3-2
梢が震える指先を差したその先へ、この場にいる全員が視線を動かした。
「ひ、光ってる!」
確かに、暗闇の中で2つの目が緑色に光っている。
「ホントだ! でも緑? 噂では赤く光ると言われていたけど……」
近づこうとしない梢の代わりに田中がゆっくりと足を部屋の奥へと進めていく。
「た、田中先輩! 正気ですか!」
「だって確かめなきゃ」
語尾に音符マークがついていそうなテンションでそう言った田中の後を、梢以外の部員が着いていく。
「ま、待って、置いてかないで!」
最後尾についた理恩の口角が上がった。
「しっかりしてくださいよ、相棒」
「…………!」
馬鹿にされたことがやけに悔しくて、梢は震える手を扉から離した。
「なによ……肖像画の目が光るくらい……」
ブツブツと独り言を言いながら一歩足を前へ踏み出したところで「わ!」という声がして、再び梢は全身を硬直させた。
見ると、部屋の上の方にあった緑色に光った目が床から数センチの場所にあり、更に移動している。
各々が動く目を懐中電灯の光で追うが、最終的に理恩の足元に光が集結した。
「……猫?」
理恩の足元に顔を擦り寄せていたのは、あの黒猫だった。
「みゃおん?」
愛らしく鳴き声を出す黒猫に、理恩以外の全員が、一気に表情を緩めた。
「なんだよ、猫かよ……」
「なかなか七不思議に出会えないな」
「残るは増える階段だけか。今の時期プールには入れないし」
「でも今回はオーブが撮れたし、今までよりも格段に内容の濃い部誌が作れるわ!」
黒猫は依然として理恩から離れない。
多分、中身はまた優花とかいう霊体なのだろう。
「ねえ、なんでその子いっつも宝生くんの傍に現れるの?」
他の部員たちが音楽室から出ていくと、梢は小声で理恩に問いかけた。
「懐かれてるって言ったろ」
「宝生くんは除霊が出来るのよね。成仏させてあげることも出来るんでしょ?」
「まあな」
「じゃあ早くしてあげたら? いつまでもこの世にいさせる意味がわからないんだけど」
「俺もそうしたいんだけどな」
理恩がそう言うと、黒猫は彼の後ろへと隠れた。
「……成仏したくないの?」
梢の言葉に黒猫は「ミャー」と鳴いた。
その瞬間、いつもの感覚が梢の身体を襲った。
「え……待って……」
頭を抱え始めた梢に理恩が「おい」と声をかけた時、一瞬ぐらりと梢の身体が揺れた。
梢は意識を手放す瞬間、やはりこの黒猫には関わっていけないのだ、と思った。
だが、それ以降、梢の精神は眠り、代わりに優花が彼女の身体を支配した。
すると、それまで理恩から離れなかった黒猫は、何故自分がこんな場所にいるのか、としきりに辺りをキョロキョロと見回してから、脱兎のごとく逃げ出してしまった。
「またか」
「えへへー。成仏なんて冗談じゃないっての」
「おまえな……」
理恩がため息を吐いたところで、少し遠くから理恩たちを呼ぶ声が聞こえた。
「おーい! ふたりとも何してるんだ? 先に進むよー!」
「すぐ行きます」
「はいはーい! 何? 肝試しかなんか? ワクワクするねー!」
「だからおまえは喋るな!」
優花は頬を膨らませながら理恩の腕に自分の腕を絡ませようとしたが、巧みに躱されてしまった。
「理恩のケチ」
「送るぞ」
「鬼い!」
ふたりも他の部員たちと合流すると、一旦、3階の踊り場で歩みを止めた。
「噂によると、3階から4階へ続くこの階段の数が一段増えると言われている。皆、心の中で数えながら登ってくれ」
大森に言われて、誰が言うでもなく3年生から順番に一列に並んだ。
「12段……」
「俺も12段」
「私も」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます