第66話 光を呑み込む夜想曲

 ツミナのチームでは、先行班に同行するのはツミナ一人。あとの二人は後から来る解析班に分けられていた。


 時間が無かったので相談もそこそこに打ち切り、ラファエラの元へ戻ってきたナワキは機嫌を損ねた彼女を宥めかし、作戦実行まで適当に休むことにする。


「……不満だな。このチーム分けそのものが」

「不満?」


 未だに険しい顔のラファエラに、ナワキは目を向ける。

 美人は怒っていても美人だな、とは思うがそろそろ機嫌を直してほしかった。


「まるで人質を取っているかのようだ。私たちのチームはツミナ。セノーのチームはアルタ山。他のチームにもそれとなく探りをかけてみたが、どのチームも大なり小なり

「人質……そうか。多少はそういう意図もあるか。考えもしなかったな」


 確かに見回してみればアルタ山がいつの間にか消えている。

 呑気な感想をそのまま漏らすと、ラファエラがじっとりと呆れた目を向けてきた。


「ナワキ。真面目にやっているのだろうな?」

「そんな怖い目を向けないでくれよ。身が縮こまる。それに人質に関してはまったく気付かなかったけど、もう一つの選考理由に関しては俺も気付いてるよ」

「もう一つ? はて。そちらの方は心当たりがないが」

「ん? そうか? こっちの方が重要かなって思ったんだけど」

「……」

「わかってるよ! 勿体ぶる気はないから睨むなってば! 俺の言っているもう一つの重要な点っていうのは――!」



◆◆



「協力の必要がない。一人でも完結するタイプのサイキック詰め合わせって感じじゃんねー」


 アルタ山が隣を歩いているツミナに話しかけた。

 現在、先行班は樹海の中を行進中。そのほとんどが無言で歩いている。


 先ほどの喧噪と比べると耳が痛くなるほどの差異だった。

 夜の九時を回っているので普段ならば足元も覚束ないほど暗くなるのだが、今は先行班の中にいる『光を操るPSI』を持ったサイキックが行軍の周りに無数の照明弾を打ち上げている。


「……ビックリするくらい図太いなキミは」

「あなたのことは怖いことには怖いけど、それに引き換えにしても今の状況は結構危ういじゃん」

「こんな照明弾を焚いてたら敵のいい的だって意味で言ってる?」

「あ。それに関しては大丈夫じゃん。九時を過ぎてからはボーナスタイムだから」

「ボーナスタイム?」

「こっちから攻撃を仕掛けない限りは、ほとんどのモンスターが寝ている」


 つまり必中の先制攻撃ができる時間だ。

 知ってさえいれば、ボス攻略にも当然使えるだろう。なにせ戦闘中にザコに気を取られる危険がない。


 もしかしたらツミナと組んで最初に夜の攻略を行ったときにでも気付いたのかもしれない。ツミナ本人は他のことに気を取られて、それどころではなかったが。


 ハグが何故この時間にボス戦を決行したのかはわかった。ただし実際には事前の説明を一切受け取っていなかった。


 おそらく訊けば素直に答えてくれただろう。だがこういうことは訊かれずとも事前に説明した方がいいはずだ。


 そこまで思考が及んだところで、アルタ山の言いたいことが理解できた。


「そうか。なるほど。ハグさんは

「そ。解析班が密室を破壊するまで誰か一人でも残っていればそれでいいと思っている。当然、自分や先行班の誰かが死んでもいいとは思ってないだろうけど……」

「選考基準をに限定したのはそのためか」


 アルタ山は、ツミナの勘の良さに感嘆した。話が早く進むのはいいことだ。人格はまったく尊敬できるところが無いが、この点だけはありがたい。


「多分ハグさんの思考回路はこうじゃん。『自分の命を誰かに守らせることは御免だし、誰かの命を背負うのも御免だ』ってね。つまり責任を負わせるのも、責任を負うのも拒否ってる」

「……最後の最後の局面でチキったか……まあだからって弾劾するほど致命的な作戦ミスってわけじゃないけどさ」


 ずるり、と引きずっている棺桶の鎖をツミナは背負い直す。


「こりゃ大変だぞ……ナワキの注文をこなすのは」


 不穏な行軍は続く。光に未だ照らされてない道は、まるで妖怪の口のようだった。

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