第2章13幕 誤解<misinterpretation>

 「≪ハイドロ・スピア≫」

 ステイシーの貫通力をあげた水魔法が愛猫姫に直撃します。

 「相変わらず、容赦がないのね」

 無傷で椅子に座ったまま愛猫姫がそういいます。

 「俺も足が生えたから混ぜてくれや」

 先ほどまで座っていたジュンヤも駆け出し愛猫姫を攻撃しますが、やはりダメージが通らず、彼女は座ったままでした。

 普通の防御スキルじゃない!

 「ジュンヤ、ステイシー!」

 思った事えお伝えようと声をあげます。

 「わかってる! これは防御系じゃねぇな! 条件付きの完全無効化だ!」

 条件付きの完全無効かですと〔血の誓い〕を使ったものを思い浮かべますが、あれは自国の領土内でないと効果が発動されないので今回は違うでしょう。

 そしたら愛猫姫のあのスキルはなに?

 特定の行動中の無効化……?

 特定の範囲内におけるダメージの無効化?

 いえ、そのどちらでもないでしょう。

 

 「もしかしたら肩代わり系のスキルかもしれないっす」

 そうハリリンに言われハッと気付きます。

 「そっか! それなら……。あっ!」

 気付いてはいけないことにも気付いてしまいました。

 肩代わり系であれば肩代わりするためのプレイヤーもしくはモンスターが近くにいないといけないのです。

 ≪探知≫に引っかからないほどの隠蔽を有するモンスターでしたらHPは極微小なので数回攻撃すれば肩代わり系のモンスターは消滅してしまうはずです。

 つまり肩代わり系ではないと確信が持てます。

 「ハリリン。『猫姫王国』の残党勢力は?」

 「へっ? もうギルマスの愛猫姫だけだと思うっす。大規模戦闘の時にログアウト中だったプレイヤーが来てもギルドマークですぐに狩られてたっす。トップ層以外はそこまで強くないっすから」

 「じゃぁ肩代わりの線はないね」

 「うぅーん。なんか引っかかるっす」

 「どうしたの?」

 「ちょっと≪鑑定≫してみるっす。≪鑑定≫っ!」

 ハリリンが≪鑑定≫を発動し、愛猫姫のステータスを覗きます。

 「これは……なるほどっす……だからだったんすね……」

 「なに?」

 「驚かずに聞くっすよ?」

 「わかった」

 ゴクッと唾を飲み込み、ハリリンの話を待ちます。

 「まず愛猫姫はLv.100っす」

 えっ? という言葉を漏らしそうになりますがなんとか飲み込みます。

 「次に全身を神格装備……【神器】かそれに類するもので固めてるっす」

 それは何となく想像できましたね。

 でも転生を一度も終えていないプレイヤーが全身を【神器】クラスの装備で埋めれるんでしょうか。

 流石に【神器】をポンポン渡せる人なんていないでしょうし。

 「最後に……【傾国美人】の【称号】もちっす……」

 【傾国美人】!

 戦闘効果のある【称号】ではありませんが、同系統の【称号】全てが条件不明という激レア【称号】ですね。

 「【傾国美人】にこの無効化の理由があると思う?」

 「いや。さすがにないと思うっすけど……可能性は0じゃないっすよね」

 「だよね」

 では愛猫姫は〔最強〕プレイヤー2人の攻撃をLv.100で防いでいるのでしょうか。

 装備に秘密があるのか、もしくは何かしらのトリックがあるのか。


 考えてもらちが明かないので一旦保留します。

 その間にハリリンも戦闘に参加し、3人で攻撃しています。

 

 数分間3人が攻撃して居ると、愛猫姫が立ち上がり、言葉を発します。

 「もう、やめて」

 天界から響く鈴のような声音に男性プレイヤーである3人の手が止まります。

 「どうして、こんなにひどいこと、するの?」

 「それは……お前が大量虐殺なんてするからだろっ!」

 「え……?」

 「しらばっくれてもむだっすよ!」

 「マオ、ほんとに、わからないわ」


 同じ女性だからでしょうか。

 私は愛猫姫が嘘を言っているようにはどうしても見えなかったのです。


 何か……私達は、大きな勘違いをしていたのかもしれません。


 「ジュンヤ、ステイシー、ハリリン。少し私に話させてもらえない?」

 「チェリー……わかったよー」

 ステイシーが承諾してくれたので、私は愛猫姫のそばまで歩きより、話しかけます。

 「少し話しませんか?」

 「なぁに?」

 

