40.小数点以下切り捨て
隠密。それは、誰にも気づかれない寂しい存在。
存在感の薄い人は、例えその場にいようと後にいなかった事になる。
楽しい思い出の記憶にも残れない悲しい存在。
そんな儚い存在を今取ろうと考えている。
こんな思いまでして取るべきなのだろうか。
「隠密ってどの程度、見つからないようになるんだ?」
「人が大勢いる場所では、人ごみに紛れる事は容易でしょう。障害物のある場所も同じです。しかし、いくら隠密と言えど見晴らしの良い場所で、目の前に堂々と立っていたら間違いなく見つかります」
「目の前に立つとか、見つかろうとしてるじゃねえか! そんなんじゃなくて、鼻の利く奴とか、耳のいい奴とかいるだろ」
「感覚の鋭い相手にも効果はあります。存在を察知されても特定は避けられるでしょう。しかし、目の前に堂々と立とうものなら間違いなく見つかります」
「だ・か・ら! なぜおまえは堂々と立ちたがってんだよ!」
「寂しく儚い存在でも、目の前に立って存在をアピールしたら気付いてもらえますよ、という気遣いです」
「それは気遣いじゃなくて無駄遣いだ!」
話を仕切り直すためにナビを叩く。
こうでもしないと話がどんどん逸れていくのは、何なのだろう。
「気付かれた時点で効果が無くなるのか?」
「厳密にいえば気付かれた人に対して効果が消失します。勿論、複数人の場合、気付かれた人が騒ぎ出せば、周辺に見つかるのは時間の問題でしょう」
そこにいると指を差され、騒がれれば隠密の効果が薄れるのだろう。
眼鏡を探している人が、頭の上にあると指摘されるのに似ている。
それまで見向きもされなかった眼鏡が指摘される事で、注目の的となるのだ。
「結果、眼鏡は隠密上手という事で良いですか」
「良くねえよ!」
隠密を軽く纏めると以下のようになる。
【スキル名】隠密
【
【効 果】
・自分の存在が気薄になる
・知認された対象に効果消失
効果は解除するまで永続するが、一度気付かれた人に対しては見つかってない状況で、かけ直す必要がある。
回復は以下の通りである。
【スキル名】回復
【C T】なし
【効 果】
・手を当て対象を回復
・切断先があれば接続可
・状態異常回復不可、蘇生不可
簡単に言うと、死んだ人を生き返らせるのは無理のようだ。
そして、手足が切断してもその人が生きていれば、条件付きで手足をくっつける事が出来るという。
蜥蜴を例えに出すと尻尾を無くして
も再び生えてくるが、このスキルの場合それが無理なのだ。
無くした尻尾を見つけ出し、スキルを使えば元通りになる。
気になるのはCTがないという事。
「CTなしという事は使い放題じゃないか」
「再使用時間は掛かりませんが、魔力は半減します」
「魔力半減って、永遠に半減していくだけだろ?」
「半減した後、小数点以下は切り捨てられます」
「は?」
「半減した後、小数点以下は切り捨てられます」
「何で、今更それを言うんだ?」
「今更ですが、小数点以下は切り捨てられます」
「しつこい!」
ダメージが無いとは言え、叩かずにはいられない。
俺は踏ん張れない足で、思いっきり踏ん張ってナビを叩くのだ。
怪我の治りが遅いのは、ナビのせいかもしれない。
「魔力が一でも使えるのか?」
「最低でも魔力が二でなければなりません」
「そうなると、魔力が二で一回、四で二回、八で三回となるのか」
「十六、三十二、六十四、百二十八と最大値が増える度に使用回数は増えていきます」
「えーと、最大魔力が百二十八で……七回か」
「二百五十六、五百十二、千二十四でやっと十回使える計算になります」
「千とか桁が違い過ぎて想像がつかんな」
「魔力回復が数分で一回復するので、そこまで気にする必要もありませんけどね」
「今の計算、無意味かよ!」
怪我の具合や対象の回復力によっても回復時間が違ってくるようなので、使用回数にはあまり気を使わなくて良いようだ。
併用して使う場合は変わってくるが、無駄遣いは厳禁と覚えておけば良いだろう。
問題は回復時間だ。重傷を負った場合、回復に数日かかるという。
そうなると戦闘中に深手を負ったとして、手早く治し戦闘復帰とはならない。
二つのスキルに対して利点、欠点は大体把握した。
隠密の場合、危険を回避し易くなり、怪我をする頻度が低くなるだろう。
これは自分に限りという条件が付く。
狩人として複数で狩りを行う場合、俺は見つかり難くなるだろう。
しかし、他人にまでこのスキルは効かない。
他人が見つかった場合、庇うなどアクションを起こせば俺も見つかる。
回復の場合、多少の怪我をしたとしても元通りに治す事が出来る。
これは自分だけではなく、他人にも使える。
戦闘中に手を当て回復する余裕はないかもしれないが、戦闘が終われば、ほぼ負傷を治せると言っても過言ではない。
色々考えてみたが、今もポイントは使わずに置いてある。
今の所、回復か隠密を候補に置いているが、使う必要に迫られてはいない。
ポイントが余っていれば構わず使うんだが、そういう状況は来るのだろうか。
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