第3章1幕 認識阻害<recognition inhibition>

 カロンティアから聞いた言葉をハリリンに伝えるため、私は≪テレポート≫でハリリンの座標に転移します。

 「ハリリン!」

 「うお! どうしたっすかチェリー」

 「『ヨルデン』の国王夫人がちょっと気になること言っててね」

 「どういうことっすか?」

 カロンティアはこう言っていました。


 『外の人達のペナルティーを調べるために利用したファン倶楽部共はまだ戻ってきておりません』

 『上手くいけば姫共の殺害まで遂行できたものを……まぁいい。何日くらいでペナルティーが終わるのかだけはちゃんと報告せよ』

 『ハッ』

 

 という会話を変装して街を歩いているときに聞いたそうです。

 それをハリリンに伝えました。

 「なるほどっすー。ちょっとまつっすよー」

 そう言っていつもの隠密隊かどこかにチャットを送っています。

 チャットし終えるのを待っているとハリリンが話しかけてきます。

 「チェリーこのあと時間あるっすか?」

 「まぁ一応あるけど」

 はやく愛猫姫のところに戻りたいのですが、乗り掛かった舟なので仕方ありません。

 

 そうしてハリリンに連れられ、穴場的なバーに行きます。

 「おまたせっすー」

 「おそいですよハリさん」

 「遅れてないっす」

 「冗談です」

 黒い服に身を固めた、隠密部隊の典型のような人達が待っていました。

 「チェリー。これから話す事は口外厳禁っすよ?」

 「エルマ達にも話しちゃダメ?」

 「うーん。まだ駄目っす。もうちょっと情報の裏付けが取れてからじゃないと」

 「わかった。口チャックモードにしておくね」

 「っとそのまえにこの3人を紹介しておくっす」

 「うん」

 「右からカリアン、一郎、八城っす」

 そうハリリンが紹介すると各々、会釈をくれたり右手をあげたりしてくれました。

 「この3人は俺が育てた……っていうよりかは弟子になってくれた優秀な諜報部員っす」

 なるほど、よくチャットしていたのはこの人達だったんですね。

 「とりあえず何か飲みながら話すっすよ」

 そう言ってお酒を数点とつまみを数点注文しました。

 「こんなところでしゃべって大丈夫なの?」

 「それは問題ないっす。マスター」

 ハリリンが呼ぶと、グラスにお酒を注いでいたマスターがニコっと笑い、魔法を発動します。

 「≪レコグネイション・インファビット・フィールド〔範囲:穴熊〕〔対象:ハリリン、一郎、八城、カリアン、チェリー、リンプ〕≫」

 そう詠唱魔法より長い言葉をつぶやきます。

 「いつでも大丈夫ですよ」

 マスター……リンプがそういいます。

 「すぐ発動しちゃっていいっすよ」

 「了解です。≪ジェネレート≫」

 そうすると空間が一瞬ぶれたように感じ、お店の中にいる私達とマスターだけを包み込む虹色の空気が流れ始めます。

 「これが音声遮断魔法なんですねー」

 昔、エルマが習得を目指していたらしいんですが、そのスキルを持つ武器や、【称号】の情報が一切なくて諦めたことがあるそうです。

 「いえ。音声遮断魔法ではないですよ。認識完全阻害魔法です」

 「そんなものがあるんですねー」

 「この魔法の対象であれば、何をしても対象外の物に気付かれることはありません」

 「すごいですね」

 「その分習得は大変でしたが。失礼。続きをどうぞ」

 「はいっす。まずチェリーが聞いたことをもう一度話してほしいっす」

 「わかった」

 先ほどハリリンに言ったことをそのまんま伝えます。

 「なるほど……NPCからすると俺たちが何日で戻って来るのかなんてわかるわけないですよね」

 一郎が言います。続いて八城と呼ばれた男性も意見を述べます。

 「そこも気になるが、俺は姫の皆殺しっていうのがきになる」

 もう一人の顔までマスクで覆った人は言葉を発していないですね。

 「カリアンはなんかないっすか?」

 「私は特に」

 えっ? 声が高い! 女性だったんだ!