 テーブルの上に出しっぱなしになっていたティーセットを使い、紅茶を入れ愛猫姫に渡します。

 「ありがと」

 「いえいえ。まずお聞きしますね」

 「なにかしら?」

 「貴女はご自分のギルドメンバーがどうして倒されてるかは知っていますか?」

 「知らないわ」

 「……。実は……」

 

 そう私は今までの経緯を話します。

 都市が一つ壊滅し、その都市に住まう住民が皆殺しにされたこと。

 それにより廃都市となった『賭博街 ギャンドウェルン』を『猫姫王国』が占拠し、独立して国家になったこと。

 野放しにはできないので、NPCの殺害を行ったプレイヤーに対し、国々が連盟として重罪判定をだし、国の壊滅のために他国ほぼすべてのギルドが参加したこと。

 全てを愛猫姫に伝えました。


 「そう……だったの」

 「はい」

 「マオも、少しお話、いいかしら?」

 「どうぞ」

 「まだ、VRになる前、の話なの。いつも通りゲストのお客様と、話していたの。毎日、指名してくれて、助かってたわ。その人に誘われたのね。このゲーム、やってみない? って」

 ありがちな話ですね。

 「やることも、にゃんこの世話以外なかったわ。だから少し、やってみたの」

 猫飼いだったみたいですね。名前からして猫好きなのは想像できてましたが。

 「何もできない、けど、楽しかったわ。さそってくれた人が、全部、倒してくれたし、装備もいっぱい、お金もいっぱい貰ったわ」

 あー。いいなー。私もそういうパパみたいな人ほしい。

 「いつの間にか、ギルドができて、て。マスターを委任されて、やってたわ」

 なるほど。自分で作ったギルドじゃなかったんですね。

 「ジルが全部やってたから、私は何もしなくていいって、言われてたわ。ジルはどこに行くにも一緒よ」

 あのジルファリとかいう輩、結構どころか相当ヤバイ奴だった可能性がありますね。

 もしかしたら、リアルでもこっちでもストーカー?

 「VR化、したあとすぐ、ジルから国を建てるから、国王になって、って言われたの」

 あぁー。アウトですね。

 「ジルに、連れられて『ブラルタ』に行ったわ。イルカがすごく、かわいいの。マオは、リアルだと、見に行く時間ないから」

 ここまでの話を聞いて私は確信します。

 愛猫姫じゃなくて、ジルファリとかいうやつが全ての元凶だったと。

 「戻ってきたら、とても可愛いお城が、たってたわ」

 突貫工事だったみたいですね。【大工】とか【建築家】とかの【称号】持ちの一人や二人いてもおかしくないですしね。

 「でもあまり長居できなくて、すぐここに来たの。おうち作ってくれるって、言ってたから。土埃がひどかったわ」

 なるほど。そうやって愛猫姫に知られないように悪事を働いていたようですね。

 

 「話してくれてありがとうございます」

 「女性と話すのは、久しぶり、だったわ」


 私はスッと席を立ちあがり、3人に伝えます。

 「愛猫姫が主犯じゃなかった。主犯はさっき倒したジルファリ」

 「だけどよぉ? それで納得しろってのは無理があるんじゃねぇか? なぁ? チェリー?」

 でしょうね。こういう反応が普通でしょうね。

 「チェリー。ちょっといいかなー?」

 そうステイシーが話し駆けてきます。

 「うん」

 ハリリンとジュンヤから離れ、話を聞きます。

 「チェリーにだけは言っておこうとおもってねー」

 「なに?」

 「愛猫姫は……僕の血縁者なんだー」

 「へっ? えっ?」 

 「驚かせてごめんねー」

 「ちょっとまって。じゃぁ因縁がありそうな感じのやり取りとかは?」

 「あれはリアルからのいざこざを引き摺ってただけー。でも今でも愛猫姫を討つつもりではあるよ」

 「どうして? リアルの問題?」

 「いやー。ただ、あの……。自分は何もせずに他人にすべてをやらせるあのスタンスが嫌いなだけだよ。むこうでもこっちでもね」

 あっ。ちょっと今の言葉は私にも刺さったかもしれない。

 それに、とステイシーが目を細め、睨みつけるように付け加えます。

 「ギルドメンバーの不祥事なんだ。ギルドマスターの彼女が責任取るってのが道理じゃないかな?」

 「一理あるね。でも情状酌量の余地はあるよ」

 「さっきのジュンヤじゃないけど、それで納得できる人は少ないと思うよ」

 ですよね。

 「どうしても庇う?」

 「庇うよ。だって私には悪い人に見えなかったから」

 「じゃぁチェリーも敵になるだけだよ?」

 「かまわない。私も決めたから」

 「そっか」

 「ちょっと、まって」

 ある程度離れていたつもりだったのですが、愛猫姫に聞かれてしまっていたようですね。

 「なにかなー?」

 ステイシーがそう尋ねます。

 「ジルが、もどってこないのは、重罪判定、のせい?」

 「そうだねー」

 「ならマオを、倒して」

 「いいんだね?」

 「かまわないわ。スキルも解いてあるの」

 「≪ハイライトニング・スピア≫」

 直後ステイシーが魔法を発動し、愛猫姫を打ち抜きます。

 Lv.100でしたら耐え切れないほどのダメージの攻撃が直撃します。

 そして愛猫姫はデスペナルティーになりました。

 

