64.信じるもの
暫くして五つのモフモフが返ってきた。
二手に分かれて入っていったのに、五つが同じ側から出て来る。
聞くと二つの通路は繋がっていたという。
納得は出来たが、成果はなしだ。
残るはグリュイの入った通路。
俺は通路の入口に立ち、中を覗き込む。
他の通路と同じく湿った暗い通路だ。
暫くして、グリュイのカンテラらしき灯りが微かに浮かび上がった。
やっと帰って来たのかと目を凝らす。
灯りしか見えないが、少しずつ近づいて来ているようだ。
まだ慎重に探しているのか中々姿が見えてこない。
迎えに行くかと足を一歩踏み出した途端、何かが目の前に現れた。
「ばあ!」
声と共に木の仮面を付けたグリュイが飛び出る。
俺は短い悲鳴を上げ、思わず後ろに仰け反った。
そのまま足を引っかけ後ろに豪快に倒れる。
「どうした?」
心配してクメギが駆け寄ってくるが、倒れた俺を見て笑い転げるグリュイを見て溜息をつく。
「いきなり出てくんじゃねえよ!」
「びっくりした?」
灯りはグリュイが持っているものだという先入観からまだ遠くにいるものだと思わせておいて、灯りを持っていたのはモフモフだった。
中々姿を見せなかったのは俺をおびき出す為か。
「暇そうな顔でこっち見てたから、脅かして欲しいのかと思ってさ」
「暇じゃねえし! それに暇でも驚かして欲しい奴なんていねえよ!」
モフモフも意味が解ってやってんのか知らないが、真似をして腹を抱えている。
何て緊張感のない奴らだ。
さっき石を取ったモフモフはさり気に石をアピールしてくるし、何なんだこの状況は……
「三と刻まれた石以外は無効だからな」
石を見せつけに来ていた内の二つが膝をついて倒れる。
手足が短いからうつぶせに倒れているようにしか見えないが。
一と二を持ったモフモフが嘆き、三を持ったモフモフが喜ぶ。
変な絵面だが、文句は三を選んだクメギに言ってくれ。
「それで、何か見つけたか?」
俺は気を取り直して起き上がる。
「何もなかったよ」
「そうなると残りは小さな通路しかなくなるが……」
「一人で立ち向かったなら、狭い通路の可能性もあるんじゃないの?」
「いや、一匹でかい
「ボス猿がいたのか。よく村が無事だったね」
「それはほら、ムクロジが上手い事やってくれたんだろ」
グリュイが大きなため息をつく。
「何でお兄ちゃんはそんなに適当なの」
「俺だってちゃんと考えてるよ!」
「人間ごときが痺猿のボス猿に勝てる訳ないでしょ。それなのに村が襲われてないって事は、洞窟に入って帰って来れない訳があったんだよ。もしくは……」
「まだ他に何かあるのかよ」
「お姉ちゃん達が嘘をついている」
妙案でも思いついたかのようにグリュイが腰に手を当てる。
「嘘じゃないわ」
クメギが静かな声で否定する。
「そお? じゃあ、向こうで隠れているのは何しに来た人達かな?」
グリュイが入口を見上げた。俺もそれに釣られ、そっちを見る。
物陰に隠れる人影が見えた。
「どういう事だ」
俺は入り口に顔を向けながら、横目でクメギの様子を伺う。
「本当に知らない」
クメギは緊張した表情で応える。
「心配して来てくれたとか」
「それなら隠れる必要ないでしょ」
「違う村の人とか」
「お兄ちゃん諦めて。わざわざ他の村からこの洞窟に来る理由がある?」
「何でだよ」
怒りが込み上げる。俺は村の為にやって来た。
それが多少通じてないと思ってはいるが、敵意を見せる程の事をやったのか。
「この洞窟に誘い出して邪魔者を片付ける。いい手だね」
「違う! 村の人達はそんな事はしない」
「お姉ちゃんのそれは、本気? それとも演技?」
「グリュイ!」
この状況を楽しんでいるかのように話すグリュイを一喝する。
「何で僕だけ悪者なの? この状況を作り上げたのはお兄ちゃんでしょ」
「お前の怪しい術で怒ってる可能性もあるだろ」
「僕の術は完璧だからそれはないね」
「何で、そう言い切れるんだよ!」
「お兄ちゃんは自分の力が信じられないの?」
「そういうこと言ってんじゃねえよ」
「何を言おうとしてるの?」
また話が平行線になるのを感じ、俺は言葉を飲み込んだ。
「もういい。私が話を聞いてくる」
怒りを滲ませたクメギが入口への坂を上っていく。
「いいの?」
クメギを見送りながら、グリュイが俺に囁く。
「何がだよ」
「人質になったかもしれないのに」
「お前なあ」
俺は怒りと呆れを感じながらグリュイを睨んだ。
「お兄ちゃんは誰を信じるの?」
グリュイは気にした様子もなく、素直な疑問を吐き出す。
この状況でも俺は村の人達を信じたい、と言えばグリュイじゃなくても甘いと言われるだろう。
クメギもグルだったら、この状況はまんまと填められた事になる。
だが、過去を話すクメギやシュロさんは苦しげに話していた。
人を騙すために付けた傷であるはずがない。
クメギは真剣に俺を信じようとしている。
頼っても良いと思ってくれているんだ。
俺だってそれに応えようと一歩踏み込んだんだ。
今はもっと踏み込んでいる。
「俺は、クメギを信じている」
俺は登っていくクメギを見送りながら、そう宣言した。
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