 「チェリーはどうおもうっす?」

 「うーん。プレイヤーがいつ戻ってくるかってのをなんで知る必要があるのかは気になるよね。あとは姫共を殺すっていう不穏なワードも気になるかな」

 「まぁそうっすよね。この会話の内容で気にならないところは正直ないっすね」

 「ということで俺が掴んでる情報をはなしても?」

 八城がそう言い、私達を見渡します。

 「まずハリさんがちょっと前に遭遇したっていう〔血の誓い〕を持っているかもしれない相手のことなんだが」

 あっ! 私もそれ知りたい!

 「まず『岩塩都市 ファイサル』の国王が殺害されていた。それも随分前にだ」

 やっぱり。ちょっと想像はできていましたね。この国のお姫様が外交に行ったのに姿を見せなかったらしいですし。

 「そうして新たな国王になったのはグリンドルという輩だ。少し調べただけでも悪事が出てくる出てくる」

 ん?

 「ちょっとまってください。国王様が殺害されたのであれば次の国王様は子供や奥さんがなるんじゃないんですか?」

 「それは子供や奥さんがいたらの話だ」

 「いなかったんですか?」

 「あぁ」

 「なるほど。だから殺して立場を奪ったと」

 「そうなるな」

 となると、『ファイサル』という国自体が腐敗を始めているかもしれないと。

 思い出したことがあったので話します。

 「そういえば、『ファイサル』の岩塩鉱山で機械化された改造モンスターに襲われたことがありまして、それを案内所で依頼出そうとしたんですけど、その依頼は出せないと突っぱねられてしまいました」

 「アウトだな」

 ハリリンと一郎も同様に呟きます。

 「じゃぁ俺も掴んでいる情報を出しますね」

 そう一郎がバトンを受け取ります。

 「たのむっすー」

 「『猫姫王国』の事なんですが、どうもナンバーワンのジルファリをそそのかした奴がいるっぽいんです」

 「ほう……?」

 興味深そうにカリアンが言います。

 「カリアンが反応するのは珍しいっすね」

 「そう? ギルドのサブマスがさらに傀儡だったとなったら面白い」

 「ギルドメンバーは傀儡の傀儡ってことっすもんね」

 「ジルファリはデスペナにしてしまったのですが」

 「それは平気ですよ。リアルで集めてくればいいので」

 リアルで! 行動力あるなー。

 「リアルでは探偵なのでこの程度朝飯前ですよ」

 探偵……! かっこいいなぁ。

 私も探偵とかやってみたいです。

 

 「んじゃぁまぁその2点はおいおい情報をあつめるとするっすか。マスターは何かしってるっすか?」

 「そうですね……。まず先の『猫姫王国』の一件に関してなんですが、傭兵を雇っていたのはご存知でしょうか」

 私を含めみな知っていると返事をします。

 「ありがとうございます。それを雇っていたのは『猫姫王国』ではないというのはどうでしょう」

 えっ?

 他の4人も驚いたようで、声がでていませんね。

 「この情報は高くなりますね」

 そう言ってリンプは箱を取り出しました。

 ハリリンや一郎がお金をチャリーンと入れたのを見たので私もチャリーンと課金します。

 「毎度ありがとうございます。では雇った張本人の名前をお教えいたしましょう。それは『岩塩都市 ファイサル』所属国家騎士団副団長のローゼン・レイベルガーです。及びその団長リールドロベル・マスラカイレンも関与しております」

 いきなり黒幕っぽい人達の名前を聞いてしまい、背後から刺されるんじゃないかと怖くなり、振り向きます。

 って認識阻害の結界が張ってあるんだった。

 「これは大収穫っすね。一郎、カリアンは副団長を、俺と、八城が団長を調べることにするっす。チェリーはその間愛猫姫のフォローと『ヴァンヘイデン』のお姫様、あと従業員のお姫様の護衛をお願いするっす」

 ラビがお姫様ってどこで知ったんだろう。

 まぁハリリンだしその辺はお手の物ってところかな。

 「愛猫姫とラビのことはわかったけど、なんで『ヴァンヘイデン』のお姫様まで護衛するの?」

 「あーっ。それは騎士団が絡んでるからっす」

 「どゆこと?」

 「つまりっすねー」

 

