第4話 正義か悪か
『転送完了』 「ふう。」
『お疲れ様でした』
流石に連投はしんどいな。
「続けて何体倒した?」
『はい。
パワー・スター様が撃破したヒーローの数、【猫又のキャロス、蛇使いのスネーク、四角創のベルンナの計3名です』
結構倒したな、まぁまぁだ。
「ランキングは?」
『263位です。』 「何だって!?」
三体も倒してそんなもんかよ。
「中々にしんどいじゃねぇか…」
不味いな、思ったより効率が悪りぃ。
もう少し手際良く事が進むと思っていたが、そうもいかねぇ。何しろ厄介なのは、戦う相手を己で選べないってことだ。ランダムで選ばれた奴と決められたフィールドで戦う、こちら側に決定権が何も無ぇ。あるとすれば棄権するくらいだ。
「これじゃ順位を上げるどころか、奴に接触する事すらままならねぇよな」
ダメ元で合間を縫って何度か探し回ってみたが姿は見られなかったしな。
「コツコツやるってのは性に合わねぇしよ」
『パワー・スター様』「なんだよ?」
『前方をご覧下さい。』
「‥前向いて気張れって事か?
言い方が機械的過ぎんだよ、気休めにしてもそん小手先のエールを送るなっての。」
『いえ、物理的な意味です。
..探しているものが、見つかると思いますが』
「物理的な意味ってなんだよ。目の前にはおかしなカッコした野郎共しかいね‥」
「おい、あれって。」『はい』
欲しいときには見つからねぇ。それはきっと、それを意識して探し過ぎてるからだ。欲しいものが見つかるときは前触れ無く、意識とは別の感覚が掴んで握る。
「ファントム・シャドウ‥!」
ブレずに隠れるのが好きな変態野郎だ。連中の影にひっそりしてやがる。
『黒い燕尾服、同じ黒のシルクハット、白い仮面‥言い切れませんが間違い無く彼かと』
「言い切れるだろそれだけあったら、まぁいい。.,慎重に行くぞ、しっかりと距離を詰めて、頭をブン殴る!」
『八つ当たりですね』「うるせぇ!」
姿こそ見えるが距離は随分と遠い。
奴は活発なタイプには見えねぇし、バトルの無い環境であるこの部屋で居場所を変える必要性も無ぇ。それなら単純に近付けばいいといった訳でも無ぇ。奴に辿り着く軌跡の最中に、突発的な脅威が外から暴れ兼ねねぇ。
「厄介なモンだぜ、どうもな。」
考えてみりゃ集まってるのは皆ヒーロー、悪や強敵を倒して悦に浸る性悪ばっかだ。勝気な連中の集まりだからな。
「バトル外で戦を好む奴がいても不思議じゃねぇ。」
ならばどうするか、的にバレる事なく脅威にも襲われない、一石二鳥の遣り方は!
「すぅ‥はぁ…。
ロード、暫く大人しくしててくれ。」
『かしこまりました。』
「‥行くか」
息を潜め、音を止め..存在を空気と同化させる
全てを静めた
「……」
澄んだ空気じゃ出来やしねぇ、雑音の響く濁った世界だからこそなせる業。
汚れた音に身をあてがい、潜め、僅かな隙間をくぐり抜ける。それを繰り返し奴の背後を取る。無音はときに、爆音に勝る!
(よし、なんとか背後に回る事は出来た。ここからはより慎重に動かんとな)
背後に回ったといっても多少距離がある。
連なる何人かを回避して距離を極限まで縮めねぇと‥。
(ノルマは三人、それさえ抜ければ間隔という概念はぼ消える。)
足音を消し、息を鎮め。
「……」 一人!
大柄な奴で助かった。細い奴より物理的な隙は少ないが、感覚は遅い。大きく開いた脇の間から難なく突破だ。
「……」
二人目は細身だが問題無さそうだ。そもそもこっちを見てすらいない、上の空ってのはこういう事を言うのか?
まぁなんにせよ、二人目突破だな。
「……。」
残る一人、三人目だが特に心配も無さそうだ。相手の危険性の問題というよりは単純に、俺がこの歩法に慣れてきた。存在を認識されにくい歩き方を都合良く掴んじまってる。
恐らく普通に歩いてる様に突破できる
「‥悪いな、ここは素通りさせて貰うぜ。」
キツイかもと思ったが、なんだよ。
結構簡単じゃ…
「キャン!」 「ん?」
「キャンキャン!
キャン! クゥウゥン‥」
「なん‥犬!?」
どっから湧いて出やがった!
クソっ離れねぇコイツ!!
「吠えるな犬、静かにしろっての!」
なんでこんなところに
ていうかなんで俺の所にっ!
「どうにかしねぇと‥」
「キャン!」「うるせぇ!」
なんなんだよ静かにしてたろ俺はよ!
‥いや、静かにいていたからか?
人にはバレない歩法でも、犬から見たら気を引く動きなのかもな。
「って考えてる場合かよ!
さっさと離れろ犬っコロ、じゃねぇと‥」
「騒がしいなぁ、静かにしてくれないか?」
「あ‥。」
「一人の間くらい穏やかに過ごしたいのだが」
「犬ったれが」
「おや?
誰かと思えば主じゃないか、お久し振りだ。」
「キャン!」
「‥それは君の犬か?」「ウゥウ!」
な訳無ぇだろう
わかって言ってんのかこの野郎!
