1-2
最後の方はブツブツと独り言のように呟いているものの、本心がダダ漏れだ。
イケメンもいない、霊感のある人間も宝生理恩しかいない。
加えて、自分を客寄せパンダとして利用しようとされていることに梢はここへ来たことを心底悔やんだ。
だが、梢はここへ身を置かなければならない。
この、超常現象を追い求める環境に。
「……よろしくお願いします」
不本意ながら頭を下げると、大森は「よし! じゃあ手始めに二人の能力を見せて欲しいから……そうだな、旧校舎三階の女子トイレに行ってみよう!」と意気揚々と座っていた椅子から立ち上がった。
「何があるんですか?」
他の部員も同様に立ち上がったので梢も腰を上げた。
「花子さんだよ。トイレの花子さん! 有名でしょ? この学校にも出るって噂なんだよ」
確かに“彼女”は有名だ。
けれど、今時誰も興味など持たないのではないだろうか。
「いいんじゃない? 単に俺たちに視えるかどうか知りたいだけなんだろうし」
梢が怪訝な顔をしていると、梢よりも15センチは高い位置から声がした。
こんなに男子の高身長を勿体ないと思ったのは初めてだ。
きっと理恩はその身長を活かしてスポーツなどしないのだろうから。
渋々といった形で6人で今いる校舎から旧校舎へと移動する。
旧校舎といっても2年前までは普通に使用されていたらしく、まだまだ使えそうだと入り口を見て思った。
「…………」
その入り口の扉を大森が開いた時、ひんやりとした空気が梢の身体を通り抜けた。
さらにどこから紛れ込んだのか、黒猫までもがミャーと鳴き声をひとつ上げ、一度立ち止まりこちらを一瞥してから梢たちの前を横切った。
いる。
梢はそれまでの緊張感のない態度を改め、背筋を伸ばし深呼吸をひとつした。
梢には霊の姿が見えない。
けれど、先程神楽坂に言った通り、気配を感じる事は出来る。そしてそれは気のせいなんかではない。梢には祖母の、イタコの血が流れているのだ。
祖母は世間には知られていないが非常に能力の高いイタコであった。
一般的にイタコと言えば、死者の魂を冥界から呼び寄せ、その言葉を生きているものへ伝える媒介であり、時には心理カウンセラー、占い師として活躍するものだと知られている。
だが、祖母はそういった所謂表舞台には立っていなかった。
警察と秘密裏に連携し、未解決の殺人事件や行方不明者、理由のわからない自殺者などの被害者の魂を引き寄せ、口寄せをし、事件を解決に導くという大義に仕えていた。
だが、そんな祖母も年齢には勝てない。
自分で歩くことがままならなくなったのは今から3年前で、祖父も梢が幼いころに交通事故で他界していることから、その頃に青森の家からこの東京の梢の家に連れてきた。それから祖母は仕事はほとんど受けていなかった。
梢の両親に霊感はない。
だから、祖母は自分の後継者は諦めていたようだったが、梢に霊感があると知り、幼い頃祖母の家へ遊びに行くと散歩という名目で恐山によく連れていかれた。
同じ歳頃の女児がピアノのおもちゃで遊んでいるのに、祖母から誕生日に送られてきたのは
後にこれらがイタコが交霊の際に使う道具だと知った時は祖母を恨んだものだ。
そう、梢は祖母から多大な期待を寄せられている。
このアングラ部に入部したのも、祖母にそういった世界に触れる生活を送れと言われたからだ。
少しばかり、足を進めるのを躊躇していると、梢のすぐ後ろを歩いていた理恩が小さな声で囁いた。
「……こりゃ“花子さん”じゃねえな」
そんなことはわかっていただろうに、と梢は後ろを振り返り理恩を睨みつけた。
緊張感で顔が引き攣る梢に対し、理恩はこれまでと変わらず無表情だ。
そんな2人の心中を知るはずもない大森たちは、まるで遊園地のお化け屋敷にでも行くような盛り上がりを見せている。
何もなければいいと思っていたのに、これはマズイと梢は思った。
出来れば今すぐ引き返してしまいたいのだが、
そういうわけにもいかないだろう。
「先輩。それ以上進むのやめましょ」
思わぬ助け舟が出た。
梢たちから数歩先へ進んでいた4人が一斉にこちらを振り返る。
「宝生、ここまで来てそれはないだろ」
「そうよ、ほら、デジカメもちゃんと用意してきたし。宝生くんが撮ったら何か写るかもしれないでしょ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます