5.漂流、ゆえに血の証
オリヴィエ
「何時までも此処に居ても仕方ない、この水路を北へ行くぞ……」
アルチュールに担がれたままミーファスが言うと、アルチュール、ゴーシェ、ダオレは次々と同意するのを見てオルランダは困惑した。
「ちょっと、どうしてこんな真っ暗な中でどっちが北かなんて言いきれるのよ?」
逆に困惑したのは男性陣だった。
「どうしてと言われても……」
「は? こっちが北に決まってるだろ。なんで分からねえんだよ」
「待て、オルランダには分からないのかもしれないぞ」
だがミーファスは切れ切れの息でこう言った。
「それについては性差を語らねばならぬ……だがわたしには今その余裕がなくて、悪かったな」
「ミーファス、あまり喋るな傷に触る。それにオルランダ、あまりミーファスに語らせるようなことを言うな。怪我がひどい……
「それについてはあまり心配しなくて良い、わたしは死ぬことはない……」
「どういう事だ?」
「北へ進め、今は……」
水音を立てぬようにそっと一行は水路を北へ進み始めた。
やがて水路は深さを増し、オルランダなど息をするのがやっとの場所すらあった。
一行が沈黙のまま半刻も暗黒の水路を進むと、再び光が漏れている場所に辿り着いた。
そこに一人の中背の若者が立っているのが見えた。
だが――
「貴様、アーシュベックと一緒に居た!?」
言うが早いがゴーシェはグラムを抜いていたが、それを振るう前にミーファスは彼を制止した。
「何故だ!?」
「オリバー! 否、オリヴィエ、よくぞ待っていたアーシュベックとシャフトの動向はどうだ」
そこに居たのは確かにアーシュベックと共に居た、腹心ですらあったオリバーという若者であった。
「ミーファス様、アーシュベックめは近衛隊の尋問を受けております。さすがに公子と同席していたのは問題だった様子。シャフトは解放されましたが……」
「そうか……ご苦労」
成る程オリバーならぬオリヴィエはミーファスの密偵だったのだ。
ならば彼がミーファスの拷問に同席していたなら、ミーファスに致命傷を与えることもない。
「そうか、敵を欺くには味方からという訳か、ミーファス」
アルチュールがそう言うとミーファスは口の端だけで笑うと、オリヴィエと合流できた安心感か怪我の悪化からか気を失った。
「ミーファス様!」
「ミーファス! オリヴィエ、
アルチュールの問いにオリヴィエは頷いた。
「おれはミーファス様を助けるためにここで合流する手筈でした、それには相違ありません。ですが貴方がたもついてらっしゃるのですか?」
アルチュールはゴーシェ、オルランダ、ダオレを順繰りに見遣った。
「これから汎神論者たちと合流して戦いに身を置くことになる、その覚悟は出来ているか? 私は出来ている」
「うまく言えないけれど……わたしは必要とされている気がする。わたしの、神の左手」
「おい、オルランダ!」
「でも、その力が使えるのはオルランダさんだけです。ぼくも聖堂騎士団のやり口には呆れましたし、王家の腐敗っぷりもあの近衛兵たちでよく判りました。フォルテさんみたいな人もいるみたいですけど……」
「アルテラ25世は無知なだけだ――」
「弁護はいいぜ、アルチュール。つまり乾坤一擲、伸る反るかってことだろう。賭けてみようじゃねえか、汎神論者たちに」
「わたしもミーファスさんを助けたいし、こちらに味方するわ」
「ぼくもです!」
意識を失ったミーファスを背負ったままアルチュールは頷いた。
意志の強い青い眸だ。
「ありがとうございます皆さん。しかしまずミーファス様の治療が最優先です」
オリヴィエは心配げに背中のミーファスを見遣った。
「とりあえず彼を横たえられる所まで案内を頼む、オリヴィエ」
「承知しました…ええとあなた方はなんとお呼びしたら?」
「私はアルチュール。もうボレスキン伯爵ではないからな」
「オレはゴーシェ、砂漠の庵で養父に育てられたこの国の人間じゃない。流れ者だ」
「わたしはオルランダ。こんな金髪のせいで、流民の出で見世物小屋の芸人すらしてたわ」
「ぼくはダオレ、単なる行倒れです。記憶がないんです」
「わかりました、四人とも。汎神論者は貴方がたを歓迎するでしょう。ここから一刻ほど東に歩いた所に汎神論者が根城にしている廃村がありますから、急ぎましょう」
オリヴィエは松明に火を灯すと東に向かって歩きはじめた。
あれきりミーファスは意識を失ったままで、一刻も早い治療が待たれた。
水路はあまり真っ直ぐではなく、時に曲がりくねっていたが概ね東の方向に向けて進んでいるようだった。
「ここは野生動物の巣窟だと聞いたが大丈夫なのか?」
ゴーシェは尤もらしいことを尋ねた。
「目立った野生動物は汎神論者が協力して殺しておきましたが、仕留めきれなかったモノもいると聞いています……」
「さっきから鉈がびんびん反応しているんだけど、」
「何かいるな……」
「アルチュールもダオレも勘がいいな、オレは今言われて気づいた」
オルランダは思わず身をすくめた。
水路の水が一瞬にして盛り上がりそこからぬめる光を放つ、
「
アルチュールが叫ぶや否や、ゴーシェとダオレは剣を抜き放って水蛇を囲んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます