51.再開への足掛かり

次の日も疲れは取れず、気怠い体を押して石を拾い歩いていた。

色々あって出来ずにいた、のみを作るのだ。

足は痛みも痺れもなくなり、様子を見ながら慣らしている状態。

最もモフモフ達が元通りにならないと力仕事が出来ない。

恐怖の元凶は取り除いたのだからすぐに回復するとは思うが、そこはモフモフ次第だ。

その頃には俺の足も治り、今止まっている作業も再開できるだろう。


「再開か……」


ログさんの言葉が過る。

このまま再開して良いのだろうか。

良かれと思った行為が、実は喜ばれていなかった。

無理に気を使われ続けるのも嫌だが、真実を突きつけられるのも辛い。

強い立場から弱い立場に声をかけるとしたら、どういった言葉が正解なのだろうか。

強い立場を思い浮かべ、思い当たるのは一人しかいない。

俺は石拾いを中断し、周りに人がいない事を確かめる。

まさかこんな直ぐに使うとはと思いつつ、指輪を三回叩きデォスヘルを呼び出した。


「なんだ?」


すぐに返事が来た。


「あ、今暇でした?」

「前置きは良い。なんだ?」


何だろう質問する時はついつい敬語になってしまう。

すぐ出たのにつれない言葉。愛想が良いのか悪いのか。

俺はログさんとの経緯を話した。その上で如何すれば良いかと質問する。


「放っておきゃいいだろうが」

「放っておけないから言ってんだろ」

「はあ? 引き上げようとした手を振り解かれてんだろ。無理して連れてこようが、流れに乗れねえ奴は死ぬしかねえんだよ。死にたくなきゃ上がってくんだろ」

「死なせたくないって言ってんのが何でわかんねえんだよ」

「要は協力したいと相手に思わせればいいんだろ」

「うーん。まあ、そんな感じかな」

「少し待っとけ、私が策を練ってやる」


嫌な予感がした。それも物凄く嫌な予感だ。


「その前に、覚えているだろうな。この前の分も合わせて払ってもらおうか」


デォスヘルに言わせれば異界の話を聞かせろと言う意味だろうが、傍から聞けばどう聞いても金貸しが脅してるようにしか聞こえない。


「異界の話なら何でもいいんだよな」

「おう、早く聞かせろ」

「ならば、ドッジボールという物を教えよう」

「ほう。何処か甘い香りが漂って来そうだな。話してみろ」


何故、甘い香りが漂ってきたのかは気になるが、長くなりそうだから無視だ。


「まず、用意するのはボールだ。大きさは、この間、俺が出した風の玉くらいの大きさの球状の物だ」

「子供の頭くらいの大きさだな」

「次にコート。大股で縦十歩、横二十歩の長方形を二分して枠の中に十人ずつ入る。対面する枠の外に二人ずつ置き配置は完了だ」


俺は簡単にルールを説明してやった。

公式のようにちゃんとしたルールではなく、俺が子供の頃にやっていたルールだ。


「なるほど、魔法の球を投げつけ敵を駆逐するゲームか。面白い」

「駆逐はしねえよ!」


デォスヘルがやると殺伐としたゲームになりそうだ。

心配なので俺はまた初めから説明し直す。


「完璧にわかったぞ。枠という名の限られた空間で攻撃魔法を投げ合う死闘、それがドッジボールなのだな!」

「ちげえよ!」


暇つぶしには打って付けだという言葉を残し、通信は切れてしまった。

結局何だ。俺の悩みは解決したのか。

到達点を見失ってしまった俺は、首を捻りながら石拾いに戻るのだった。


色んな石を拾い集めた俺は一旦村に戻る。

ルートヴィヒが家を作る横で俺は鑿作りだ。


鑿の作り方だが、まずは指の長さの二倍を基準に長方形を作る。

それを斜めに切って出来上がりだ。

他にも鉛筆の様に先を尖らせた物、かんなのように幅の広い物などと色々作ってみる。

粗削りな出来だが、これを使えば木に凹みを作れるだろう。

魔法で切った物だ。強度は石だが、鋭さは並みじゃない。

早速、ルートヴィヒに使わせてみる。


「これは! 今まで使ってきたナイフより切れ味がいい!」


すごく喜んでくれた。


「持ち手は皮を巻くなどして調節してくれ」

「はい、ありがとうございます!」


俺の話を聞いているのかいないのか。

ルートヴィヒは木を削る事に没頭していた。

家作りを頼んだのに礼を言われるとは立場が逆な気もするが、真剣な表情のルートヴィヒを邪魔するのは気が引ける。

俺はそっと場所を移した。


俺はモフモフの様子を見に窪地へとやって来た。

しかし、何時もなら陰に隠れているモフモフの姿が見当たらない。

窪地に降り、モフモフを呼んでみると、土が盛り上がりモフモフが生まれ出た。


「何やってんだよ?」

「隠れてた」


既に響岩きょうがん蚯蚓みみずは倒したと知っているはずだ。

他に魔物がいるという事だろうか。


「村人ここ通る。見つかったらダメ」

「なるほどな。でも、ずっと土の中にいて大丈夫か」

「大丈夫、夜動く」


話を聞くと夜二つに分かれ食料を探しているらしい。

やはり俺の用意した食料だけだと足らないのか。

夜の暗い部屋で冷蔵庫の明かりに浮かび上がるモフモフ。

可愛いと叫ぶのか怖いと叫ぶのか。


そんな俺の妄想を、モフモフの言葉が吹っ飛ばした。


「昨日、変な奴に会った」

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