第2話陽を浴びる死神

「すっげぇ数の連中だな‥。」


 ロビーと言われて案内された丸いでかい部屋には、数多のヒーローが軒を連ねていた。部屋には真っ白い壁と、モニターが奥にあるくらいだ。


「知らねぇ顔ばっかりいやがる。」


ヒーローの端くれとして、数える程度に名は知ってるが、顔を見ただけじゃあ誰がどれだから全く分からない。


「こいつら皆招待状見て来たのか?」

各々が独自の理由で参加してるって訳か。


「退屈してるのは俺だけって事だな‥。」

犇めく連中の騒つく声を聞き取る事は出来なかったが、たった一つの声、全員に響く程でかい声が部屋中を轟かせた。


「諸君、よくぞ集まってくれた。」

モニターに映し出された顔が声の主だと直ぐにわかった。素顔では無く、ちゃらけた仮面のついたツラだったがヒーローならば誰もが知る男。


『キャプテン・レジェンド』


ヒーローの長、英雄の中の英雄。

「実物を見たのは初めてだが、本当にいたんだな。驚いたぜ」

で、その英雄サマが何の様なんだ?


「ようこそ、我が城へ。

‥まぁ集めたのは私なのだがな。」

ちゃらけてるのは顔だけじゃ無いみたいだな。英雄の長は、言う事も理解し切れねぇ。


「君達はヒーローだ、しかし平和を愛し過ぎた。いや、それが正しいのだが‥」


「しかし私は、それすらも守り救うのだ。」

ほらな、意味わからんだろ?

だが世界の流れは理解を無視して進むものだ


「諸君にはこれから、悪の消えたこの場所で、失い掛けた英雄の示しを再び思い出して貰う。」


「英雄の示し?」「何言ってんだ?」


「結局何がしてぇんだよ!?」

ここにきて把握出来る程声がはっきりしてきたな。まぁそりゃ騒つくか、いってる意味がわからないんだもんな。


「話は異常だ、理解した者から部屋を出たまえ。新たな世界が道を開く」


伝説の英雄の話は途端に終わった。当然理解してる奴なんていなかったが、奴さんは気に留めるつもり無さそうだ。


「外に出ろとか言ってたな‥。」


郷に従えと部屋から出たら、言っていたいた通りになってた。新たな世界かは知らねぇが、外に出てみて理解した。初めから、意味を考える意味が無かったんだってな。


「ここは、商店街か?」


『リリリリ‥』 「うおっ!」

左腕から声がする…いや、耳障りな雑音か。


『パワー・スター様、ヒーローバトル御参戦おめでとうございます。』


「めでたい事なのか?

これってよ‥」

知らぬ間に手首に巻かれた腕時計。そこから浮き出た小せぇモニターから話しかけるのは、受付であった愛想の無い長髪の女だ。


「で、これはお前の仕業か?

‥どこなんだここ。」


『バトルフィールドです。ヒーローバトルに参戦された方々にランダムで設定され、一対一の空間を提供するシステムとなっております。』

一対一って事たぁ俺の他にもう一人中に居るって訳だな…。


「理屈はわかった、その上でお前は何で俺に付きまとってんだ?」


『貴方のサポートをさせて頂きます。フィールドの説明、相手の詳細、謂わば情報源としての役割を担います。』


「‥へぇ。」

少なくとも、英雄サマよりは頼れるって事か。…それにしても、コイツ説明真面目だな


『早速この近辺、人物の情報をスキャンし、ダウンロードします。』

頼んでもいねぇのに、道案内の地図を作り始めやがった。勝手な情報通だよな。


「読まずに食いたいもんだが、生憎ヤギ程のガッツは無ぇんだよなぁ。」

仕方が無いので手紙の返事を待つとしよう。


『アップデートしました。近辺の情報を表示します。』

人の気も汲まず心を伺わず、手元から出したのは愛想の無い手紙だけ。


「事務的な気遣いどうも‥」


『それでは私はこれで。』


「なんだ、行っちまうのかよ?

まだ何も理解してないんだが…」


『現段階で行うべき説明は以上です』


「…そうかよ‥。」

期待するべきじゃねぇな。いくらレジェンドより頼れるったって奴の使い走りだ、肝心な事は後回しだ。証拠に受付の女はおかしな名を名乗って俺の腕に姿を眩ましやがる。


『追いで要が御有りであれば、Low-D《ロウディ》とお呼び下さい。追加の情報をお伝えしますので‥』


「ロウディ‥色気の無ぇ名だな。」

個人的な名前かシステムの総称か知らないが、その名は俺の頭に読み込まれ保存された。勝手極まりないアシストだが、今は従うとしよう。


「どれどれ、俺の周りはどうなってやがる?」

態々口に出して確認してやる、感謝しやがれ


フィールド〈ショッピング・モール〉

天気晴れ 時間 昼

在籍するヒーロー 二名

『パワー・スター』


「これは俺か、なら俺の相手は…あった、これか。」


『ファントム・シャドウ』


「聞いた事の無い名前だ。

詳しい情報は‥特にねぇな。」

上部だけの取ってつけた様な小手先の手掛かり、まるで名を自ら呼ばせようとしているかの如くだ。


「ったく‥どういうつもりだ」

そこまで呼んでほしいのか?

だとすりゃ癪だが呼んでやる、気はまるで進まねぇがな、


「おい、ロウディ出てこい!」


『…はい。』

耳障りな電子音と共に顔を見せやがった、狙い通りってか?


「このファントム・シャドウってのの詳細を知ってるか?」


『…はい、只今表示致します。』


「……」


『ファントム・シャドウ』通称 死神

ブロッサムタウンのヒーロー

武器トリックスター、大鎌


『参加理由は‥陽の目を見たいから、です…。』


不具合か?

歯切れが悪い、通信不良‥そもそも電波で動いているかわからんが。奴の話し方は辿々しく、もやがかかったように雑味があった。


「まぁいいか、中身はわかった。‥見てくれはどんなだ?」


『……』 「どうした?」

返事をしなくなった。遂にぶっ壊れたか、こんな直ぐにか?


『申し訳御座いません。』「‥何?」

何故謝る、本当に壊れてるのかよ。


『貴方の質問にはお応えできません』


「何言ってんだ、そんなに難しい事きいたか?

俺は只相手の見てくれを‥」


『ですからお応えできかねます。』


「どうしたってんだよ…。」

焦った様子は見られない

隠し事をしている素振りもありゃしねぇ。いよいよ機械の寿命かと、しつこく頷いてみたものの‥みっともねぇ。


『何故か、という問い掛けですか?

それならばお応え出来ます。』

俺としたことが女の返答を耳に入れるまで…なんで気が付かなかった?


『相手の方が、既に御姿を公開していらっしゃるからです。‥貴方の直ぐ傍で』


応えられなかったんじゃない。役目として補う必要も無い程、近くに応えがずっと在ったんだとよ。


「お前がファントム・シャドウか?」

シルクハットに燕尾服、全身黒染めの仮面野郎が、電線に逆さまで宙吊りしてやがる。一体何をお買い求めだ?


「ファントム・シャドウ‥

お前にはそう見えているか?」 


「……」


「主がそう見えているのであれば、そうなのだろうな。」


「はぁ?

なんだそりゃ…。」

おちょくってんのか、面倒なだけか。

実態の薄い話をしやがるキザな奴だぜ


「主、手品は好きか?」


「手品だぁ?」 「なんだ嫌いか‥」


「これは騙しがいがありそうだ。」

何言ってんだかわからねぇ。たが一つ分かったのは、コイツは面倒くせぇ奴だ。


「よっ‥と、説明はいらないだろ?

さっそく…ととっ、やるとしよう。」


「なんだありゃあ?」

宙吊りでぶら下がったと思ったら今度は空を歩いてやがる。


「ん、どうしたじいっと見つめて?」


「フラフラだな。」「如何にも」


「それが私の持ち味なものでな。」


「……そうかよ。」

やっぱりコイツ、面倒くせぇ。


「ふらつきが不服か、ならば少しシャキリと背筋を張るとしよう。」


「何も言ってねぇよ」

‥解明するのも馬鹿らしいが、空を飛ぶ類では無ぇ。糸かなんかを張り巡らせて足を乗っけているのだろう。今はその上ではしゃいでいるだけだが…。


「それではここに傾斜を加え、新記録でも狙ってみるとしようかな?」


「新記録、何のだよ‥って、いちいち聞かないとダメなのか。」


「聞かずとも見せてやる、何の記録か。そうだな…的を射るという意味では、ダーツやアーチェリーの類に近しいのだろうか?」


まどろっこしい言い回しで誤魔化す男だ、元々顔も隠してりゃ手の内も定かじゃねぇし信用なんて置く対象じゃねぇだろうけどな。


「口に反して動きは不気味だしよ。」

空に突っ立ってた黒い男がスキーのハーフパイプみてぇに高く飛びやがる、見えねぇ坂を雪も無いのにな。


「‥丁度真上か」


「顔が50点、肩が‥15点かな?」

ぴったしの燕尾服に荷物は無いとなると、小物を隠せるのは袖か、帽子の中くらいだろうが…どうだろうな。


「どちらにせよ、似たようなもんだ」


「ニンニキニン♪

袖からナーイフ!!」

だとすればやる事は一つだぜ。


「いってらっしゃい、ナイフくん!」

何か飛んでくるな。


「あれはナイフか?」


『はいナイフです』「聞いてねぇよ」


『御質問とお見受けしました。』


「名前呼んで無いだろうが」


『申し訳御座いません。』

ったく、何しに出てきやがったんだ。


『如何されるのですか?』


「アシストが質問かよ

わからねぇ事もあるんだな」


『申し訳ありません。ですがシステムとて、完璧では無いのです。』


「‥素直だな、なら教えてやる。頭に情報しっかり加えておけ。」

テクニックがなんだ、生憎俺は体が資本のヒーローでな。


「ふんっ!」


『ピピッ‥記録します。足場に拳を打ち付け崩しコンクリートの瓦礫を発生、飛散。』

丁寧なこった。


「はぁっ!」


『散った瓦礫群を蹴り上げ真上、頭上

へと射出。』

力任せの弾丸だ、テキトーにぶん投げてみたが‥足りるか。


「おいロード、ナイフの数判ったりするか?」


『ロウディです。‥頭上を疾るナイフの数は、6本です。私見で、間違いが無ければの話ですが。』

六本か、一つ足りないな。


「でもまぁ、好都合だぜ…!」

一振りありゃあ充分だしな。


『瓦礫の数は五つ、ナイフは六つ。』


「おかしいね‥血の匂いがしない、外したのかな?」

奇術師という奴は仕掛けのタネを隠して言わない。


「がしかし僕はネタの行き着く先、ショーの結末も見ないで放置だ。‥結果は観客の手の内さ。」


「そうかよ。」 「ん、おや?」


『三つ、四つ‥五つとナイフを瓦礫で落とし残る一振りを手に高く跳躍、身体は相手の眼前へ』


「へぇ、主も空を飛べるのか。」


「飛んだんじゃねぇ、跳んだんだよ」

記録も済んだ頃か、後は簡単だ。ナイフ構えて人に向けたら‥やる事は一つだよな?


「ヒーローにしちゃあ乱暴が過ぎるかもしれんがな!」


「ほう、今宵のテーマは乱暴か。‥おおうっと、今は昼間だったのか」

外した‥いや避けた?

