第26話 僕と鈴羽、緋莉の約束と土曜日



「お兄ちゃん〜!」

 向こうから鈴羽と手を繋いで緋莉あかりがやってくる。


「おまたせ。皐月君。・・?どうしたの?」

 鈴羽が俺の顔を覗きこむ。


「いや、なんでもない。しかし緋莉にえかく懐かれたね」

 母さんのことを頭の片隅に追いやり、2人を見る。


 緋莉は鈴羽と手を繋いで楽しげにしている。


「あのね、お兄ちゃん!お姉ちゃんの車がすごいの!ブォーンってなってフィーンってギューンで!」

「緋莉、落ち着こうな?何言ってるかさっぱりわからん」


 鈴羽が苦笑して、私の車が楽しかったみたいよと緋莉の頭を撫でる。


 当の本人は、えへへ〜と俺たちを見上げて笑っている。


「ごめんね、うちの緋莉が、はしゃぎすぎて」

「ううん。妹っていいなぁって思ったよ」

「お姉ちゃんは、緋莉のお姉ちゃんになってもおっけーなの!」

 緋莉はどうやら鈴羽がいたく気に入ったみたいで繋いだ手をぶんぶん振っている。


「緋莉ちゃん。ありがとう」

 こちらを見てくすりと笑う鈴羽。


「で、鈴羽。どうするの?いまから。」

「う〜ん、そうだね、せっかくだしこの辺りをぶらぶらしてみたいかな?」

「は〜い!緋莉が案内するの〜」


 こうして僕等ー僕と緋莉はだがーは再度駅前を見て回ることにした。


 緋莉を真ん中に挟んで歩く僕等は、側から見れば仲の良い兄妹みたいに見えるんだろうな。

 きゃっきゃと楽しそうに話す2人を見てそう思った。


 駅前を3人でぶらぶらし、そろそろ帰ろうかとすると、すっかり懐いた緋莉が鈴羽から離れない。


「お姉ちゃん〜もっと遊ぶの〜!」

「う〜ん、お姉ちゃんもそろそろ帰らないといけないから・・・」

 半ベソをかいてしがみつく緋莉を優しく撫でながら鈴羽がいう。


「だったら緋莉ちゃん。夏休みになってお父さんとお母さんがいいって言ったら、うちに遊びにこない?」

「ふぇ?」

「行ってもいいよってお許しがでたらだけど、ね?」

「そうだね、緋莉、父さんと母さんには僕からも頼んであげるよ」


「う〜〜ん!!」

 僕等に抱きついて華が咲いたような笑顔を向けてくる。よしよしと撫でてやっていると、


「緋莉お嬢様。お迎えに上がりました」

 タイミングを見計らったように是蔵さんが緋莉を迎えにきた。

 是蔵さんは、いつもの柔和な笑顔で鈴羽の方を向き。


「皐月様を何卒宜しくお願い致します」

 と深々と頭を下げた。


「えっ?あの・・はい!ってお嬢様?皐月様?」

 状況が把握できない鈴羽に緋莉が

「お姉ちゃん!緋莉はお休みになったらお姉ちゃんのとこにいくの!約束なの!」

 と、小さな手を出した。

「うふふ、うん。約束だね」

 鈴羽が小さな手を取り小指を絡ませる。


「〜〜♪〜〜ゆ〜びきった〜♪」


 バイバイと手を振りながら是蔵さんの車に乗って帰る緋莉を見送りほっと一息つく。


「台風みたい妹でしょ?」

「あはは、可愛いわよ。すっごく。お姉ちゃんだってわたし」


 僕等は笑い合い、手を繋いで僕等の街に帰るために歩き出した。



 アルちゃんに乗って帰る途中。


「ところで皐月君」

「ん?なに?」

「お嬢様とか皐月様とか、あれなに?皐月君ってもしかしていいとこのお坊ちゃん?」

「あ〜、そんなんじゃないんだけど・・帰る間に説明するよ。鈴羽を連れていくかもしれないしね」


 そう言ってから鈴羽を見ると、耳まで赤くなってる。


「皐月君の実家に連れて・・両親に紹介・・」

「ん〜、まぁそうなるかな?」

 僕も言ったことの意味がわかり照れ臭かったけど、そのままの意味だから。


「そういうわけだから、これからもよろしくね」


 こうして夏休み前の僕の短い帰省は幕を閉じた。






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