 ハリリンの説明によると、国家騎士団は他国の騎士団と連携することも多く、訓練なども合同で行っているため、『岩塩都市 ファイサル』の息のかかったものが混じっているかもしれないということでした。

 「でも私、複数人を同時に護衛なんてできないよ? 分身系のスキルとか持ってないし」

 「のーぷろぶれむっす。チェリーには【医師】のスキルで≪スキャン≫があるじゃないっすか」

 「どうして≪スキャン≫?」

 「≪スキャン≫で情報を記憶しておけばいつでも≪テレポート≫できるっす。あとは秘密兵器が使えるっす」

 「なるほど。でも姫様に触れた時、まだ【医師】もってない」

 「そうだろうと思ったっす」

 ハリリンが胸のポケットから小さい袋を取り出し渡してきます。

 目で、あけるっすよー、と言っている気がしたので、開けてみます。

 

 …………。


 うえぇ……。


 髪の毛がごっそり出てきました。

 「俺が直接王城に忍び込んで、ヘアメイクの人が捨てたゴミをごっそり持って帰ったっす!」

 「「きもいわー!」」

 ん?

 言葉が妙に重なったので正面を向くと大声をあげたカリアンと目があいました。

 なんだろう、この人とはすごく仲良くできる気がします。

 「と……とりあえずチェリーはそれを≪スキャン≫してお姫様の情報をスキルに記録するっす」

 凄く嫌でしたが、護衛のためなので我慢して触ります。

 「≪スキャン≫」

 スキルを発動すると、髪の毛の持ち主である、ツンドルト・デレモーラ・ヴァンヘイデンの身体情報がすべて脳内に流れてきます。

 「そしたら情報が見えてるっすよね?」

 「うん」

 「この〔スクロール〕を使ってほしいっす」

 そう手渡された古い巻紙を受け取ります。

 〔スクロール〕はあまり使ったことがないので詳しくはありませんが、呪文を魔力を込めてた保存用の巻物に打ち込むことによって一度に限りMP、TP、EN、SP等の消費なく発動することができる道具だったはずです。


 とりあえず言われるがままに発動させてみようとおもいます。

 巻物の封を解き、紙を引っ張ります。

 そして対象に意識を集中させながら起動句を宣言します。

 「≪オープン・ロール≫」

 〔スクロール〕の魔法を発動させました。

 すると巻物に書かれた文字が勝手に浮かび上がり、紙からはがれていきます。

 徐々に文字が一つに集まり、形を成していきます。

 

 「目……?」

 夜空で作られたような幻想的な目が浮いていました。

 「その魔法は≪ナイトスター・スニーキングアイ≫っす。うちら諜報系の人はみな習得する魔法っす」

 「なるほど。確かにこれは発見が難しいね」

 「そうっすね。≪自動看破≫、≪自動隠蔽≫、≪自動隠形≫などなど諜報員必須のスキルをすべて備えてる優れものっす」

 それだけじゃないんすよ! とハリリンが付け足します。

 「発動中にMPをさらに消費して、≪感覚同調≫ができるっす。これで離れていても見えるわけっすね」

 なんか少し背筋がゾッっとした。

 「ハリリンお前、これ私につかってないだろうな?」 

 「そんなまさかっすよー。そんだけMPあったら≪隠形≫で髪の毛舐めるっす」

 「「死んどくか?」」

 あっ。またカリアンと被った。

 「と、とにかくっす! なるたけその子を使って見ててあげてくださいっす。その子は≪シフト≫も入ってる超優秀な子っすからダメージを受けたら即チェリーと≪シフト≫するっす」

 便利なのか不便なのかわからない……。

 お風呂中とかに飛ばされたら悲惨ですね。その時は視覚を共有するようにしましょう。

 

 そこで話は一度中断し、運ばれてきたつまみとお酒をいただきます。認識阻害の魔法も解いてしまったので話の続きは後日ということになり、みんないい感じにでき上がってしまったのでので今日はお開きになってしまいました。

 私は千鳥足で『セーラム』へ帰り、エレベーターで4階まで上がり倒れこむようにベッドに入って寝てしまいました。

                                      to be continued...

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