの危険を減らせるというところでしょうか。

 とりあえず、愛猫姫もですが、ラビを確実に守ることだけを考えます。


 「全方位に障壁を張りながら移動するからどこか行きたいときは言って」

 「わかった!」

 「わかった、わ」

 「でもチェリーだって向こうに帰るときあるよね? どうするの?」

 ラビにそう言われ、少し考えます。

 「なるべくこっちにいることにするけど、そういう時は誰かを頼るよ」

 「水臭いぞ! チェリー!」

 後ろから声がしたので振り向きます。

 「そんときくらい、あたしを頼んなさい!」

 エルマのサブキャラクター、風紅ふぁんふぉんが立っていました。

 「エルマ!」

 「いまは風紅だけどね! この短期間で鬼のレベリングして、そこそこ強くなってきたから大丈夫だよ!」

 そう言ってサムズアップしています。

 とても……心強い味方です。


 エルマをパーティーに加え、再び事情を説明しました。

 「ふーん。大方、ハリリンから聞いてたけど、その話の果てがこれかー」

 「うん」

 「ステイシーの力も借りたいよね」

 「そう思う。あとで連絡してみよう」

 「それがいいね!」

 「結構辛い戦いになると思うけど、エルマは大丈夫?」

 「あたしは平気。でもラビちゃんとか愛猫姫にはきついんじゃないかな?」

 「そうですね。すでに戦闘は始まっていますからね」

 この場にいる4人の女性の声ではない、男性の声が、聞こえてきます。

 反射的に障壁を出し、後ろを振り向きます。

 「だれ!」

 私がそう声を出すと彼は慇懃無礼に返事をします。

 「ワタクシ、暗威アン・ウェイと申します。以後お見知りおきを。さて本日はこちらにいらっしゃる皆様に、ご挨拶をさせていただきたく馳せ参じました」

 「目的は何!?」

 エルマが武器を取り、魔法が発動できる状態にして問いかけます。

 愛猫姫はラビを庇うように立ち、目を瞑っています。

 「目的……でございますか? いえ。ワタクシの口から語らずとも、お察しのことかと存じますが、そちらの姫君のお命を頂戴しに参りました」

 「させると……おもう?」

 私はすぐに闇属性魔法で彼の拘束を試みます。

 「≪ダーク・ネクロフィア≫」

 「いえ。無駄でございます」

 一瞬で私の拘束魔法が撃ち消され、自由になった身体を揺らしながら、会話を続けていました。

 「本日は、ご挨拶だけなのでどうこうするつもりはありませんが、どうしてもというのであれば一戦交えましょうか?」

 身体からオーラのようなものをみなぎらせつつ、こちらを威圧してきます。

 「エルマ、ここは私に任せて、少しだけ避難を。おとりの可能性もある。すぐ移動できるようにしておいて」

 「チェリー? 一人で大丈夫なの?」

 「大丈夫。こいつには負けない」

 そう確信にも似た言葉をエルマに投げかけると、少し、あきれたような顔をした後にラビと愛猫姫を連れて転移していきました。

 「お店を壊したくありません。外へいきませんか?」

 「かしこまりました」

 といって後ろを向いた暗威に対して、腰に付けたままの剣を転移させます。

 「≪テレポート≫」

 音もなく転移した私の【神器 チャンドラハース】が暗威の右肺部分に刺さり、動きを止めさせます。

 「流石に卑怯過ぎませんか?」

 血を吐きつつもこちらに首だけ向けそう言っていました。

 「あなたに言われる筋合いはないですね。しばらく向こうの生活を満喫してください」

 そう言って剣を引き抜き、返し手で首を刎ねます。

 卑怯でもいいんです。守るべき者を守るためならどんな誹りを受けたってかまわない。綺麗な手法で守れないくらいだったら悪魔に魂を売っても、守るほうが大事なんです。


 まだ消えていない暗威の胴体にもう一度深く剣を差し、デスペナルティーになったことを確認します。

 こういった手合いは確実に消えたことを確認しておかないと厄介なことになりますからね。

 身体が消えて、蘇生してこないことを考えると、ハリリン達の手回しが上手くいっているようで、すでに『ファイサル』の主犯格達には罪人判定がなされているようですね。


 『みんなどこにいる?』

 『えっと。いまあたしのホーム』

 『わかった。すぐ向かうね』


 エルマのホームにみんないるようで、すぐに≪テレポート≫で向かいます。

 「おまたせ」

 「早かったね! 瞬殺かな?」

 エルマがそう返してくれます。

 「まぁそんなところ。おとりの可能性は?」

 「一応全方位に炎属性の障壁と感知用の風魔法を出して確認してたけど、近くに敵影はないよ」

 流石エルマですね。

 「ごめんなさい……私のせいで……」

 そうラビが顔を下に向け、肩を震わせています。

 「ラビ。気にしないで」

 「でも……」

 「ラビちゃん」

 愛猫姫がラビの顔を両手で包み、自分の顔を見させます。

 「貴女は、悪くない、わ。だから、元気だして」

 より一層ラビの顔が泣き顔になっていきますが、グッとこらえて、こちらを見て微笑みます。

 「ありがとう……」

 「ほんとに気にしないで。うーん。どうしても気になるなら、この件が終わったあと王宮のお風呂に一緒に入って」

 「わかった……」


 一国の姫君で精神も肉体もそこそこ強くたって、女の子なんです。

 いきなり、目の前で殺す宣言をされたら誰だって怖いですよ。もちろん私だって。


 ラビが落ち着くまでみんなで慰め、紅茶を飲みながら会話を始めます。

 「チェリー的にはこの後どうするつもりなの?」

 「どうするって言われてもね。正直、敵本陣に単身乗り込んで国家ごと更地にしちゃいたいんだけど、ラビと愛猫姫を連れて行くわけにいかないし」

 「それ、やってしまったら、チェリーが、重罪判定、されてしまう、わ」

 「ラビ達を守れるならそのくらい安いんだけどね。無関係なNPCを巻き込みたくない」

 「マオに、考えが、あるの」

 そう言った愛猫姫の話を聞いた私は度肝を抜かれました。

                                      to be continued...

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