第2章4幕 真空<vacuum>
階段を音を立てないように上るのはもはや意味をなさないので普通に上ります。
「階段での迎撃はなかったねー」
ステイシーがそういうように多少は警戒していたので、少し落ち着けます。
お互いにポーションをチビチビ飲みながら2階まで上りきりました。
「≪探知≫」
恒例の≪探知≫ですね。
「おやー?」
「どうしたの?」
「いやーこの階には誰もいないみたいなんだよー」
「隠形系のスキルの可能性は?」
「たぶんないかなー。僕のスキルレベルならほぼ無条件に見れるはずだからー」
「たしかに」
ということは、下の階も守りを捨て、愛猫姫の警護に全員が回ってると考えたほうがいいですね。
「ステイシー。援軍が来るまで、上るの中止」
「あいさー」
そう言って私達は先ほどリーフルがいた部屋の上の部屋に入ります。
「≪光学迷彩≫」
ステイシーのスキルで姿だけは隠します。
「どのくらいで到着しそう?」
「えっとー。あと4.5分ってところかなー。まだ正門前の突破に時間かかってるみたいー」
あそこはジュンヤが居るので問題ないでしょう。4.5分は長いですが、息を殺して待つことにします。
「チェリー。のむかいー?」
優雅にティーセットを取り出し、ステイシーが飲み始めます。
緊張感が……。
「もらう」
ずずっと紅茶を飲みながら到着を待っているとにわかに下の階が騒がしくなってきます。
「きたみたいだねー」
「そうみたい。≪光学迷彩≫といて」
「あいさー」
≪光学迷彩≫を解き、扉を少し開け、様子を確認します。
盾持ちの剣士が7.8人と遠距離支援職2人、ジュンヤ、纏花の姿もありますね。
「みんなーまってたよー」
ステイシーが顔をだし部屋へ呼び込みます。
「これで全員かなー」
「一応な。かなりの数がやられちまった。正門周辺の監視に半数残してきた」
ジュンヤ達と軽い情報交換を済ませ、今後の作戦を確認します。
「まず、チェリーとステイシーはお互い連携して愛猫姫を追い詰めろ。盾持ちと支援はその援護だ」
「のこりはどうするんです?」
纏花がジュンヤに聞きます。
「俺とお前で雑魚は狩る」
「それが一番ですかね」
「あとは臨機応変に頼む」
まずは先頭に盾持ち剣士を4人配置し、その後方にジュンヤ、纏花が続きます。
そして盾持ち剣士をもう3人おいて、私とステイシー、支援職が続く形になりました。
「今のうちに回復できるもんは回復しておけよ」
「ポーションなら私たくさん持っていますので、よかったらお使いください」
インベントリから取り出した大量のポーションを地面に撒きます。
2分ほどの休憩を取り、進軍を再開します。
「さぁ気合入れていくぞ!」
「おー!」
便宜上第一班となずけられたジュンヤ隊が先に扉を出て、階段を駆け上っていきます。
数秒遅れて私達の第2班も続きます。
階段を上っていると激しい戦闘音が聞こえ始めます。
階段から察するにこの城は4階で構成されており、3階にも敵はおらず、そのまま4階まで上っていったようですね。
「≪探知≫」
私に言われるまでもなく、ベテランのステイシーが≪探知≫を使用します。
「うんー。いるねー。しかもこれはかなり強敵だよー」
「四天王クラス?」
ギルド『猫姫王国』には四天王と呼ばれる超人プレイヤーがいると聞きます。
貢いだ金と経験値が上位4人じゃないといけないとか……。
「僕一人じゃ厳しいかなー」
「二人でやろっか。盾持ち2人残ってください。残り一人の盾持ちと支援職の子は上階へ向かってください」
「わ、わかりました!」
そうしてステイシーが言う強敵のいる部屋へと向かいます。
「では作戦通りのお願いします」
事前に、盾持ちの人にはガードに徹してもらうことにしてもらっていたので確認しておきます。
「がんばります」
「1秒でも長く生きてます」
さすが正門前の混戦を勝ち残ってるだけはありますね。死ぬのがわかってらっしゃる。
実際、私とステイシー二人がかりで倒せなかったら、上階まで援護に行かれ、連合の敗北は必至ですからね。意地でも勝ちますよ。10日間のデスペナルティーの間に何が起こるか考えたくもないので。
「待っていた」
「しってました」
「しってたよー」
「ここに来るのは〔槍最強〕だと思っていたんだがな」
「ジュンヤじゃなくてごめんねー」
「なぁに。気にするな。早速始めるか。っとそのまえに……」
ゴゥっと風が吹いた瞬間に盾持ちの2人がパンと軽快な音を立て爆発し、消滅しました。
「邪魔者には退場していただこうか」
「やるねー」
こいつは強敵なんてもんじゃないですよ。
間違いなく〔最強〕クラスです。
「一応名乗りをあげておこうか?」
「じゃぁおねがいするよー」
「ギルド『猫姫王国』ナンバーツー【トリックスター】アイザック」
「ま……【真理の魔導士】ステイシー」
「【闇神官】チェリー」
少しばかり睨むような視線がこちらに向いて飛んできましたが嘘ではないので気付かなかったフリをします。
「こいつが地面に落ちたら勝負開始だ。最もその瞬間に勝敗は決するがな」
そう言い、懐から金貨を取り出し、上に放りました。
『まずはガードするね』
パーティーチャットでステイシーに伝えます。
『念のため僕もガードで』
キーンという音が鳴った瞬間、空間から音が消えました。
「≪フルキャスト・ドーム≫」
「≪フルキャスト・シールド≫」
全属性の魔法を一斉に発動するフルキャストで対策を打ちます。
私の張ったドームに激突する感触が音ののわりに大きい気がします。
「たぶん空気操作系のスキルを持ってるみたい。音が小さいのはドームの外が真空だから?」
盾持ちの二人がパンってなった理由が分かりました。
「真空……。ドームから出たらパーンだね。維持に全力だす」
「じゃぁ攻撃は僕が。真空状態の度合によるけどなら電気が有効のはずだから」
「物理はさっぱりだからまかせる」
ドームをさらに内側にマテリアル、フルキャスト、マジック、の順で3枚構築し、ステイシーの魔法を待ちます。
「≪テレ・サンダー・ストライク≫」
遠隔発動のできる雷属性魔法ですね。
「そこまで真空度合は高くないみたい」
そうなんですか。
「でもスキルの検討がつかないよ」
私もつかないです。
「とりあえず姿が見えないと攻撃も当てられないよー」
よく言われてみれば姿が見えませんね。
真空……。真空……?
