第1話 はまぐり探偵と画鋲盗難事件

 ハサミとか、爪切りとか、あんまり使わないものって、いざ使いたいってなったときに、どこにいったかわからなくなる現象ってありますよね?

 いや、もしかしたら常日頃から整理整頓が行き届いている人にとっては、そんなことあるはずがないとおっしゃるかもしれません。しかし、あたしみたいに、使ったものをすぐ片付けず、置きっぱにしたりなんかする人間にとっては、この現象は結構日常茶飯事だったりするわけです。

 で、まあ、なんでこの話をしたかと言いますとね。この間、あたし、友達から海外旅行のお土産にちょっとおしゃれな、水彩のポストカードを貰ったんです。ヨーロッパのどこかの運河を描いたような、とってもきれいなやつ。

 これをコルクボードに貼ろうとしたんですけれども、するとですね。


「あれっ!? 画鋲がない!?」


 ということに気がついたんですよ。

 そのあとも、小一時間探したんですけれども、全然見当たらなくて。

 ――どこか、引き出しの奥の方とか、わからないところに行っちゃったのかなあ。

 まあ、いいか……。あとで買いに行こう。

 と、そのときはそれでよしとしたわけなんです。


 で、そのあとなんですが、あたしはちょっと喉の渇きを覚えまして、キッチンに向かったんですよ。すると流しにはまぐりが、ボールの中で水につけられて置いてあったんです。

 恐らく母が夕食に使うため、砂抜き目的でつけたものでしょう。あたしはコップで水を飲みながら、ああ、今日ははまぐりのお味噌汁なのかな……なんて思いながらそれを眺めていたんですけれども。


 そのとき不意に、どこかから。

「やあ、君」

 と妙にハードボイルドな声色で、声をかけられたんです。

「君、なにか探しものがあるんだろう?」


 ――え、誰!? とあたしは心底驚きまして、身をかがめながら周囲を見渡したんですけれども、そこには誰もおりません。

 すると、再度流しの方から声が聞こえました。

「私は、ココだよ。コ、コ」

 恐る恐る見てみますと、流しに置いてあったはまぐりの中に一匹だけ、なにやら御大層な、パイプのようなものを咥えたやつがおりまして、そこから声が聞こえていたんです。

「私ははまぐり探偵だ。君、その顔はさしずめ探しものがあったが徒労に終わったと、そういう顔だろう? 違うかい?」

 はまぐり探偵と名乗った貝はそう言うと、パイプからぷかぁと煙を吐き出しました。


 その型破りの様に、あたしは驚きを通り越して、むしろ気圧されてしまったんですけれども。しかし、なんとか気を取り直しまして、

「いや、そんな大したものじゃないんですが、画鋲がなくて……」

 と答えたんですね。

 すると、はまぐりは「ふむぅ……」ともったいぶった口調で曰く。

「画鋲、か……。その画鋲。私が推察するに、おそらく何者かによって盗まれたに違いないな」

「は? 画鋲を?」

 あたしはみょんなことを言うはまぐりだ、と思ったんですけれども、しかしはまぐり探偵は落ち着いた口調でこう続けまして。

「そうとも。どうかね、君? もし私に協力してくれるのであれば、その画鋲。私が見つけ出してやろう」


 その様子、実に百戦錬磨の名探偵とでも言いたげな、至極自信満々なものでありまして。なのであたしは、ついついその話とやらに乗ってみたくなったんですよ。ただ、『協力』っていう言葉にはちょっと引っかかったものですから、

「でも、その協力、っていうのは?」

 と聞いてみたんですね。するとはまぐり探偵が言うには。

「うむ。それはな、私を海に返してほしいのだ。私はもともと海にいた。私を海からここまで連れてきたのは人間だ。故に人間であれば、海に戻すことだってきっとたやすいことだろう? どうかね? これは取引だ」


 ――あたしは思いましたね。

 海に行くほうが、画鋲を買いなおすよりも絶対にお金がかかる、と。ここは別に港町でも浜辺の街でもないですからね。

 なんですけれども、しかし、なんという幸運か。

 実はその次の日に、父が海釣りに行こうと言っていたことをあたしは思い出したんです。それならば、もしはまぐり探偵が本当に画鋲を見つけ出してくれたとしても、ちゃんと海に連れて行ってあげることができる。もし画鋲を見つけられなかったとしたら、そのままお味噌汁に打ち込んでやればいい。

