第19話 狐神が視ていた内容
「直子に、テンマも映っている…!?」
私は、自分が目にした光景に目を見張った。
「口で説明するよりも映像を見せるのが一番」と考えたのか、
でも、この二人が
最初は驚いたが、そう考えると割とすぐに納得した。
動揺を少しずつ抑えながら、私は映像に視線を向ける。
「直子様…。どうやら、だいぶ調子が悪いようですが?」
「ん…大丈夫。昨晩、寝不足だっただけよ…」
「左様ですか…」
そう述べる直子とテンマを垣間見た訳だが、どうも彼女の顔色が思わしくないようだ。
「寝不足だ」と直子は言っているけど…とても、それだけには見えないような…?
私は、顔が青ざめている直子を見上げながら、何が起きたのだろうと心配になる。
でも、何よりも…
具合は悪そうでも、生前の直子――――――――――ましてや、私の知らない所での彼女を少し見られたのだけでも、幼馴染を失った私としては嬉しかった。瞳が潤んで視界がぼやけたが、次の瞬間に見る映像に対し、私は驚く事となる。
「行きましょう、テンマ。この千本鳥居を抜ければ、奥の院にたどり着くはずだし…」
「畏まりました、直子様」
テンマにそう告げた直子は、彼に背を向けて歩き出す。
付喪神は私に対してしていたのと同じように会釈をした後、“こちら”へ振り向く。そして、近づいてきたかと思うと、思いがけない
「…狐ごときが、このわたしの邪魔はしないでくださいね」
「え…」
その
一方、映像はテンマの
いつもうっすらとした笑みは浮かべていたけど…今の映像では、かなりの殺気が宿っていた…?
私は、テンマが口にした
「…その映像は、我の兄弟が神通力にて覗いていた時の記録。その男に無理やり術を解かれたため、観察していた兄弟はその後…生死を彷徨うくらいの激痛に襲われたらしい」
「え…!?」
その後、狐神が口にした
「幸い、消滅は免れたが…。そこに映っていた娘と共にいた、あの男…。相当禍々しい妖力を持っていたと言っても、過言ではないな…」
「彼は、付喪神…と自分で言っていましたが、
映像が途切れた後、観察していた狐神が大事に至らなかった事で少し安堵したが、私はそれ以上にテンマの事が気になって仕方なかった。
「付喪神…だと…!?」
相手は狐なので具体的な表情は解らないが、金色の瞳が見開いた所から察するに、かなり驚いていたのだろう。
他の狐神達も動揺していたようで、小声で各々が何かを話していた。小声だったため、私は全部を聞き取る事ができなかったが、その中に「付喪神」の単語が出てきたため、テンマの話をしているのは間違いないだろう。私に話しかけていた身体の大きい狐神はその場で黙り込んでいたが、数秒ほど経過した後に口を開く。
「我らの長が“忠告せよ”とおっしゃられた意味が、少しは解ったかもしれんな…」
「え…それって…」
狐神が次に何か口にしようとした所を私が口走ったため、その場にいる全員の視線が私へと集中する。
「ご、ごめんなさい…!」
狐神達の視線に気が付いた私は、すぐに口をつぐんだ。
「映像に映っていた娘と同様…お主もその魔導書を持って、先程の男と行動を共にしているのは相違ないな?」
「は…はい…」
急に声音が低くなったため、私は少し怖気づいてしまう。
しかし、それだけ真面目な話をしているのは、声だけで十分に伝わったのである。私の表情を確認した狐神は、一呼吸置いてから再び話し出す。
「映像にいた娘には、その身体に穢れに冒されているのが見てとれた。…だが、それでも先へ進んでいたのは、己の身よりも大事な目的があったのだろう。故に、我々もお主の行動を邪魔するつもりはない。しかし…」
ゆっくりと落ち着いた口調で話す中、狐神は私が持っている神社巡りの本を一瞥する。
「先程の男…。今現在は付喪神で相違ないかもしれんが、用心せよ。それが仮の姿であり、“目的”を達成すれば、本来の姿に戻る可能性もあり得るだろう」
「え…!!?」
先程から驚く事は多かったが、この時聞いた
「それって…!!」
“それって、どういう事ですか!?”と訊こうとしたが、私はすぐに口をつぐむ。
「…お主が、洞察力のある娘でよかった。そう、今のはあくまで
「わかりました…。ありがとうございます…!」
私は狐神にお礼を述べた後、その場で深くお辞儀をした。
「さて、我々からの話は終いだ。お主を先程いた場所に帰そう…と思うたが、我らが手を下すまでもないようだな」
「え…それって、どういう事ですか…?」
話の本題が終わりお開きになろうとしていたが、”己の力で戻す必要はない“と狐神は述べる。
その
「…方法の伝授は、奴の入れ知恵であろうが…。どうやらお主は、良き友に恵まれているようだ」
「裕美達…!?」
狐神が
「お主がその友らの事を考えておれば、自然と彼らの元へ導かれる…」
「えっ…ちょっと、待って…!!」
次第に狐神達の姿が見えなくなる事に対し、私は動揺する。
しかし、「思い浮かべれば帰れる」と口にしていた
裕美…
私はその場で瞳を閉じ、彼ら全員の顔を脳裏に浮かべる。
この時、私は自身に何が起きているか解らなかったが――――――――――瞳を閉じた私の周囲には、黄金色の光が纏っていたのであった。
「美沙様…!!」
「テンマ…」
その後、私は聞き覚えがある声が聞こえた後に重たくなった瞼を開く。
気が付くと、裕美や
「美沙ちゃん!!」
「わっ…裕美…!?」
私の姿を確認した裕美が突然、私に抱きついてくる。
何が起きたのかが把握できていない私は、戸惑った
ここは…伏見稲荷大社の境内…?