真空って密閉されてないとならないよね?
「ステイシー。窓ガラス割ってみたら?」
「かしこい!」
「もっと褒めていいよ」
「≪テレ・ライトニング・ピアス≫」
ステイシーがガラスに向かって魔法を発動しました。
ピキッっと音はしなかったですが罅が入り、ガラスが粉々になりました。
室内の調度品が竜巻に巻き込まれたのではないかという錯覚に陥るほど荒れ狂い、部屋中を飛び回ります。
「グッ……」
姿を現した、アイザックは膝を地面に着き、頭部からだらだらと血を流しています。
「良く見破ったな。だがまだこれで終わりじゃな……」
「いえ。終わりです。≪マテリアル・キューブ≫」
私はそう言い放ち、キューブで拘束しました。マテリアルのキューブなので力業で壊すのは不可能でしょう。
「……≪フレイム・スピア≫」
こいつ魔法も使えたんですね。
「≪アクア・シールド≫」
キューブを貫通した魔法はステイシーによって受け止められました。
もっと大規模な魔法を撃たれていたらキューブが解けていたかもしれませんね。
「詰みだな。俺の負けだ。殺せ」
「では10日後を楽しみにしていたください。あなたのギルドはなくなっているでしょうが。≪インシネレート≫」
楽には殺しませんよ。じっくり火あぶりです。
「なかなかチェリーも性格が悪いねー」
「そう?」
悲鳴をあげつつ、初級の回復魔法と氷属性魔法でなんとか耐えようとしています。
「……。≪バーン≫」
火力をもう一段階あげてみましょう。
「あああああ!」
生成した瞬間氷が解け、回復量を上回る火傷のダメージで苦しんでいますね。
これが拷問ですか。
悪乗りしたくなってきますね。
「お前の知ってることを全部吐け!」
「くそおおお! 言えねぇ!」
「≪バーニング≫」
「あああああああああ!」
「言え」
「命に代えても……言えない!」
「≪ヘル・バーン≫」
「ぎゃああああああ! まった! 言う! 全部言う!」
おお! 効果ありましたね。
パチンと指を鳴らし、火を一度止めます。
「ふーふー……何が知りたい?」
呼吸を整えた、アイザックが効いてきます。
「まずは誰の命令でこの国を建てたのか」
「それは……」
言い淀んでいるので指を鉄砲型にし突きつけてみます。
「ひっ! ナンバーワンのジルファリです!」
「知ってるステイシー?」
「しらないなー。君のところのハリリンに聞くのが一番じゃないかな?」
「そうだね」
『ハリリン。『猫姫王国』のジルファリって知ってる?』
すぐさまハリリンにチャットをします。
『ナンバーワンっすね。というより実質的なリーダーっす』
『そうなの?』
『愛猫姫にはそこまで戦力はないので、戦闘面ではってかんじっすけど』
『そうなんだー』
『愛猫姫にぞっこんでかなり貢いでるみたいっすよ?』
『それはどうでもいい情報。ていうかチャット送っておいて悪いんだけど』
『なんすか?』
『よく生き残ってたな』
『何度も死にかけてるっすよー!』
一応の裏が取れたのでアイザックに再び質問します。
「つまり、ジルファリさんっていうのが愛猫姫に国をプレゼントしたってこと?」
「そうなります!」
だとすると……。
愛猫姫は国の乗っ取りを知らない……?
いやそんなわけないですよね。
「上階の布陣は?」
「ナンバースリーーとフォーがいます!」
「愛猫姫は?」
「…………」
「よし、もう楽になれ。10日後……」
「俺は知らない! 本当だ!」
「……。そういうのはジルファリしか知らないんですよ!」
「つかえないなぁ」
「つかえないねー」
その後得る情報も大したことなかったので、脳天にステイシーが落雷を落としデスペナルティーにしました。
「つかれた……」
「僕も疲れたよ……」
「次で最終戦だといいね」
「ほんとにー」
そうポーションを飲みながら会話をしていると私はあることに気が付きます。
「あっ……」
「どうしたのー?」
「2連戦で姿消す系の人と戦ってるんだけど」
「そうだねー。ちなみに僕が倒してきたのも姿を消す系だったよー」
「やっぱり」
「んー?」
「このギルドの上位の奴らってみんなストーカーだとおもう。好き好んで姿消すなんてそうとしか思えない」
「……。ブッ!」
腹の底から声をだし、笑うステイシーを私は初めて見たかもしれません。
回復が終わったら最上階での戦闘ですね。
おそらく最上階の戦闘が最後の戦闘にはならないだろうという確信に似た推測をし、少しの休憩を満喫します。
to be continued...
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