 どっちに転んでもデメリットはそんなにないわけです。

 ならば、面白そうだし、話を聞いてやろうじゃないか。そう思いまして、あたしははまぐり探偵の申し出にOKの返事を返したんです。


「――よし、交渉成立だ」

 するとはまぐり探偵は再び口に加えたパイプから、ぷかぁと煙を吐き出しました。煙はリング状に広がって、天井に向かってのぼっていきます。

「では、手始めに状況を整理しよう。まず君、今回の依頼をもう一度確認させてくれ」

「いや、確認もなにも、画鋲がないんですって」

「ふむ、画鋲がない」

 はまぐり探偵はそんな単純明快な命題を、さぞ重要なキーワードでもつぶやくかのように、もったいぶって繰り返します。その言い方だけを切り取れば、まさにはまぐりホームズといった感じでしょう。


「――ふむ。して、それは入れ物すらないのか?」

「はぁ? 入れ物ですか」

「はぁ、じゃない。ここは推理の重要なターニングポイントなんだ。入れ物はあったかい?」

「ええっと、なかったと思いますけど……」

「そんな曖昧なことではだめだな。今すぐ確認してきてくれたまえ」

 そう言うとはまぐり探偵はどこからか、ぴゅっと水を吹き飛ばし、あたしに引っ掛けます。貝に顎で使われるなんて屈辱そのものですけれども、これ以上水をふっかけられても嫌なんで、あたしは見に行ったんですが。

 すると、なんと画鋲の入れ物。引き出しの中には見つからなかったんですけれども、外に口のあいた状態で見つかったんです。


 これをあたしがはまぐり探偵に報告すると、はまぐり探偵はやはりパイプから黒煙をぷかぁとやり、ふーむと唸ったわけです。

「中身はないが入れ物はあり、しかもその蓋が開いていた。とすれば、それが指し示す意味は唯一つ。そうだろう?」

「はぁ」

「単になくしたのであれば、中身も入れ物も、全部なくなるはずだ。しかし入れ物は存在している。だとすれば、何者かが中身を拝借して持ち去ったに違いない」

 ――確かに、その推理はあたっているように思われました。というのは、あたしの記憶では画鋲入れにはまだ十分に画鋲があったはずで、誰かが全部使い切るなんてことはなかったはずなんですね。

 となれば、確かに、誰かが中身を全部持ち去ったとしか考えられない。そういう結論にたどり着くのは自明というわけでして。こうなってくると、なるほど、はまぐり探偵の推理力も認めなくてはならないな、という気持ちになってきたというわけなんです。


 そんなあたしの心中を知ってか知らずか、はまぐり探偵はまたもや、ぷかぁと煙を吹き出しまして、こんなことをつぶやきました。

「さぁて。そろそろ私も、重い腰を上げないといけないときが来たようだ」

 ――いったいどこに腰があるんだよ。

 あたしはそう思ったんですけれども、はまぐり探偵は知らん顔で、

「さ、私を現場に案内しなさい」

 と、こうあたしに命令したわけなんです。

「案内するって……つまんで持っていけばいいんですか?」

「うむ。それ以外に一体どうしたいって言うんだね」

 あたしの問いに、はまぐり探偵はそう堂々と答えました。んー、できればこんな得体の知れないもの、触れずに持ち運びたいんですけれども……。

 でも、しょうがない。箸なんかで運んで落っことしたりなんてしたら、それこそなにかまずそうな気しかしませんからね。あたしは人差し指と親指とで、ちょっと厄介なものでもつまむような感じで、掴んでいったんです。

 するとですね、はまぐり探偵はあたしに向かって意気揚々とこう言いました。

「さあ、ワトスンくん。ではまず、私にその辺を実地見聞させてくれたまえ」

 誰がワトスンくんなんでしょう。

 しかしそれを言っていてもしょうがないので、あたしははまぐり探偵の指示通りに、彼自身を引き出し周辺に点々と置いては持ち上げ、置いては持ち上げというのを繰り返したんです。