いつまでおかしな動きをしやがる。


「いよっと、結局戻って来てしまったな。」

『振りかぶりナイフで強襲、しかしふわりと身体を浮かし避けられ足元を掠め空を斬る』


「そんなトコまで頭に入れなくていいんだよ!」


『シャドウは電線へ宙吊りと初期段階へ回帰しました。』


「見りゃあわかるっての…。」


残念ながら女の言う通りだ、ファントムなんとかって奴はまたも蝙蝠みてぇに宙ぶらりん、失礼なやつだぜ。当の本人はその格好のまま平気で口開いて話しかけてくる、自覚が無ぇって事だ厄介だろ?


「これが主の結末か、暴威を防ぎ振り出しに戻す。‥タイムリープと近しい世界観だ」


「褒めらてんのか?

そりゃどうも、奇術師さんよ。」


「奇術師では無い、トリックスターだよ。」

「なんなんだよそりゃあ…。」

物は言い様ってか?

野郎はそんな些細な俺の頭のハテナを解く事も無く言葉を続けやがる。


「主、参加理由は何だ?」「何‥?」

返事を返さねぇと思ったら、アイツの頭にもハテナが浮かんでやがったのか。


「俺に聞くことか?

自分の腕輪が勝手に教えたろ?」


「生憎無駄な情報は聞かないでおいたんだ、敢えてね。」

何企んでやがる‥?

仮面で隠れて見えないが、酷く歪んだ笑顔が浮かんでる事だろうよ。


「‥教えてくれるだろうか?」


「……」

参加理由か‥。別に大した意味合いの事柄でも無ぇしな、教えるまでもない事だが。


「…まぁ暇つぶしみてぇなもんさ。」


「暇つぶしか、単純明快な話だな」


「お前のは酷く赤裸々だな。

〝陽の目を見たい〟なんてよ!」


「見られてしまっていたか‥まったく、無様なものだろう?」

中には、いるだろうな。いくら平和を守っても、いくら人々を救おうと讃えられる事の無い不憫な奴も‥。


「奴もその一人って事なのか」


「‥少し、昔話をしようか。」

疑いを察して聞いたのか奴は勝手に口を開いて話し始めた。


「僕の居た街、ブロッサムタウンはね‥凄まじく治安の悪い街なんだ。」

ブロッサムタウン‥名前くらいは聞いた事がある。確かに余り、いい噂を聞かないな。


「窃盗、強盗、麻薬…毎日何かしらの犯罪が巻き起こる暴力と欲望の街さ」


「酷ぇもんだな‥。」「そうだろ?」


「だから町の住人は参っててね‥勿論健全な人達だけだけど。皆んな悲惨な目に遭っている」

ブロッサムタウン‥そんなトコだったとは、予想を遥かに超えてたぜ。


「お前さんも随分苦労人みたいだな」


「まぁね。‥で、そんな街で僕が一体何してたのかって?」


「聞いてねぇよ。」


「勿論悪者退治さ」


「だから聞いてねぇって。」


「法で裁けない悪事、はたまた手に負えない組織なんかを陰から消滅けして廻るのさ。」

駄目だコイツ勝手に話しやがる。お互いに聞いてねぇみたいだ。


「暗い夜の闇に紛れて鎌を振るう様を捕まえて〝死神〟なんて呼ばれてね」


「物騒なこった‥。」「だろう?」


「間違ってもヒーローの呼び名とは思えない代物だ。」


「それに比べて此処はいいところだ」

仕事が無かった訳では無ぇ、ならなんで‥。


「もしやお前の参加理由って‥」


「あぁ、そうだ。」


「僕の条件は陽の目を見ること、暗闇で無く、明るい陽の元で力を振るう事だ。」

そのままの意味って事か…。


「でも大変なのだよ、光が有ると隠せる物も隠せなくてね。」


「逆に言うとすれば、隠さない分手数は増やせるのだが…。」


「あん?

何言ってやがんだまたコイツは。」


『お気をつけ下さい、既に始まっています。』


「お前また勝手に出てきやがって。始まってるって何がだよ?」


『来ますよ、足元をお気をつけ下さい。』


「何?」

女の一言は、助言アシストというよりは、警告シグナルに近かった。


「おっと種明かしか、頂けないなぁ」

促される様に足をコンクリートから浮かして離すと細い糸に括られたナイフが足の残像を刺し通り上へと延び進んだ。


「まだ仕込んでやがったのか…!」


「1234‥先程より二つ程少なくしてみたのだが、やはり物足りなかったか。」

糸の長さを調節し、隙の幅を縮めて操ってやがるのか。速さも角度も張ってる場所も独自のもんだ、予測のしようが無ぇ。


「厄介な事しやがって…死神がよ。」


「それは褒め言葉だろうか?

褒め言葉だろうね。」

てめぇに都合の良い奴が、自惚れた解釈をしてやがる。


「嬉しいなぁ、僕は賛美に弱くてね。‥何せ闇の中じゃ客がすくないからさ」

闇で大鎌振るってりゃガキも逃げてくだろうよそりゃ。


「御礼に教えてあげるよ。貴重な客人だし、もてなさないといけないよね」

とか言いながら奴はでかい天に何かを投げた、いつも勝手に話を進めるやつだ‥ったく。


「なんだ、ありゃあ?」


『あれは水瓶です』「聞いてねぇよ」


「それっ!」「冷っめて…」

毎度服の何処に仕込んでるかわからんナイフを投げ当てて、水の入った瓶はバラバラに砕けた。そうすりゃ当然水が溢れる。‥当たり前の話だがな。


「悪い悪い、だがお陰で視野は広がった筈だ。見えなかったものが、今なら見えている筈だよ?」


「なんだ‥こりゃあ…!?」

大量の水を被った世界の景色は、癪だが奴の言う通り俺の視界を大きく広げた。


「逃げ場は無いって事かよ。」


『敷地内に隅々まで張り巡らされた糸、陽の光でも薄れる程の細い形状を模しています。』


隠されていた訳じゃねぇ見えていなかっただけだ。そんな無様な確信があった。


「まるで蜘蛛の糸の様だろう?