 瞬きをするくらいの時間で蘇生してきましたが。

 「マオは、もどってこれたわ」


 それを確認した、ステイシーは杖を降ろし、愛猫姫に言います。

 「面倒なことに巻き込まれるのは変わってないね。でもお前に責任がないわけじゃない。覚えておけよクソオンナ」

 そう言い残し、去っていきます。

 「あら。マオが嫌い、なのね。心当たりが、ないわ」

 「込み入った事聞いてもいいですか?」

 「なぁに?」

 「ご家族はいるの? リアルで」

 「いるわよ。6つ離れた、弟が、ね」

 「そうですか」

 「マオのこと、嫌ってるあの子に、ちょっと似てる、かしら」

 「ふふ」

 「なにか、面白かった?」

 「いえ。こちらの話ですので」


 少し愛猫姫を待たせ、ジュンヤ達のもとに一度行き、話します。

 「愛猫姫が主犯じゃないからって俺たちが庇うだろ? でも周りのやつらが狙ってくるのは変わらんぜ」

 「そのとおりっすね。でも国家首脳クラスの後ろ盾があればいけそうっすね」

 国家の後ろ盾……あっ!

 「『ヨルデン』! あそこの国王様なら話くらいは聞いてくれるかもしれない!」

 「チェリーならもしかしたら行けるかもしれないっすね」

 「ラビにチャット打ってみる」


 『ラビ今大丈夫?』

 『大丈夫だよ!』

 『ちょっと話があるんだけど』

 『なになにー?』

 『国王様に謁見して、愛猫姫の無罪を主張したい』

 『えー! どういうこと!?』

 『詳しくは長くなるから合流してから話すね』

 『わ、わかった! 一応お父様に声をかけてアポ取っておく!』

 『ありがとう、ごめんね』

 『いいよー』


 「『ヨルダン』の国王に謁見させていただけるかもしれない」

 「ナイスだ。俺らまで出張っていくのはいい印象を与えないかもしれんな」

 「まって。ギルマスのジュンヤが居たほうが都合がいいと思う」

 「俺も賛成っす。ちょっと根回ししてくるっす」

 そういいハリリンは後ろを向きチャットを始めます。

 「僕はいかないでおくよー」

 「わかった。じゃぁ俺とチェリーでいくぞ」

 「愛猫姫も連れて行くよ」

 「おい」

 「本人が居るのが一番いいと思う。今後のこともあるし」

 「それも……そうか。わかった。お前から話してくれ」

 「うん」


 「愛猫姫さん」

 「マオでいいわ」

 「じゃぁマオ。これから『騎士国家 ヨルダン』に行きますよ」

 「『ヨルダン』? 何を、しにくの?」

 「国王様に会ってもらって、直接弁明してもらいます。もちろん私達もフォローします」

 「そう。なら見栄え、よくしないといけないわ」

 そう言って装備を変え、ドレスのようなものを身にまといます。

 「これなら、どう?」

 「超綺麗」

 「うふふ。ありがと」


 『チェリー!』

 ラビからチャットが返ってきました。

 『どうだった?』

 『お父様あってくれるって! できれば本人を連れてきてほしいとも言ってた!』

 『うん。そのつもり。一回『セーラム』にもどるね。地下室にお茶の準備お願いできるかな?』

 『わかりましたー!』


 「アポ取れたよ。一回『セーラム』に帰るね」

 「よかったっすー。根回し間に合ったっす」

 「さすがハリリン」

 「もっと褒めるっすー」

 「はいはい」

 「僕はやり残したことがあるからここでーまたねー」

 「おう。またな!」

 「またっすー」

 「ステイシーありがとね」

 「また、あいましょう」

 愛猫姫が挨拶すると苦笑いをステイシーは浮かべ、≪テレポート≫でどこかへ行きました。


 私も≪ワープ・ゲート≫を発動し、『花の都 ヴァンヘイデン』に飛びます。

                                      to be continued...

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