 さて、それをしばらくやっておりますと、不意にはまぐり探偵は、

「よし、わかった」

 と言ったきり、黙りこくってしまいました。

 それが三分ぐらい続いた頃でしょうか。これはいったい……? と、あたしは思いまして、はまぐり探偵に声をかけたんですが。

「あのー、おーい、探偵? 生きてる? 生きてますかー?」

「ええい! 少しは静かにできんのかね! 騒々しい!」

 そういうと探偵は黒煙をまた吐き出しまして、再び黙りこくってしまったんです。要は今、推理中ということでしょう。あたしもしばらく待ってみることにしました。

 かくして、十分くらい経った頃でしょうか。

 はまぐり探偵はブワンとそれまでとは比べ物にならないほどの煙を巻き上げまして――って、けむっ! ごほっごほっ。


「――真実はわかった。さあて、ここからは実践の時間だ」

 咳き込むあたしをよそに、はまぐり探偵はそう宣言しました。

「さあ、ワトスンくん。君は当然エメンタールチーズは持っているだろう? それをあの引き出しの前に置くんだ。いいね?」

「エメンタールチーズですって?」

 あたしはその言葉のあまりの唐突さに、すこし閉口してしまいましたね。そもそも単なるチーズですらあるかどうかわからないのに、種類まで指定してくるなんて!

 ちなみにエメンタールチーズというのは、穴開きチーズのことです。スイスのエメンタール地方で作られるため、この名前がついているんですね。

「つべこべ言ってないで、さっさと持ってこい!」


「いやいや、そんな無茶な……」

 あたしは内心少々毒づきながらも、キッチンに向かいまして、冷蔵庫を開けてみたんです。

 すると、まあもちろんエメンタールチーズはなかったんですけれども、そのかわりに、ちょっと古くなったチーズが見つかりまして。なのでこれをエメンタールチーズの代用として使うことにしたんです。

「よし、それじゃあ張り込みだ!」

 はまぐり探偵がそう言うので、あたしはまぐり探偵をつまみながら、そろりと物陰に隠れまして、チーズの様子を監視することにしました。


 しかしですよ、みなさん。あたしたちは小一時間待ったんですけれどもね、本当になんにも起こらないんです。あたしなんてもう飽き飽きして、ポケモンGOのボックス整理なんかを始めちゃったりしたんですけれども。はまぐり探偵はその間ぶつぶつと呟いておられまして。

「――いや、そんなはずは……もしやチーズは食べないのか……? 逆効果だったか……?」

 そしてさらに小一時間たったあと、あたしにこう言いました。

「おい、ワトスンくん。チーズは逆効果かもしれん。パンを置け!」

「今度はパンですか? いったいなにを考えてるんです?」

「いいから、はやく置くんだ!」

 あたしはしぶしぶ、今度は棚からパンを取り出して、チーズの代わりに引き出しの前に置きますと、再びはまぐり探偵と一緒に物陰に隠れてなにか起こるのを待ったんです。


 とはいえなにも起こらない。

 こりゃもうだめだ。この探偵はもう味噌汁の中に入れてやるしかないな……そうあたしが思い始めたとき。

 ふと、パンのまわりで、動きがありました。

「しっ。見ろ」

 はまぐり探偵の声に促されてあたしも確認してみますと、なんと、パンの前にはネズミが一匹――いや、違います。そのシルエットはトゲトゲで、まさにハリネズミ――。

 え、ハリネズミ?


「ワトスンくん! 星の確保だ!」

 そういうはまぐり探偵の声に突き動かされまして、あたしは急いでハリネズミを捕まえるべく、駆け寄りました。その動きが、あまりにも激しかったからでしょう。パンに興味を示していたハリネズミはびっくりして飛び上がりまして、そのはずみで引き出しに背中のトゲが突き刺さり、かわいそうに、そのまま動けなくなってしまったんです。

 あたしが近づいてもハリネズミはその手足をバタバタさせるだけで、もはや逃げること叶わず、といった有様でした。なので、あたしはじーっと観察することができたんですけれども。するとですね、あたしはとんでもない勘違いをしていたことに気が付いたんです。