‥狙った獲物は逃さない。」


「ここまで手ぇ広げてたのかよ‥!」

貪欲な光への追求か、余程性格が暗いんだな


「ロード、地図を出してくれ!」


『かしこまりました。』


「そこに包囲網を添付する事はできるか?」


『可能です、只今表示します。』

僅かなローディングの後、マップの画面は、赤い糸で埋め尽くされた。


「袋の鼠か…?」


「今はっきりとそう言ったろう?」


「うるせぇよ!」

予想以上の範囲領域テリトリーだ。下手に動けば糸に絡まる、かと言って動かなくても安全では無ぇ。途中で切り離して、奇襲って手も有り得るからな。

‥だとすりゃあこっちはどうする?


「地図を見た処逃げる場所なんか無いしな…」


「へぇ、長考か。

無駄だよ思うよ、隙間なんて無いのだからな」


「陽の光に充てられて、隠れても分かるようになっているからさ。」


「ちっ!」 随分とご機嫌だな!

隠す物は無い、全て明るみにってか?


「ん、待てよ隠す?」

陽の光に当てられ照らされる。‥そうか!


「なら隠れりゃいいじゃないか。」


「あばよマジシャン!」「んぅ?」

地図を頼りに動けば万能だと思ったが、手元にこんな大きな影があるとはな。


「痛って‥。」

痛ぇ思いは流石にするが、これで安全は確保した。


『大胆ですね』「何か文句あるか?」


『いえ、ショーウィンドウを突き破りデパートへ身を滑る。形通り肉を裂く野蛮な行為です。』


「やっぱり文句言ってるじゃねぇか」


『滅相も御座いません。』「ったく」

まぁいい、形成は整えた。あとはどう攻めるかだ。


「‥取り敢えず使えそうなもんを集めるか。」

デパートの中だからな、何かしらあるだろう


『油断はするべきでは無いかと。』


「余計なお世話だっての、そんな事より店の地図を見せやがれ!」


『‥只今表示致します。』

奴も流石に建物内には糸を張って無いようだ。性には余り合わないが、コソコソ動いてまわるしかねぇな。


「ここは一階‥」

三階建の内の一段か、まだ遠いな。‥だがまぁ焦る事も無い、ゆるりと行こうじゃねぇか


「へぇ〜、まさか穴空けて入っていくとは‥やるとは思っていたが。」


「テンダネス」『はい。』


「なんで主君ら名前が皆違うのだ?

同じ容姿なのに。」


『風貌が同じだからこそです。我がシステムはナンバーの代わりに割り当てられた名称を呼称致します。』


「聞くだけ野暮という事だな。まぁいい、彼の情報を改めて教えてくれ」


『畏まりました、只今表示します。』

左の手首の時計に存在し、声も見た目も同じ。

機械的な愛想の乏しい声、黒髪で長髪の女の姿。分け与える情報量も同じ、だが何故か名前だけが異なる。‥変な感じだ。


『表示致しました。パワー・スターの情報ソースです。』


「有難う、ゆっくりお休み」『はい』


『パワー・スター』 通称 ゲイティ

ゲイトシティのヒーロー

性別男 武器唸る拳、鋼の肉体


「唸る拳に鋼の肉体‥か、少し乗せて登録したな?

…まぁ言っても単純なパワータイプって事だな。」

技術テクニック知識スキルは皆無な戦闘方法だ。只々、打撃あるのみ。


「でもだからこそ、仕掛けや罠を張りにくい」


技術は予測、創作、設置の三段階によって成り立つものだ。単純な腕力(パワー)はその過程を崩し、破壊する。


「ならば過程を排除すればいい、勿論今回も既に〝排除済み〟外程の派手さは無いが充分な仕掛けだ。」


「力でどこまで圧せるだろうか。‥僕はその間に新たな仕掛けを施すとしよう。」

その前に念の為、もう一度プロフィールに目を通しておくとしよう。


「と言ってもめぼしい話題など特には‥」

出身はゲイトシティ、聞いた事が無いな。性別など見れば判る、情報を通すまでもなくな

やはり確認する程の情報は…


「おや、これは…?」

思っているより、主もやり手の様だ。


「これだけ集まればいいだろ!」

主導的な武器はバールに限る、使い勝手が良ければ多様だしな。糸を容易く切れそうなでかいハサミも用意した、これで奴の小細工も通用しねぇ。


「あとは投げやすそうな飛び道具に‥スタンガンも取っておいた。」


『フィールド施設、デパートの一階工具売り場でバール、高枝切り鋏、スタンガンなどを物色後自らに装備。次なる衝撃に備えます。』


「一々説明するんじゃねぇよ。」


『申し訳御座いません。』「ったく」


武器は揃えた、その後はどうするか?

このまま外に出るのも有りだが、油断する訳にはいかねぇ。ガラリと景色が変わってる可能性もある、あの死神もどきなら平気でやり兼ねん。‥と、なれば上に上がるか?

しかし特に用事が…いや、待てよ。


「なんか、腹‥減って来たな…。」

どこから上へ上がれる?

