第7話 初めての水曜日

 こんなにも水曜日が待ち通しいことが今まであっただろうか?

 僕は5時間目の授業中からすでにそわそわしていた。

 多分それは、傍目から見ても丸分かりだったわけで授業終了後に当然のごとくリョータにひつこく絡まれたりはしたのだが、何とかあしらい早足で公園への道を急ぐ。

 時刻は5時少しすぎ、そんなに早く行ったところで彼女が、鈴羽さんが来ているはずもないんだけど。


 僕はいつもの公園のいつものベンチに座り深呼吸をする。自分でも心臓の音がバクバクいってるのが分かるような気がする。


「いろんな意味で緊張する・・・」


 夕方時の公園は、犬の散歩をしている人や仕事帰りの人達が行き交っており、中には僕のように待ち合わせをしているであろう人もいてそれなりに人通りも多い。

 そんな中、彼女がこちらにやってくるのが見えた。

 僕にきがつくと満面の笑みを浮かべて手を振る彼女は今まで以上に綺麗で、行き交う人の、主に男性の視線が痛くもあり誇らしげでもあった。


「皐月君、おまたせ。待った?」

「い、いえ今来たとこです」


 まるで定番のセリフを返すと彼女はくすっと笑い僕の隣に座った。


「今日もお仕事お疲れ様です」

「皐月君に会いたいから頑張っちゃった」

 彼女は笑いながら少し上目遣いで僕の顔を覗きこんだ。そんな風に見つめられるとどうしていいのかわからない僕は、そうですかと小さく呟くのが精一杯だった。


「そんなに固くならないでね、皐月君は私の大好きな彼氏さん。で私は皐月君の彼女よ?」

 彼女は僕にもたれかかり僕の手に、その細っそりとした手を重ねた。

「う、うん、そうだね。なんかドキドキしちゃって、よろしくお願いします」


 彼氏彼女発言と手を重ねた感触に戸惑いよくわからない返事をしてしまう僕。

 彼女はまた、くすりと笑い重ねた手をぎゅっとにぎり大丈夫、ゆっくりね、と囁くように言い僕の肩にもたれかかった。


 しばらく無言の時間 とても心地のいい時間だった、重ねた手の温もりと漂ってくる彼女の甘い香り。幸せってこういうのなんだなぁ。


 公園の街灯が灯り出し人通りがすくなったころ、僕等は手をつないで駅へと歩いていた。


 学校であったこと、友人のこと、会社の人達のこと、色んなことを話しながら駅に到着する。


「皐月君、また連絡するね」

「うん、す、鈴羽も気をつけて帰ってね」

 改札に向かって歩く彼女にそう声をかける。照れ臭いので小声になったけど、彼女はちゃんと聞こえたようで、

「名前・・・うれしいよ・・」

 振り返った彼女は薄っすらと頬を赤らめてこの日1番の笑顔で手を振り改札をくぐっていった。


 家に帰ってから気がついた彼女からのメールには


 絵文字に彩らた『大好き』が届いていた。



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