7.狩人の名は……

俺達は無事に朝を迎えた。日の高さからもう昼の方が近いが。

土をほぐしたとはいえ体が痛い、柔らかいベッドが恋しくなる。

俺は伸びをしながら周りを見渡した。

樹の葉が擦れ、ゆっくりと風が流れている。


「夜通し見張っててくれたのか」


モフモフの二つに声をかけると、片方がこちらに向けて首を振った。

どうやら七つのうち、交代で二つが起きて見張りについていたらしい。

有難いと思っていると、ナビと目が合った。


「そういえばナビは食事とか睡眠はとらなくて大丈夫なのか?」

「私はシステムの一部なので不要です」

「じゃあ、見張りをナビに頼んでもよかったな」

「私に頼っている様ではいつまでたっても一人前とは言えません」

「ナビゲーターと言うのは頼られる存在だろ」

「この世界の住人は時間と言う概念が希薄。その中であなただけ時間を守ったとして何の意味があるというんですか」

「ある程度は計画的に事が進むと思うが」

「そこまで仰られるなら、特別に秒刻みのスケジュールを組んであげましょう」

「振れ幅が極端か!」


何を言おうがナビには起こしてもらえないだろう。

そう考え、俺はナビを信用してきている事に気付く。

あんまり信用しすぎるといつか痛い目を見る羽目になりそうだ。


「あんた朝から元気だな。一人でぶつぶつと何言ってんだ」


いつの間にか一つになったモフモフが、俺を不思議そうに伺っていた。

改めて一つになったモフモフを見上げる。

二足で歩くことが出来るみたいだし、立ち上がると二メートル以上あるんじゃないのか。

横幅もあるし、腹が減っていないモフモフとやりあっていれば、簡単に負けていただろう。

俺が襲われなくて良かったと心底思った。


「少し精霊と交信していただけだ。今後、変な行動をしていたとしても、気にしないようにな」

「おお、あんた精霊使いか。良かった、俺達あんたと仲間」


この世界の精霊使いは尊敬に値するのか。

これは武器になるかもしれない。

いや、信じられなかった時の事を考えると微妙か。

匂わせる程度に話してみて、反応を見てから決めた方がが良さそうだ。

モフモフは昨日言い忘れていた事があると続けた。

ここに住み着いていた魔物が、村にちょっかいを出しているのを度々見ていたらしい。

当然、ここにはモフモフの居場所もなく、同じように村を襲って体力を付け、この地を離れようとしていたという。

それが失敗した今、どうしたらいいのか俺達にはわからないとモフモフは丸い肩を落とした。

任せておけと笑顔で応える俺に、モフモフは安心した丸い表情で頷くのだった。

本当にモフモフは丸いと話が落ち着いた所で、村の様子を見てくるとモフモフに伝えた。

生きるためとはいえモフモフは村を襲った魔物、一緒に行くわけにはいかない。

モフモフだって魔物の端くれ、俺が一緒にいなくてもそう簡単にやられることもないだろう。


道なりに歩いて村が見えて来た時だった。

左の草が不自然に揺れる。

俺は咄嗟に掌に水玉を浮かばせ気配を探った。

何処にいるのか全然わからない。

右側の茂みで枝の折れる音が鳴る。

視線を移した瞬間、左から影が飛び出した。

急いで放った水玉は、あらぬ方向に飛んで行った。

影だと思ったものは俺の恐怖心が作り出した妄想。

その間にも草を鳴らし近づく存在があった。

それは草むらから飛び出すと俺の眼前に迫る。

俺に出来たのは手を突き出す事。

手を捻られ痛みを感じた瞬間には、腕を決められた状態で地面に突っ伏していた。


「ここで何をしている!」

「いでででって、お前は」


そこには、俺に槍を突きつける第一狩人の姿があった。


「何をしていると聞いているんだ! また村を襲いに来たんじゃないだろうな」

「落ち着け! 第一狩人、俺は村に危害を加えるつもりはない」

「まず【ダイイチカリュウド】というのは何だ」

「分かりやすい様に付けた名前だけど……」

「私にはちゃんと親に付けて貰った名前がある、変な名前を付けるな!」

「じゃあ、教えてくれお前の名前を」

「なぜ、お前みたいな怪しい奴に名乗らなくちゃダメなんだ。村に近づくな」

「わかったよ第一狩人。俺に村に近づく許可をくれないか第一狩人。俺は村を助けたいんだよ、第一狩人。頼む、この通りだ第一狩人」

「うるさい! 私にはちゃんとクメギという名前があるんだ! それ以上ふざけるならここで……」


捩じる手に力を込めて怒るクメギに、謝罪と悲鳴を重ね何とか一命をとりとめる俺。

何とか腕を放してもらい座ることが出来た。

当然、槍の先端はこちらを向いたままだ。


「ごめん。冗談乗りすぎたのは誤るって。ごめんて、クヌギ」

「ク・メ・ギだ!」

「今のは本当に間違え……」


槍で刺されることは逃れたが、全てを言う前に顔面をグーで思いっきり殴られた。


「それで何しに来た。村を強請ろうと思ってるなら無理だぞ」

「単刀直入に言おう。村の働き手の一人として、俺を使ってみないか」


張れた頬を擦りながら見上げた俺は、クメギの冷たい目に見返された。

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