入り口がありゃ出口もありそうなものだが‥っと、入り口は使って無かったな。


「仕方無い」

気は進まないが正式に呼ぶとするか。


「ロード、いるか?」


『ロウディです、いつでも居ますよ』


「二階へはどうやって行ける?」


『左の角、奥の階段を使えば二階へ上がれるかと。』


「左の角奥‥案内してくれるか。」


『こちらです。』

道導、分かり易いアシストはお手のもんだ。‥それ以外はわからんが。


『到着致しました。』「どうもな。」

本当に少し進んで角に誘導されただけだ。頼んだのは俺自身だが『到着しました』と丁寧に口にされると間抜けに聞こえるな。‥間抜けは俺の方だが。


「ん、待てよ、エレベーターがあるぞ。こっちの方が早いだろ?」


『‥確かに速度は上回りますが、階段の方が適切な選択かと』


「‥何言ってんだ?

機械が機械を否定してるのか。」


『確かに、否定せざるを得ないかも知れませんね…。』


「‥何だソレ?」

さっきもそうだが、腕時計の女は時折歯切れが悪くなる。おそらく、自分の都合が悪いときにそうしてる。下手なアシストを促すおもちゃは偶に、酷く人間らしく息をする。それが己の感情か、セキュリティのプログラミングかは定かで無いが。


『チーン』 「ほら普通に開いたぞ」


「えーと、二階のボタンは‥これか」


『ボタンには余り触れない方が‥』


「ん、何か言ったか?」『いえ何も』

どうしたんだコイツ、誤作動が過ぎるぞ。

『済みませんが暫く何もせず動かずにいて下さい。』


「なんだって?」

これも誤作動か、アシストってよりは命令に近いが‥。


「なんだってんだよ」

耳障りな電子音を吹き鳴らして小さい箱の中を荒らし始めやがった。


「まだかぁ?」『もう暫くお待ちを』

故障でもしてるのか?

‥故障してる機械の箱を点検する機械ってか。その機械を点検する機械も必要なんじゃねぇのか?

…なんだそれくだらねぇな、バカバカしい。


「もういいだろ、扉閉めるぞ」


カチッ‥。


『御遠慮ください』


「もう押しちまったよ。」

女はいつも冷静だ、如何なるときも。勝手に出てきて余計な事を言うときも態度は平静、飄々そのもので愛想無く口を開く。だからこそ口を濁して歯切れを損ねると変に感情があるように見える。


この箱の中でもそれは変わらない。

しかしここでのそれは、見え方が少し変わってた。機械の持つ乏しい人間味が、異様な形で目にえた。


『急いで出て下さい。』 「…何?」


『扉が完全に閉め切る前に、急いでここから出て下さい!!』


「‥お前、怒ってるのか…?」

機械が怒る。おかしな話ではあるが、何故か従うべきだと強く感じた。


『早く、急いで下さい』


「わかったっての!」

閉のボタンに呼応し扉は徐々に閉まる。言われた通りに外へ抜け出てはみるが果たして間に合うかどうか‥。


身体を薄く平にして右手を扉の外へ、

流れのまま胴体、脚と表へ抜け出す。


「ふうっ。」

俺はそこで安心しきっていた。通常の人間であればそれで問題は無かっただろう。‥しかし俺はヒーローだ、他の者と比べたら一つだけ、パーツの数が〝多い〟事を忘れていた。


『残念です、間に合いませんでした』


「何?」


カチッ‥


「カチ?」

何かが扉に巻き込まれ、次なる悲劇へのトリガーになった事の合図だと理解した。

しかし何が、腕も足も腹も全て外へ飛び出した。なら一体何が?


そんな単調な事柄の答えは、後ろへ首を振り向けば容易く把握できた。


「しまっ…俺のマントがっ‥!」

気付いた頃には遅かった。トリガーを引いた英雄の証は小さい箱を爆弾に変え、宿主を吹き飛ばした。布先を多少爆風へと預けたがそれでも尚たなびく証は英雄に宿り続けた。


「くっは…!」

ったく、とんだ厄介者と一緒にいたもんだ。気が付かなかったぜ、あれだけ共に街の平和を守り続けたってのによ。


「作りもんの部屋で喧嘩するとはよ」


『パワー・スター様、ご無事ですか?』


「本気で聞いてるのか?

‥虫の息だろ…どう見ても。」


『精一杯の忠告をしたつもりなのですが。』


「だからその通りに動いたろ。間に合わなかったけどな。‥こりゃあ自爆に入るのか?」


『定かではありませんので、分かり兼ねますが。自爆の定義を御表示致しましょうか?』


「しなくていいってのそんなもん…。

‥それにしてもお前、さっき随分と焦ってやがったみてぇだが。」


『‥‥はい。爆撃を直接的に受ければ私の装置は破壊され、システムとしての働きを維持できなくなると判断しましたので。』


「そうかよ。」 『はい』

結局は自分てめぇの為だったのかよ!


「痛って‥それにしてもやってくれたな、あの仮面野郎。中にも仕掛けてやがるとは」


『私はしっかりと忠告致しましたが』


「忠告の前に何が入ってるか言っとけ始めに!」


『申し訳御座いません。エレベーターのボタンに触れるまで、物体の詳細を把握出来なかったもので』


「しっかりしてくれよ‥。」

扉を一枚介したとしても爆撃は爆撃だ、流石に身体に刺さるな。まさか箱に爆弾入れてやがるとは‥認めたくは余り無いが、ロードの話は高い信憑性がありそうだ。


「少なくとも嘘は付いていない。」

言葉通りなら、階段を使うべきって事だが‥。


「ロード、信じていいんだよな?