周囲を見渡すと、少し離れた場所に複数の鳥居が存在していた。
「美沙様が千本鳥居で突然姿を消した後、わたし達は貴女を取り戻すために…と、境内にある熊鷹社を訪れたのです」
すると、頃合いを見計らったのか、テンマが話し出す。
彼は、少し離れた場所にある鳥居の方を顎で指しながら話していたため、その方角に熊鷹社があるのだと私は悟った。
「でね、
すると、抱擁から離れた裕美が、瞳を少し潤ませながら説明してくれた。
「テンマの話によると、
すると、心配そうな
「あ…ごめんね、健次郎。心配かけて…。私は特に、怪我一つしてないよ!」
真正面で彼を見つめた時、表情からどれだけ自分を心配していたのか気が付いた私は、健次郎に謝る。
「何はともあれ…無事に戻ってきて、何よりだ。何が起きたのか話を訊きてぇところだが…。今は兎に角、休息の方が必要だろう。参拝殿…だったな?お昼を先に食べに行くか…」
「…そうですね。皆さんも予定の場所より奥へ参りましたし、一度お昼休憩といたしましょう」
確かに、慣れない場所にいたから、少し疲れたな…
私は、
こうして、複数の狐神達が見守る中、私達は境内の入口付近にある参拝殿の方へ向かうのであった。
その後、参拝殿に戻って来た私達は、そこで昼ご飯を食べる。付喪神であるテンマは食事を摂る必要がないため、私達4人が食事中は、その場からいなくなる事が多い。しかし、今日に限っては退散せず、黙ったままその場で立ち尽くしていた。
「ってか、テンマ。そんなすぐ近くで観察されていたら、食べにくいんだけど!」
視線が痛く感じていたのは私だけではないようで、裕美が嫌そうな
「
「…そうだね。ありがとう、
「いずれにせよ、そう見られちゃたまんねぇよ。
そして、彼らの発言をフォローするように、食べながらの健次郎がテンマに告げる。
「…ごめん、テンマ。私も視線が気になっていたから、そうしてもらってもいいかな?」
「…畏まりました、美沙様。では、壁際の方に立っているので、御用の際はお呼びください」
「うん、わかった」
誰が言っても従ってくれなかったが、私が彼に促すと、納得してくれたようだ。
その後、テンマはその場から歩き、食事処の壁際に立って私達の方を見つめ始める。
さて、いずれにせよ今すぐ話せる状況ではないし…
テンマが離れた後、私は何気ない素振りでスマートフォンを取り出してLINEを立ち上げる。
そしてメッセージを送った後、私以外の
「ごめん、今はテンマがあの状態だから…。彼がいない時に、LINEで今日起きた出来事を話すよ」
私はその場で一言、必要な
その後、数秒間の沈黙が続くが――――――――――――その沈黙は、すぐに破られた。
「楽しい京都旅行も、これで終わりかぁ…!途中参加だったとはいえ、少し名残惜しいよなぁ…!」
「本当、もっと休みがたくさん取れればよかったのにね~!」
すると突然、健次郎や裕美が何食わぬ顔で別の話題を切り出す。
「あの専門店で買った金平糖も、美味かったしな」
今度は、食べながら
そっか、下手に動揺や沈黙が続くと、テンマに怪しまれると察してくれたのかな…?
実際彼らが何を考えていたのかは定かではないが、機転を利かせてくれたのだけは私にもすぐに解った。
もしかしたら、私が狐神の元で起きた出来事がテンマや今は亡き直子に関係していると察してくれたのかもしれないと思うと、心強いなと私は感じていた。
そうして一見何気ない会話をした後に京都駅へ戻り、新幹線で東京へ帰還する事となる。実際は二泊三日間の京都滞在だったが、まるで一週間以上滞在していたかのような疲労を、帰宅後に私は感じるのであった。
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