「犬の散歩を律儀にするとは以外だ」
「だから違ぇっての!
俺はお前に用があんだよ!」
「僕に?
何のようがあるのだろうか。まるで見当が付かないのだが」
「お前の都合なんか知るか!
ハナから俺の都合で探してんだよ!」
『シャドウ様。
回避された方がよろしいかと思われますが』
「いきなり飛び掛かって来るとは、まるで犬みたいだ。でも悪いね主、どうやら時間だよ」
『ビー‥ビー‥ビー!』
「待てよ、どこ行く気…!」
「さよなら主、また会う日まで。」
『転送』 「あっ、おい!」
フィールド・街
『転送完了』 「痛ってぇ‥」
いきなりバトル会場かよ、タイミング悪すぎだっての。
「また逃しちまったあの野郎の事。」
『申し訳御座いません
少し手荒な送迎でした』
「まったくだぜ、お陰さんで尻餅ついちまったじゃねぇか。」
『ですが、好都合かもしれません。偶然ではありますが』
「あん?」
いつもコイツは遠回しに物を言う。だがそのときは大体、俺にとって都合の合う事柄の場合が多い。いや、意図してタイミングを合わせているのか?
そんな事はどうだっていい。
『逃してはいませんでしたね』
今が俺にとって、ツイてるならな!
「又も陽の光が‥有難いな。
まったく感謝しねぇとなぁ…!」
「おや、主と一緒か。奇遇だな」
「奇遇じゃねぇよ、必然だ。」
「必然か、これがかな?」
「必然じゃなくてなんなんだ、こんな機会に恵まれてよ!」
「どうだろうか。
‥神の気まぐれとでも言うべきか?」
「なんでもいい。
さっさと闘るぞ、ほら!」
またと無ぇチャンスだ、偶々目当てにかち合うなんてよ!
「僕と何をするつもりなのだ主よ。」
「決まってんだろ、バトルだよバトル!」
「‥あぁ確かに決まっている。しかし必然とは言い難いな」
「何言ってんだお前?」
「やはり確認していないのだな。ルールを見てみるといい」
「…なんだってんだよ。ロード、見せてくれ」
『かしこまりました‥こちらです。』
フィールド・街 天気晴れ 昼
ルール チーム戦
「チーム戦? どういう事だ?」
「つまり僕と主は標的じゃない。他に相手が居るという事だ。」
「チームって‥お前とか!?」
「そういうことに、なるだろうね。」
嘘だろ、やっと見つけたってのに敵じゃねぇって事かよ!
「冗談じゃねぇやってられるか!
お前とチームなんざよ!」
「僕だって御免だよ、人と一緒に何かをすると吐き気がするからね。あくまで客と演者の関係でありたいだろ?」
奴の理屈は意味わからんがとにかく御免だ。やむを得ず組むしかないにしてもコイツだけは無理だ、信用ならんからな。仮面で表情は見えねぇし、自然体の卑怯モンだ。そんな野郎と組むなんざ、詐欺師に口座番号を教えてるようなモンだからな!
「‥なんでお前とチームだよったく」
「決めたのは僕じゃないそれに、嫌ならば棄権という選択肢もある。」
「馬鹿を言うんじゃねぇ!
それをやったら脱落しちまうだろうが。」
「そういう訳でもないのだが。」
「何?」
「確かに脱落の要因は戦闘不能、もしくは棄権だが、戦闘開始時直後や自らが不利な状況では無い場合の際の棄権は単純な敗北として処理される。」
「何が違ぇんだよ?」
「通常棄権を使えば主の言う通り脱落し街へ帰還する、しかし前述の使い方を行使すればバトルに負け、相手にポイントを分け与えるのみで抑えられるという訳だ。」
何だよソレ聞いてねぇぞ、コイツ機械より詳しいじゃねぇか。‥だがまぁ…
「棄権して相手の連中に点を稼がれるのは癪な話だな。」
「君ならそう言うと思っていたが的中したな」
「そうかよ。」
「生憎僕も同じ気持ちでね。
手を組むのは嫌だけど、易々勝たせる事はしたくは無い。特に主とのチームならね」
「どういう意味だよ面倒くせ。」
「同じ事を考えてるという事さ、君は気分を害すやも知れないが。」
「……」
あ〜めんどくせぇ!
まどろっこしいたらありゃしねぇな。
「何が言いてぇんだ俺によ?」
「うん。
まぁ要するに別行動をしようという訳だ」
懐に手を‥何しやがるつもりだ?
「そのマント、綺麗だね。
いかにもヒーローって感じだ」
「‥これがか?」
どういうつもりだコイツ。
「もっとよく見せてくれ
大きく、広げるようにしてさ。」
「‥?…こうか?」
「そうそう‥そのまま。」
何企んでやがる、ロクでもねぇ事だってのはわかるけどよ。
「動かないでね」 「んっ?」
なんだアレ…紙飛行機?
腹にあんなもん仕込んでたのかよ。
「いよっ‥と!」 「うおっ!」
紙飛行機が、マントに!
「ちょちょちょっ!
待てテメェ、何しやがん‥」
「さらばだ主、いずれ会おう。いずれな」
紙飛行機に絡まって身体が浮いて!
「お前この為にマントを広げさせたのか!?」
「他にどんな理由があるのだ、僕が本当にそんな布切れに興味があるとでも?」
「くそったれがぁあぁー!!」
「改めて言う。主、さらばだ。」
やっぱりアイツは、信用できねぇ。
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