‥お前の言葉。」


『…私の情報は詳細なソースから弾き出された明確なデータで御座いますので、是非御参考に。』


「本当だな?」


『稀に、情報の不足による誤答が存在致しますが、力の及ぶ限りお役に立つ所存です。』


「そうかい」

早ぇ話が〝ナメるな〟ってことだろ。


「わかった、なら階段を使ってやる。お前に従ってな」

重たい身体にしんどいが、酔い覚ましには丁度いいか。頭もフラフラだしな。


『頼りにして頂いて何よりです。‥ですが、事は迅速に進めた方が宜しいかと。』


「何だ、罠にかかった俺への当てつけか?」

野蛮な冗談まで言えるのかコイツは。


『いえ、意味合いとしては似通ってはいますが異なります。』


「何をいってるんだかわからん、お前こそ迅速に話せって。」


『はい、ならば手短に申し上げます。

貴方の握っている手すり、そして踏みしめる段差、既に箱と化しています』


「箱…。」

認識を覚える前に、温度の変化が肌に伝わった。箱の意味も、熱に触れる事で理解した。


「先に言いやがれ!!」


熱が破裂し、噴火する前に脚を前に出し、上へ走った。勿論手すりに掴まらずだ。俺は火柱にも勝てねぇのか、何が〝強靭な肉体〟だ。書かなきゃよかったぜ、そんな事。


「何処が安全なんだよ機械女!」


『安全とは一度も言っていません。ただこちらの利用が適切ではないかと提示しただけです。』


「物は言い様だなおい!」


『‥先程とは違う形状の爆弾のようです。先程はスイッチが入ると爆風を上げる空間型の物、今回は触れれば上へと伸びるいわば噴射型の地雷の様な物でしょう。』


「聞いてもいねぇことツラツラ説明すんな!」

別の情報で話誤魔化しやがった。

機械流の言い訳か?


「おっと、危ねぇ!」


『お気をつけ下さい。』


「わかってるよ!」

足踏みゃ炎が湧き上る、それを避けるのに身体動かして体制を崩しても手すりには掴めねぇ。‥不便でならねぇ!


「火が止まらねぇ、防ぐ術もありゃしねぇのならば、火が廻るよりも早く身体を動かしてここを抜けるしか策は無ぇよなぁ!?」


英雄は走った。

どっかの神話の野郎の如く、真っ直ぐ続くその道を。‥途中で緩めのカーブとかも多少あったがそういう意味で無く、いやそういう意味ではあるはあるが。


「ぬあっ‥とぉ!」


『到着です。』「わかってるよぉ。」

最後の火柱を間一髪抜け切り、階段を上り終えた。‥すると生意気にも、何の変哲も無ぇ店の風景を見せびらかしやがる。名前を二階というらしい。


「初めましてってか、馬鹿らしいな」


『二階のマップを表示します』


「‥今回はまぁ、有難ぇか。」

勝手な事とは言えねぇな。


『読み込み完了』「どれどれ…」

機械のお節介に素直に目を向けるとするか。


「ここは‥食品売り場か?」


『はい。規則的な配列でショーケースが並び、右端側から野菜売り場、果物を挟んで豆腐、納豆その他の食材。奥へ進むと魚、肉類、更に奥左側端はジャンクフードやスイーツデザート等』


『その他飲料品などエトセトラ常備陳列されています。』


「ちょっとしたパーティだなまるで」


『はい。ですが闘いに直接的な関係は無い箇所かと、休憩や腹拵えといった意味合いでは別ですが。』


「意味はあるんだよ、俺にはな。‥他の奴は知らねぇが。」

肉や魚は腹持ちいいが、生じゃ傷めるからな。寧ろ毒になりかねん。


「となりゃあジャンクフードとやらを攻めるに限るな。」


『食事をなされるのですか?

意図が分かりかねますが。』


「意味が分からないってか?

面倒だから記録しておけ、んで保存でもしておけ。」


『わかりました。情報を記録し、更新します。』


「んじゃあ早速物色といくか!」


〜数十分後〜


「ふぁ〜食った食った。

〝身体のノリ〟も元通りだ、予想以上に変わったな。」


『パワー・スター

食材を摂取する事で体力、共にダメージを回復、修復。ジャンクフード等脂分を多く含んでいるとより効果を増す』


『保存しました』「素直だな。」


『貴方のアシストで御座いますので』

嫌でもやりますよってか‥。


「さぁてと、力が有り余ってるな。もう二階ここには用は無いしな」

3階に行くべきなんだろうが、易々と道が空いてるもんなのか?


「ロード、上へ上がろうと思うんだが三階への道は安全か?」


『精密な調査をしない現段階での判断は難しいですが、罠を張っている可能性が高いと思われます。』


「やっぱりか…」『如何なされます』


「あーだこーだ考えるのは苦手でな、単純に‥ブチ破らせて貰う。」


『ブチ破る?』「よっと…」

数合わせで買ったコレを使うとはな。


『高枝切り鋏‥どうするおつもりでしょう?』


「わからねぇか、踏み台にすんだよ」


「ふんっ!」

中で折れて無ければいいが。


『床に突き刺さりコンクリを陥没。一階の天井に刃先を露わにしています』


「‥上出来だ。」

後は踏みしめて、跳び上がるだけだ。


「腕から外れんなよ!」『…了解。』


いち‥にの…

「さん!」


『一つに纏まる柄の先端を踏み上がり跳躍』

「見せてやるよ、俺の必殺技…ゲイトシティの太陽!」


「スター・ライトパンチィ!!」


『拳炸裂、天井破壊

瓦礫と化して宙に散る』


「よっと、三階に到着だな。」


『二階の天井に大きな風穴、三階に突破した今は事実上床に風穴。』


「また分析か、好きだなお前」 


『記録します。』


『スター・ライトパンチ

拳から繰り出される打撃、渾身の力で撃てばコンクリの床を貫き砕く威力』


「床を貫くってわかりにくいな。」

三階に着いたからか?

