第3章3幕 窒息<suffocation>
ステイシーの店の地下になぜか存在するダンジョンに向かい、二人で階段を降ります。
「ところでなんでこんなところにダンジョンが?」
「んー。話すと長くなるんだけどー。簡単に纏めるとダンジョンの制作紋章がある空洞を見つけて、地上まで掘ってそこに店を作った感じかなー?」
「な、なるほど」
そう簡単に見つからない制作紋章を見つけてしまうあたり、さすがといったところでしょうか。
「このダンジョンは何系のダンジョンなの?」
ダンジョンには系統がいくつかあって、運営が制作したモンスターダンジョンやNPCやプレイヤーの魔導士が制作した魔術製ダンジョンなど様々な種類があります。
それが気になったので聞いてみます。
「紋章起動だから具体的にはわからないんだけどー、たぶん、魔術製ダンジョンかなー」
一度制作したダンジョンは紋章にしまう事ができ、その紋章にMPを注ぐことによって再度出現させることができます。運営側が制作して、紋章にして置いてある場合もあるので、発見した人の秘密スポットになる傾向があります。ですからこうして紋章を発見したら地上まで階段を掘り、その上にホームなどを設置して、他人がおいそれと入れないようにするのが一般的です。
ステイシーの話を聞く分だと恐らくNPCの高位魔導士が制作したダンジョンだと思われます。確証はないですが。
そう言った会話や考察をしつつ、階段を降りきり、ダンジョンの入口に到着します。
「準備はいいかなー?」
「うん。大丈夫」
「ならいこっかー」
ダンジョンは内部での即時復活や外部とのチャット、ログアウトの制限などがかかってしまいます。
万全の準備というほどではないですが、デスペナルティーによるドロップを防ぐために入口付近に置いてあった倉庫の一部を借り、先ほど購入した簡易倉庫やドロップ品などをしまっておきました。
身体をヌルッと包み込む膜のようなものを通り抜け、ダンジョン内部に入ります。
「何度通ってもなれないなー」
「まだ肌がぬめぬめする」
「そこまでじゃないとおもうけどー」
ステイシーはそう言いながら、目印のように刻まれた跡をたどっていきます。
「どの辺までいくの?」
「んー。もう下の最奥までは攻略が終わってるから上の最奥まで行きたいかな」
「どうして?」
「んー。たぶんそこにチェリーにとって必要なものがあるからかなー」
どういうことだろう、と思いますが、ステイシーなりの考えがあると納得し、後ろをついていきます。
「このまま上にいくよー」
目の前に現れた上と下どちらにもつながる階段を前にステイシーがそう言います。
「わかった」
「上の最奥まで行ったら次は下の最奥までいくからねー」
結構、時間がかかりそうですね。
野営の準備はステイシーがしていたようなので大丈夫そうですが。
階段を上り、一つ上の階層までやってきます。
「ここからはモンスターも出てくるからがんばってねー」
「えっ? ステイシーは戦わないの?」
「僕は上の階層のモンスターに攻撃できないんだー」
「なんで?」
「うーん。僕は下の階層の【称号】を取っちゃったからー」
「どういうこと?」
「チェリーが上の階層の最奥までたどり着けばわかるよ」
「うん。わかった」
戦闘準備を改めて整え、進みます。
「階層は全部でいくつあるの?」
「うーんとー、下が4階構成だったから多分上も4階構成じゃないかなー?」
「りょーかい」
ダンジョンには各階に〔ユニークモンスター〕が守護する階段があり、それを倒さないと階層を進むことができません。
〔ユニークモンスター〕といってもそれほど強力なモンスターではなく、Lv.200を超える人でスキルがマッチするなら単独で容易に突破できる範囲です。
その分報酬もおいしくはないですが。
上層1階をマーキングしながら進み、たまに遭遇する騎士風のモンスターを魔法で消滅させます。
「まぁ1階はこんなもんだよね」
「そうだねー。僕も下階層の時そう思って痛い目を見たよー」
「もっとつよくなるの?」
「うーん3階超えたあたりから〔鬼蜘蛛〕クラスの敵は出てくるかな」
「げぇ……」
自然に湧く、通常モンスターの中でもかなり強い部類に入る〔鬼蜘蛛〕と同等のモンスターが湧くというだけでげんなりします。
1階の〔ユニークモンスター〕である〔等速等倍 アズレイヤー〕という騎士風のモンスターを難なく討伐し2階へ上ります。
ダンジョンには似つかわしくない、騎士風のモンスターがいることに多少の違和感を覚えますが、気にせず進みます。
「騎士風のモンスターが多いね。しかもスケルトンとかゾンビとかのアンデット系じゃないのが気になるかな」
「うーん。僕はちょっとわかってきたかもー」
そういうステイシーに説明を求めますが、ニッコリ笑って保留されてしまいました。
2階になると敵も防具が強化されていたり、武器が等級の高いものになっていたりと多少面倒くさくはありますが歩みを止めることなく進むことができました。
ほぼすべての敵が魔法耐性を持っているので今の私にとってはかなり強敵になりつつあります。
耐性無効化のスキルを使っているので、それを上回る耐性無効を無効化する類のスキルを持つ敵が今後出て来なければいいのですが。
そしてこの階層の奥まで到着し、階段を守護する〔最後の盾 オプティフル・ガード〕という〔ユニークモンスター〕と一騎打ちをします。
高い魔法抵抗、膨大なHPを持つこのモンスターに相当な苦戦を強いられます。
「堅すぎるっ!」
魔法系攻撃はスキルによって軽減、物理系攻撃は防具の性能により軽減という物理と魔法をほぼ完全に防ぐ、恐ろしい敵です。
敵の抵抗を減らすスキルを発動しているのにまるで魔法が通らないことを考えると、抵抗減少に対する耐性スキルをほぼ最大まで取得していると考えられます。
「ステイシー! こいつその辺のプレイヤーの数倍は強いよ!」
そう泣き言を言いますがステイシーは笑ってみています。
手伝ってよ! そう心の中で悪態をつきますが、攻撃できないんじゃ仕方ないですね。
騎士風の装いから考えて、闇魔法に対する防御力は完璧だと推測し、炎魔法や雷魔法での攻撃を主体にして戦っていますが、効果があるかはわかりません。
しかし、〔オプティフル・ガード]は一切攻撃をしてこないので、こちらのHPが減ることもありません。
千日手……そんな言葉が頭をかすめていきます。
絶対に攻撃を防ぐ最強の盾。
〔最後の盾〕にふさわしい敵ですね。
このような敵はダメージを与えて倒す事より、状態異常で倒したほうが楽というセオリーがありますが、実行するのにも高い魔法耐性を通り抜けるほかありません。
いままでたくさん苦戦はありましたが、仲間の力や、詠唱魔法の爆発力で偶然切り抜けてきたことが多いのも事実です。
なるほど。これが私の欠点ですか。
ジュンヤは知っていたようです。
おそらくステイシーも。
自分の力が完全に発揮できる状況であれば敗北はなかったのです。
そして自分の力が不完全にしか発揮できないこういう場面において、仲間の援護なしでは勝利はなかったのです。
いままでジュンヤとの対戦で負け続けていたのもそういうことだったんだと思います。いまでは魔法攻撃も選択肢に入っているので実際のところはよくわかりませんが、魔法を完封されるのは目に見えているので結果は変わらないと思います。
〔オプティフル・ガード〕が一切の攻撃をしてこないのをいいことに、焦りのせいか上がっていた呼吸を整えます。
かつてない息苦しさですね。
窒息しそうなくらいです。
呼吸を整え再び攻撃魔法を放ちます。
貫通力に特化した魔法を複数同時に放ちますが魔法の威力を減少させ、防具に完全に阻まれます。
打つ手がなくなってしまいました。
減ったMPをポーションで回復し、止まっていた呼吸を再開します。
ん?
呼吸?
試してみる価値はありそうですね。
かつて聞いたことがありました。
ダメージを完全に無効化する〔ドラゴン〕の話を。
今思い出しました、その〔ドラゴン〕の末路を。
窒息させればいいんです。
そもそも呼吸をしていないモンスターであればこの手は悪手になります。
ですが鎧をよく見ると、完全に密閉されているわけではなく、頭部に呼吸のために空いているであろう穴があります。
ならば試してみる価値はあるでしょう。
「≪アクア・キューブ≫」
中級水属魔法で立方体を作り出し、〔オプティフル・ガード〕を閉じ込めます。
「≪フィル・ウォーター≫」
樽などの内部を水で満たす初級水属性魔法を発動し、立方体の中を水でいっぱいにしてみました。
すると兜の隙間からボコボコと泡が漏れ出し、ほとんど姿勢を崩さなかった〔オプティフル・ガード〕が持っていた盾を手から落とし、もがき始めます。
やはり呼吸はしていたようですね。
尋常ではない暴れ方をする〔オプティフル・ガード〕を見つつ、追い打ちに雷属性の魔法を放ってみます。
「≪サンダー≫」
水の牢獄に電気がまとわりつきましたがあまり変化はないようですね。
窒息状態でも耐性スキルには影響しないようですね。
もがいてはいますがなかなか倒れる気配がありません。
ある程度の窒息抵抗も持っていたのかもしれません。
溺れて苦しむ者を見続けるのは精神的にきついので目をそらします。
そらした先でステイシーと目があいますが、彼はニッコリと笑って返してくれました。前から鬼畜っぽいなとは思っていましたがこの惨状を見て笑えるのは相当ヤバイですよ?
もう数分経つと、〔オプティフル・ガード〕はもがくのを止め、水の牢獄の中で仰向けに固まりました。
消滅しないことを考えると仮死状態かもしれませんね。
仮死状態や気絶状態の時は抵抗スキルなどが一切発動しなくなるので攻撃するなら今がチャンスですね。
そう考え、雷魔法の出力をあげます。
「≪ライトニング≫」
〔オプティフル・ガード〕の鎧を電流が走り抜け、青白く光ります。
スキルを維持したまま少し待つと、ビクンと身体が跳ね上がり、消滅しました。
それを確認した私は膝をペタっと地面につけ座り込みます。
「強かった……」
「おつかれさまー」
ステイシーがそう声をかけてくれますが、返事する気力がもはやありません。
「よしー。次の階層へ進むよー」
そう言って階段にを登り始めます。
やっぱり鬼畜だよ。この子……。
to be continued...
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