 というのもですね、そのハリネズミだと思った彼。よく見るとなんと、それはハリネズミではなく、画鋲を身にまとった単なるネズミだったんです。


「なにするの! ここから離して!」

 画鋲をまとったネズミはそう大声で叫びました。

「なにするのじゃない!」

 すると、あたしが手でつまんでいたはまぐり探偵が声を荒げて言いました。

「ネズ公! おまえこの引き出しから、画鋲を盗んだだろう!」

「ぼくしらないよ!」

「とぼけるんじゃない!」

 はまぐり探偵はなおも大声を上げました。

「じゃあその背中についているのは、いったい何なんだ!」

 ――そうなるでしょうね。

 そうはまぐり探偵が言うと、ネズミはウッと言ってしきりと背中を隠そうとしましたが、やがて観念したのか、力なくだらんとした姿勢になり、黙りこんでしまったんです。まあ、逃げ場もないですからね。


 そんなネズミを前にして、はまぐり探偵はウォッホンと、大きく咳払いをしまして。

「ワトスンくん」

 と、あたしを呼んだんです。

「神と、星と、それから私の真実を伝えよう!」

 ――あ、はまぐりだけに?


 ……こほん。

 ともかく、そんな決め台詞を言ってからですね、はまぐり探偵はこう推理をはじめました。

「いいかい?」

「はい」

「君が探していた画鋲。これはなくしていたのではなく、何者かによって盗まれていた。これは、画鋲はなくなっていたものの、画鋲の入れ物が残っていたことから、容易に想像がつく。加えて画鋲を大量に盗むという行為。ここには星にとって、何らかの意義があるはずだと見るべきだ」

「なるほど」あたしは適当さがばれない程度の相槌を返したんですが、はまぐり探偵の話の熱量は変わらず。

「この意義とはなにか。私はしばらく考えていた――。するとだ、引き出しの前、ホコリが積もったところに、ネズミの足跡が見えた。そこで私はピンと来たのだよ。そう、画鋲窃盗の星はネズミであり、ネズミはハリネズミになりたかった。そのため、ハリネズミになるために必須であった、ハリを盗んだのである、とね」


 そこまで言うとはまぐり探偵は、ぷかぁと、パイプから紫煙を拭き上げました。

「しかし、探偵」

 あたしははまぐり探偵にこう質問しました。

「ではなぜ、ネズミはハリネズミになりたかったんです?」

「ゲフンゲフン!」

 するとですね、はまぐり探偵はやけに大きな音で咳払いをしたんですけれども。

「それは――もちろん、このネズミくんが君に説明してくれるだろう。そうだろう、ネズミくん?」

 するとですね、力なくふさぎ込んでいたネズミは顔を上げまして、こう言ったんです。


「ぼく、かっこよくなりたかったんだ。だってぼく、仲間のうちでは体もちいさくて。童顔だってよくいわれるし……」

「ふむ。確かに君はネズミの中では童顔だな」

 はまぐり探偵は訳知り顔でうんうんと頷いていますが、これについてはあたしにはさっぱりです。

「それでね、ネズミのあいだでは、いま、ハリネズミがブームになってるの。ハリネズミのことをチュチュちゃんも、マウちゃんも、ミニーちゃんもみんなかっこいいって言うんだ」

「なるほど、それでお前はハリネズミになろうとしたというわけか」

 するとネズミは力なく、うんと頷きました。

「でもさ、このハリがあると、あぶなくってともだちと遊べなくなっちゃったんだよ。ほら、これトゲトゲでしょ? ともだちはみんな、ちかくによりたくないって。ひとりぼっちになっちゃったんだ」


 ――みなさん。ハリネズミのジレンマってご存知でしょうか? ショーペンハウエルの本に登場する有名な寓話なんですけれども。寒い冬。ハリネズミは体を寄せ合って暖を取りたい。でもハリネズミは体がハリで覆われているため、あんまり近寄ると傷つけあってしまう。このジレンマを哲学ではハリネズミのジレンマと呼ぶんですけれども。