結構真面目だなコイツ。


「そんな事よりどうするかだ。」

上に上がっただけじゃ実質意味は余り無ぇ、外に出たいからな。


「この上はどうなってる?」


『階段、又はエレベーターを跨ぎ屋上へと繋がっています。』

結局か。一枚底を蹴破っても同じ事。


「仕方無ぇ、またひとっ走り…」


『いや、その必要性は無いものと思われます』


「何?」


『罠を感知するべく分析範囲を拡げてみたのですが、いずれの箇所にも罠らしき反応が見られません。』


「範囲を拡げるって、そんな事まで出来るのかお前。」


『ポイントを絞っての分析になりますが、可能です。』


「この部屋に罠は無いんだな?」


『身の危険を帯びる様な箇所には少なくとも‥勿論、階段やエレベーターにも。』


「そうか、そこまで大口開けて手ぶらならこっちも躊躇無く向かってやるとするか」


『念の為、用心の程を。』


「遠慮すんな。信じてやるよ、お前の事。」


行く道が一つなら、当然そこを進むしか無いが、やけに不自然な違和感を感じる。あれだけ仕掛け好きの野郎が、急に仕掛けを解くなんざ裏があるようにしか見えん。


「…〝仕掛けずの罠〟って事じゃ無いといいけどな。」

一歩踏みしめて足を上げると、唯の硬いコンクリの段差。二歩、三歩と進んでもそれは変わらず。調子を振るって手摺りをがっしり掌で包んでみたがこれも反応は無し。疑いながら出し惜しみを受け登っていくと気付けば身体は上へ延び、在るべき場所を変えていた。一枚の扉を介しそれを開け脚を揃え、己の体躯が完全に排出された後漸く気付いた。


俺は今、屋上にいるんだと。

疑問を確証に昇華させる事もなく、爆風に巻き込まれ大きな傷を負った訳でも無いその姿で、何の弊害も持たずに目的の場所に赴いたのだと、そう遅れて確信した。


「なんで判らなかったんだ?」

外に出ての疑問はあったが一時で解決した。それはひとえに、視界を遮られていたからだった。空の風景を見る事で全部判明した、酷く分り易かったからな。


「あれだけ陽の光が好きだったのによ、何で空が黒いんだ?」

夜を迎えた訳じゃない。夜に近い程の暗い何かが、景色に黒いモヤを掛けていやがる。


「やぁお客さん、まだ帰ってなかったか。」

闇の空から声がした。紛れているのか、馴染んているのか、よくわからん音だった。


「お陰さんで楽しませて貰ってるよ」


「何よりだ。」

野郎はモヤの上に板を張って乗ってる様に、突っ立っている。椅子も床も無ぇとこで。


「安心しろ、紐は一通り切っておいた。‥張ってるのは足元のコレだけだ」

聞いても無ぇ事をつらつらと…誰かに似た物言いをしやがって。


屋上ここの入口、罠を張り忘れてたが、ネタでも切れたのか?」


「三階の階段の事かな?

あれは敢えてそうしたよ、会場への入り口に失礼があってはお客様も気分を害すると思ってね。」


「親切な野郎だな、本当によ‥!」


「そりゃどうも、しかし礼には及ばない。」


言ってねぇよ、礼なんか。都合良く解釈して自分のペースか、相変わらず自分勝手だな。人の話は二の次で、好きな間合いで好きな話を‥

「そんな事よりも聞いてくれるか?」

な?

お手のモンだろ。


「聞きたくねぇっって続けんだろどうせ…。」


「僕は仕掛けを施すのが大好きでね、試行錯誤の時間もそうだけど人前でそれを披露してエンターテイメントに昇華されたときの快感がたまらなくってね。」

爽やかな変態だろ、速い話がよ。


「目の錯覚を利用したり目立つものに注意を惹きつけ他の仕掛けを隠したり

なんてしたたかな細工も中にはあって僕も結構好きなものなのだが。」

知らねぇよ、お前の好みの趣向はよ。


「だが一つだけ、どうしても許せない事がある。」

一人でずっとベラついてやがる、最早止めてもやまないだろうな。面倒くせぇ。


「客人を真っ向から騙くらかし気分的高揚を与えず、尚且つエンターテイメント性に昇華されない悪態の表現…」


「人の〝嘘を付く〟ということだ。」

また訳のわかんねぇ事を‥。


「嘘が織り成すメリットは己にのみ有効とみなされるものだ。他人から見れば毒を吐き掛けられているものと同じ、無様極まり無い代物だ。」

手品の次は演説か?

闇に紛れて何言ってんだアイツは。


「それを何で俺に言ってんだよ?」


「…ほう、君もあくまで加担する側か。しらばっくれて知らん振りか?」


「加担する側って‥俺がいつお前に嘘なんか付いた?」


「尚も言い逃れか、無様だ。

主がいくら言葉を重ねようと、情報は素直で正確なのだよ。」


「テンダネス!」『はい』


「再度彼の情報を頼む。」


『了解しました』


「テンダネス?」

名前がいちいち違うのか、何で今俺の情報が要るんだよ。


「主は言ったな?

僕の参加動機は何だとの問いにしっかりと〝暇つぶし〟と。」


「…?‥あぁ、そうだったか。」


「しかしここにはこう書かれている。

〝強大な悪と戦う〟!!」


「‥あぁ。」

嘘だろう、まさかお前。


「そんな…」

そんなくだらねぇ事で腹立ててんのかよ。


「平然と嘘を付かれるとやり返したくなる。‥幼稚にも程の有る見解だが」


「陽の光を味わい続けたいがここは、本来の明るさでショーを開く!」


「‥言ってる通りだ。どうしようもねぇガキだな、お前。」


「ぬかしていろ客人」


『お気をつけ下さい、本領が露になります。』

「丁寧な忠告だな随分とよ」

耳障りな音を立てて取り出したありゃあ鎌かなんかか?

