<Girl Meets Boy >

 パソコンを用いて遊ぶMMOが私は大好きです。

 色々な人と会話をし、強敵に挑む。ただそれだけでも楽しいと思っていました。

 新しいMMOがサービス開始されたらすぐにプレイしていました。

 今はもうVRになってしまった<Imperial Of Egg>をやる前に、他のゲームでとあるプレイヤーと知り合いました。

 

 正式オープンしたばっかりということもあって、人で溢れています。

 新規サービス開始のゲームの醍醐味はみんな同じところからのスタートで、情報もなく、手探りで遊ばないといけない、そういうところもあると思います。

 私はいつも通り男性のキャラクターを使います。

 別に男の子になりたいわけじゃないですが、ゲームの中でくらいかっこよくありたい。そういった願望の表れなのかもしれません。

 自分が一番かっこいいと思うキャラクターを作り、こうであってほしいと思うキャラクターを演じるのもすごく楽しいです。

 

 正式サービス2日目に入ると序盤の攻略が終わり、ある程度のセオリーなどがわかってきました。

 落ちる前に最初の町の広場に行って誰かとチャットでもしようかなと思い、帰ってきました。

 私はそこである女性キャラクターと出会ったのです。

 彼女は序盤の攻略に苦戦し、何度も何度もリトライしているように見えました。

 「手伝おうか?」そう言うのは簡単です。

 しかし自分の力でクリアする楽しさを奪う気にはどうしてもなれなかったのです。

 その日は会話することなく落ちました。

 布団に入り、寝る前にも少し気になってしまいログインしました。でも彼女を見つけることはできませんでした。

 ほんの少しの後悔を胸に、私は次の日もログインしました。

 春休みということもあり、学生の私には時間があり余っていたのです。

 もし彼女が昨日クリアできず、やめてしまっていたらと思うと声を掛けなかった自分に嫌気がさしてしまうところでした。


 ログインし最初の町の広場にでます。

 しかし何分待っても彼女はきません。

 辞めちゃったのかな……?

 その事実から目を背けるかのように、他人からのチャットにも反応せず、ずっと蘇生場所で待っていました。

 

 何時間が経ったでしょうか。

 そこに彼女はやってきたのです。

 良かった。やめてなかったんだ!

 私はすごくうれしかった。

 「よかったら一緒に遊ばない?」

 そう個人チャットを送ったのもうれしさ故だったかもしれません。

 「すいません、昨日始めたばかりで何もわからずご迷惑になるかもしれないので遠慮します」

 そう返ってきました。

 私は胸がキュゥと締め付けられるような感覚を覚えました。

 なんでこんな感覚になったのか、わかりませんでした。

 「急にごめん。でも俺も一昨日はじめたばっかりだから……」

 「一昨日サービス開始したばっかりですもんね」

 「迷惑とかじゃないから一緒にどうかな?」

 「そうですね。お世話になります」

 そう言ってパーティーに加入してもらえました。

 「私はレーナンです」

 「俺はまりりす。よろしく」

 自己紹介を終え適当な酒場に入りました。


 最初はいろんなゲームの話をしていました。

 「ネトゲは最近始めたんです」

 彼女はそう言いました。

 「そうなんだ。俺、結構MMOやっててさ、これも新規オープンだからやり始めたんだ」

 「そうなんですね」

 「なんかごめん。俺ばっかりしゃべっちゃって」

 「大丈夫です。この時間にいるってことは学生さんですか?」

 「うん。いま春休みだし」

 「一緒ですね」

 彼女と話してるのはとても楽しかった。


 一緒に狩りに行き、明日も遊び約束をした。

 「今日はありがとうございました」

 「ううん。俺も楽しかったから」

 そう言って私達はフレンド登録し、別れました。


 次の日もログインしてきたレーナンと話しをして狩りに行きました。

 「レーナンさん俺がタゲ取るからダメージ入れて」

 「わかりました」

 

 こうして狩りをしてる時間がいつの間にか一日の楽しみになっていました。


 数日が経ち、毎日のように遊んでいたレーナンから一つ提案がありました。

 通話ツールでお話しませんか?

 そういった提案です。

 過去にもそういうお誘いは何度かあったのですが、リアルは女性でゲーム内は男性をやっているということもありずっと断って来ていたのです。

 女性だと知られて幻滅されるのが嫌だった。

 「ごめん。通話ツールはいれてないんだ」

 「そうですか。まりりすさんとお話しながらやってみたかったです」

 また胸がキュゥとなりました。

 でも私は女性で、女性の私がかっこいいと思うロールプレイをしているのでそれを知られるのが怖かったのです。

 「実は……」

 「ん?」

 そういってレーナンが秘密を語ってくれました。

 「実は……俗に言うネカマなんです……リアルは男で、ゲームでは女性を演じていました」

 私は驚いて声が出なくなっていました。

 「こんなこと急にいってごめんなさい。それでもまりりすさんに隠し続けるのが嫌で……ごめんなさい」

 本当に申し訳なさそうに謝られます。

 でも騙してるのはあなただけじゃない……。私も……。

 「話してくれてありがとう。普段使っているのはどの通話ツール?」

 「え……チームトークというのを使っています」

 「ちょっとまってて、すぐインストールするから」

 そういって私はチームトークというものをインストールし、アカウントを作成し、レーナンにチャットで教えました。


 「見つけました。まりりすさん」

 そうチームトークにチャットがきます。

 バクバクと高鳴る心臓を意識から追いやり、通話開始ボタンをクリックしました。


 「はじめましてまりりすさん」

 そう男性にしては少し高く、胸にスッと入ってくる綺麗な声をしたレーナンが先に声をかけてくれました。

 「あ……あの……まりりすです」

 私の、女性としても高い声が一人しかいない部屋に響きます。

 止まらない心臓の鼓動が私を押しつぶそうとしてきます。

 一瞬の沈黙にも耐え切れず、すぐに謝罪をしました。

 「ごめんなさい! 私は女でゲームでは男を演じていました! 本当にごめんなさい」

 すぐにレーナンは話しかけてきます。

 「僕と同じだったんですね。なんだかとってもすっきりしました。まりりすさん……凄くきれいな声、してますね」

 もう心臓の鼓動が止まらない。このまま心臓が爆発してしまうかもしれない。

 「レ、レーナンさんもとてもいい声だと思います!」

 言ってしまった……。

 顔が火がでるんじゃないかと思うほど熱くなります。


 その日のことはもうほとんど覚えていません。

 心臓が軋む音しか。


 それから毎日、私達は通話をしながらゲームをやっていました。

 そんな折り、新しいゲームの正式サービスが始まりました。

 そのゲームは<Imperial Of Egg>。

 もちろん二人で遊ぶことにしました。

 私は初めて女性のキャラを作り、レーナンは初めて男性のキャラを作りました。


 かっこいい自分を演じなくても、隣を歩いてるキャラクターがこんなにかっこいいんだからいいよね? そう思った結果だったと思います。


 <Imperial Of Egg>がサービス開始した頃、私とレーナンは大学の講義が始まり、ゲームする時間も減っていきました。

 それでも毎日、会話はしていました。


 そんな生活が半年ほど続いたある日、私は自分が恋してることに気付きました。

 日々の辛かったこと、楽しかったこと、それらすべてを共有してくれた彼に。


 「レーナン。話があるの」

 「どうしたの?」

 「私……あなたが好き。もうどうしようもないくらい」

 それを言った瞬間、彼の口から言葉は漏れなかった。

 それもそうですよね。

 顔も見たことがない相手から、急に好きだと言われても困惑するだけです。 

 ごめん。今のは忘れて。

 心を殺してそう言おうと思ったときでした。

 「僕も、僕もあなたが好きでした。最初から……初めてあなたの声を聞いたときから」

 「うそ……」

 「嘘じゃない! ずっと怖くて言い出せなかったんだ! 顔も知らない相手から一方的に好きと言われたら怖いだろうと思って。僕にはその勇気がなかった……」

 私は言葉を失ってしまった。

 ただ一言、ありがとう、という言葉を除いて。


 そこからのスピードは速かったと思います。

 一緒に買い物行ったり、ごはんを食べに行くようにもなりました。

 お互い同い年で、今年大学を卒業するというのもわかっていました。

 レーナンは就職先が決まっていたみたいだけど、私はまだ決まっていませんでした。

 そんな時、レーナンから食事のお誘いを受けました。

 

 食事を食べ終わり、今日もお開きという雰囲気の時レーナンが言葉をかけてきます。

 「今日は呼び出してごめんね」

 「ううん。大丈夫」

 「話……ってほどのことじゃないんだけど……」

 「うん」

 「そういえば僕たちまだお互いの名前知らなかったな……って」

 「そうだね」

 「僕は南場なんばれいです」

 「てまり……てまりありすです」

 

 はっと息を飲むような顔をした彼が私の目をじっと見てこういいます。


 「ありす」

 「はい」

 胸の高鳴りが酷く、彼の声すら聞こえなくなりそうです。

 「ありす。僕と結婚してください」

 そういって彼は跪いて、私に指輪を見せてくれました。


 「はい……」

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