 ネズミくんはハリネズミになった瞬間から、このハリネズミのジレンマというものをとくと味わうことになったのでしょう。

 ――まあ、詳しいこと言っちゃうと、ショーペンハウエルの元ネタはハリネズミではなく『ヤマアラシのジレンマ』なんですが。


「――それはお前が犯した罪に対する当然の報いだな」

 ネズミの話を聞き終えたはまぐり探偵は、そう突き放すように言ったんですけれども、あたしはちょっと彼の境遇をかわいそうにも思いました。

 なので、あたしは彼を引き出しからぐっと引き抜きまして、

「……しょうがないな。だったらあたしがハリを外してあげるから。ちょっと痛いかもしれないけど、我慢するんだよ?」

 と、あたしはネズミにくっついていた画鋲を一つ一つ剥がしてやったんです。ちなみにその画鋲はですね、なにか、お米か、あるいはでんぷんのりのようなものでくっついていまして、比較的簡単に取れたんです。


 かくしてしばらくすると、画鋲を全部剥がすことができまして。

「はい、これでおしまい。全部剥がれたよ!」

 と、あたしはネズミに声をかけたんですが。

 しかし、これは生存本能の高さゆえなんでしょうか。なんとこのネズミは。

「ありがとう!」

 早口でそう言うとですね、体をいきなりぐいっとひねりまして、あたしの手から抜け出し、窓の外へ一目散。ピューッと逃げていってしまったんです。

 その手際のはやさに、あたしはあっけにとられてしまったんですけれども。


「――やれやれ。逃げ足の早いやつだ。しかし、よかったのかい? あんな奴に手を貸してしまって」

 はまぐり探偵は呆然としているあたしに向かってそう話しかけました。

「まあ……でも、あたしとしましても、画鋲は戻ってきましたし。それに家の中にネズミがいるのは嫌ですけど、家の外にいったのなら、むしろ好都合かもなーって」

 そう言うと、はまぐり探偵はですね。

「そうか、君は優しいんだな」

 と、また煙をくゆらせまして、こんなことを言いました。


ねずみの子

針をつけても

根はねずみ


 ――季語のない俳句でした。


 まあ、ともかく。

 かくしてあたしは画鋲を取り戻しまして、友達からもらったポストカードをコルクボードに貼るという目的を達成したわけなんです。これをはまぐり探偵に見せてみたところ、はまぐり探偵はなにやら満足そうに、ぷかぁとやっていたわけなんですが。

「――ところで、君。約束を忘れてもらっちゃ困るよ?」

 ということで、あたしは夕飯のとき、はまぐりのお味噌汁をすすりながら、明日、はまぐり探偵を海にまで戻して欲しいということを父に頼んだわけなんです。父はそんなあたしに対して「奇妙なことをお願いするもんだなあ」とずいぶん訝しんでいたんですが、やがて了承してくれまして、次の日、確かに探偵を海にまで連れて行ってくれたのでした。


 さて、かくして物語は全て大団円。まあるく収まったわけなんですけれども。

 しかしですね、みなさん。このお話には後日談がございまして。

 というのは、父が海に出る前にですね、ちょっとサービスエリアに立ち寄って、一服しようとしたらしいんですよ。すると、車の中にいたはまぐり探偵も反応しまして、「オレも連れて行け」と呼び止められたそうなんです。

 父の方もその頼みを快く引き受けたそうで、寒空の下、ふたり、タバコを吸いながらいろいろと積もる話をしたらしいんですけれども。曰く。

「いやぁしかし、あの娘さんは優しくていい子だ。あのまままっすぐ育っていって欲しいものですな」

「はは、これはどうもありがとうございます」

「いやいやいや、とんでもない。これはまさに、親御さんのよき育て方の賜物といったところでしょう」

「はは、恐縮です……。ちなみに、はまぐりさんはお子さんなどはお持ちで?」

「いや、これがね。恥ずかしい話なんですが、数千万……いや、もっといるはずなんですが、一度も面倒を見たことがなくてですな」

「おや、数千万。これはすごい数だ」

「数だけですとも。そのうちいったいいくつが味噌汁の具になるのやら」

 はっはっは……プカァ。

 と、こんな感じでやっていたそうでして。はまぐり探偵のブラックジョークも大概ではあるものの、そもそもその目線、どこ目線だよとあたしは思ったのですが……。


 ともかく、このお話をまとめるとこのようになるかと思います。

 すなわち、やたら探偵ぶるやつはリアルでは超面倒くさい。

 それが貝であれば、なおさら。


 ということで、今回のお話はおしまい。

 ご清聴ありがとうございました。

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