本領がどうのとかいう言葉に沿るならそうなんだろうな。


「でけぇ鎌に黒づくめで闇の中‥なんでこんな奴が陽の光を好んでんだ?」


「見慣れた者にはわかるまい。

闇に長らく佇めば、隠れているのも疲れる事が理解できる。」


「だからってお前ぇわざわざ光を隠さなくても‥」


「あれ、アイツどこ行った?」

確かにさっきまであそこで見えない糸に足乗せて空に…。


「ロード、何処に行ったか知らないか?」


『把握します』 『ピピッ‥。』

蜘蛛の巣、爆弾と来て今度は透明人間か。…手間のかかるガキんちょだ。


『把握しました』「お、何処だ?」


『……』 「なんだよ?」『いえ‥』


「‥そうかよ。」

大体覚えた。こいつがこういう態度を取るときは、教える必要が無いほど。


「話が手元に擦り寄って来てるときだってな…」

真後ろか‼︎


『背後直ぐの黒いモヤにご注意を。』


「今更遅ぇよ!!」

聞いてた鎌は思っていたよりデカかった。即席で作ったハリボテの黒い影に隠れて刈り取るように頭を出した。間一髪避けれたが、アシストのお陰じゃねぇ。俺が反射的に前に踏み込んで距離を開けたからだ。


「何が〝トリックスターだ、単なる闇討ちじゃねぇか!」


「冗談を言うな、そういう〝演出〟僕は嘘を絶対に付かない。主と一緒にしないでくれるか?」


「影から顔出しながら言うなんな事」


「だから‥演出だと言っているのだが!?」


『お気をつけ下さい

相手は酷く危険な状態です。』


「わかってるってんだよ‥。

大体嘘なんざ付いてねぇよ!

説明すんのがしんどかっただけだ!」


「今も尚言い訳をし続けるか。

説明などしなくても判るものだ、自分の居場所にはてきと呼べる脅威が無くなった。だから場所を変えて存分に振るえる、強大な力のある敵を求めた。」

大鎌振り回しながら口まで廻すとは、えらく器用な野郎だな、コイツ。


「なにせお前は、強靭な力を持つパワーファイターらしいからな!!」


力を求めてねぇ‥。

違うな、力になんざ興味ねぇ。

そんなもん街の悪モンで充分事足りてたぜ。だが凝りすぎちまったのかね。気が付いたら街の悪は、すっぽり消えて無くなってた。


俺が全部根絶やしにしちまったんだ。


俺を恐れて街に来なくなったんじゃねぇ、訪れる奴がもう一人も残っていなかったんだ。

俺の参加理由は強大な悪と戦う事。

栄光や力なんてどうでもいい、唯悪を挫く事が出来ればそれで良い。


「オレは‥ヒーローだからよ」


〈スター・ダイヤモンド!!〉


「胸を張っただけか。

避ける事を諦めた様だな!」


避ける必要なんざ無ぇ。


「何‥!?」


「資料読んだんだろ?

それでどうしてわからねぇ。」


『パワー・スター特に外傷無し』


刃が通らない…躰が硬質化している?

「違ぇな、元から硬てぇんだ。」


『からだの部位やそのものに多少の力を加え硬度を増加させる。技とは言い難いですが特有の保有スキルです。』


「誰に説明してんだポンコツアシスト!」


『申し訳御座いません。』

‥へぇ、ベクトルは攻めにしか向かないと思っていたが、防御まもりに徹する事も可能なのか。


「硬質化させた皮膚に筋肉の跳躍パンプアップを加えることで受けた衝撃に更に反射を付与する訳だ。」


「あん?

何言ってんだお前?」


『その通りです』


「ちゃんと会話すんじゃねぇ!」


「参ったな。鎌が通らなくてはどうしたものか、粗方手は出し尽くしてしまったしな。次の手を施そうにも〝余り時間が〟‥。」


「万事休すってか?

…っと待てよ、時間が無いってどういう事だ」


「なんだ主、知らないのか。

バトルの形式がいつも、単なる力比べだと思っているのだな?」


「いやバトルってそういうもんだろ」

意味がわからねぇ。

コイツを倒して終わりじゃねぇのか?


「おい、どういう事だ!


しっかり説明しろっての!」


「僕に聞くのか。

敵のつもりで構えているのだが、それに聞きたい事があるなら適切な相手が居る筈だが‥」


「おや…?」


「お前、何だよそれ。身体が‥!」

粒子状、いや塵か?

粉みたいに崩れて散っていく。


『シャドウ様、お時間です』


「そうか、もう来たのか。僕の身体が先に消えるという事は今回は主、君の勝ちという事だな。」


「勝ち‥なんで俺が勝ちなんだよ?

何にも別にしてねぇぞ。」


「僕が逃げた、と言いたげか?

違う、ルールに従って争った。そして主が勝利した。」


「ルールってなんだよ?」


「主、それは僕に聞く事では無い。実際なら、既に知っていて当然の事だ。見落としは良くないよ。」


「見落とし…」


「とにかく今回は貴方の勝ちだ。また手を合わせる事があれば会おうじゃないか、僕のショーにまた招待するよ」

奴は言うだけ言ったら姿を消した。最後まで勝手気ままな厄介者だったぜ。


「…二度と御免だっての。」

本体が消えれば闇も消え去り明るく景色を取り戻した。本当に陽の光が好きなのか?

だとすりゃ影に愛され過ぎだ。


「で、俺はどうすりゃここから出れるんだ?」


『お待ち下さい。情報を更新後、直ぐに転送致します』


「‥そうか、悪いな。」

勝者にでもなればお迎え付きの待遇か、とんだVIPだな。俺が鎌を避けながら頭を抱えてるときに随分と静かにしらばっくれたのは敢えて知らん振りをしといてやるぜ。


「それよりも先ずはここを出る事だ」

『更新しました。』


ショッピングモールの攻防

パワー・スターゲイティ

VS

死神のファントム・シャドウ

勝者パワー・スター


『転送します』







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