黒いチューリップ

@castlehill

第1話

 黒川 拓磨  14歳 君津南中学2年B組 転校生 小柄 

 

 黒川 剛史      拓磨の父 トビ職 

 

 黒川 佳代      拓磨の母 建設会社の一人娘だった


 加納 久美子 28歳 君津南中学 英語教師 2年B組担任  

         

 安藤 紫   29歳 美術教師 

  

 西山 明弘  30歳 学年主任 レガシイ・ワゴン所有

 

 高木 将人  42歳 教頭 株式投資 

 

 東条 朱里  28歳 保健室 代議士岩城三郎の愛人

 

 桜井 優子  28歳 平郡中学 英語教師 旧姓 木村優子    

 

 桜井 弘       優子の夫  

 

 望月 良子      平郡中学校 庶務係

 

 安部 進       平郡中学校 教頭 

 

    

板垣 順平  15歳 サッカー部のストライカー 長身


 佐野 隼人  14歳 サッカー部のキャプテン 


 波多野 孝行  14歳 篠原麗子に好意


 波多野 正樹  38歳 孝行の父 君津署 生活安全課 刑事 


 新田 茂男  14歳 波多野 孝行の親しい友人


 新田 京子      茂男の母 養護学校の園長  


 山岸 涼太  15歳 不良グループのリーダー 霊感強い


 関口 貴久  15歳 家が焼失 九州へ引っ越す


 相馬 太郎  14歳 小柄 不良グループ


 前田 良文  14歳 不良グループ 見張り役


 鶴岡 政勝  14歳 左のミッド・フィルダー カメラが趣味

    

 鮎川 信也  14歳 鶴岡のライバル

    

 秋山 聡史  14歳 小柄 夜尿症 佐久間渚に好意


 五十嵐 香月 15歳 映画同好会 女優になりたい 長身


 佐久間 渚  14歳 映画同好会 佐野隼人と交換日記 

 

 山田 道子  14歳 映画同好会 黒川拓磨に好意 


 篠原 麗子  15歳 早熟な女の子 


 手塚 奈々  14歳 脚が長くスタイル抜群 長身 

       

 古賀 千秋  15歳 学級委員 生徒会長への野心 


 小池 和美  14歳 書記 大柄で気にしている 


 奥村 真由美 14歳 姉は蔵本真理子  


 土屋 恵子  15歳


土屋 高志   17歳 恵子の兄 高校中退 無職

         

 森田 桃子 17歳 先輩 水商売

  

   


 

 鏡だった。

 女の祈祷師が取り出したのは、とても武器と言える代物ではなかった。しかし、それはただの鏡ではなくて虹色に輝いていた。瞬時に危険を感じた。逃げようとしたが、それを祈祷師が掲げて太陽の光を反射させる方が僅かに早い。光線は左の耳に当たって、強烈な痛みが頭に走った。

 肉が焼ける異様な臭いが鼻を突く。熱いというよりも身を切り刻まれる痛さだ。叫び声が無意識に出た。動けない。体から力が抜けていく。もうダメだ、と思った瞬間だった、光線が消えた。厚い雲が太陽を隠してくれたらしい。助かった。この場から急いで逃げようとしたが傷が大き過ぎた。意識を失ってしまう。

 気づくと棺の中に閉じ込められていた。呪縛を掛けられて身動きできない。自由を失う。そのまま長い歳月が過ぎた。自分が持つ力を過信して油断した結果だ。

 だが復讐の魂は滅びない。怒りと憎しみは消えずに残った。いつか蘇る日が来ると信じて待ち続けた。

 どんなに災いが悲惨で、どれほど秩序を取り戻すのが困難だったのか、年月が経てば人々の記憶は薄れていく。いずれ欲望が自戒の念を凌駕するだろう。彼らの心に邪悪な魂が入り込む余地が生まれるはずだ。

 棺は何人もの手に渡り、その度に場所を移した。蔵の奥に押しやられて埃をかぶった。厄介な物として扱われていく。今は多くが、この棺が存在する理由すら知らない。

 とうの昔に女の祈祷師は亡くなった。虹色に輝く鏡だけが残っていた。忌々しい。いずれ自由を取り戻したら、早々に始末しなければならない。

 おっ、人の声だ。

 「何だろう、この虫は。誰か知ってるか?」

「そんなこと、どうでもいい」

「でも目が赤くて、黄色いラインが背中に入った虫なんて珍しくないか?」

「うるさい、もう黙ってろ。構うなって」

 目を開けた。すでに視力はない。意識を棺の外に集中させる。久しぶりに聞く。声が若い。きっと子供らだ。好都合。この干乾びた身体を蘇らす為には、連中の瑞々しい肉体と新鮮な血が必要だ。何も知らずに近づいて来る。

 今度こそ、今度こそ自由を取り戻せるかもしれない。



   01  1985年 この年の暮れに日本で映画『バック・トゥー・ザ・フューチャー』が公開された


 「畜生、せっかく--」

まずいと知っていながら声が出てしまう。廊下を、こっちへ歩いてくる足音に気づいたからだ。これから始めようという時に--。青い作業服姿の男は急いでカーテンの裏へと身を隠すしかなかった。一人じゃなさそうだ、やって来るのは二人だ。話し声も聞こえてきた。

 「だって前にも言ったでしょう。あんたにはショートが似合わないって」

「え、うそ。初めて聞いたけど、あたし」

「ううん、何度も言ってる。あんたが人の話を聞いてないだけよ」

 看護婦二人が新生児室の前を通り過ぎていく。前の日に美容院へ行った同僚のヘアスタイルを、もう一人の女が酷評していた。

 早くしろっ。そんな事は、どうだっていい。早く向こうへ行ってくれ。男の額に汗が流れる。

 産まれたばかりの赤ん坊が寝ている新生児室に一人でいた。母親ですら許可なく入っちゃいけない場所だ。姉ヶ崎の建設現場から直に来た。一目で不審者と分かる場違いな格好だった。

 やるべき事は何一つ終わっていない。今、見つかるわけにはいかなかった。二人の足音が遠ざかって行く。額の汗が床に落ちた。 

 産まれてきたのは、やはり双子の男子だった。あの老人が言った通りだ。男は、そのうちの一人を他人の赤ん坊と交換しなくてはいけなかった。だから妻が妊娠すると、いい加減な警備しか施されていない産婦人科医院を探した。誰も見ていない時に勝手に新生児室へ入れることが条件だった。

 隠れていたカーテンから首を出して廊下に誰もいないこと確かめると、さっさと行動に移った。取り替える赤ん坊はどれでもいい。どうせ直ぐに殺してしまうんだ。

 男は自分の息子である双子の前に立つと、一人を隣のカプセルに

寝ていた他人の赤ん坊と交換した。すぐに手首に付けられた両方の青い名札も取り替える。女の子は赤い名札で、隣にいたのが男の子でよかったと思う。幸い、血液型も同じだった。次は二人が着ている青いガウンだ。親の氏名がマジックで書かれているので交換しないわけにはいかない。これには手間取りそうだ。小さ過ぎて遣りづらい事はなはだしい。額に流れる汗の量が一気に増えていく。

 いいか、何としてでも遣り遂げるんだ、男は自分に言い聞かす。やっと老人との約束を果たす時がやってきた。失敗するわけにはいかない。すべてが……そうだ、すべてがここから始まるんだ。

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