125 双方の遺言Ⅲ
「場所によるとここですね」
と、エミリーは手帳と現在地をしっかりと確認しながら小さく頷き、息を呑む。
そして、本棚と床から積み上げられた本の中から目的の本を探し始める。
「えーと、ノーマン・オリファンの本はですね……。あった……」
と、一番下の段に置いてあった誇りまみれの一冊の本を取り出す。
ホコリを落とすと、デミトロフに渡す。
「ジョン、これは彼がこの世にたった一つ、在席中に書き上げた一冊の本です。世には出回ってないオリジナルです」
「これが錬金術や魔法に関する本だとでも言いたいのか?」
「はい、そうですが……」
「それでは聞くが、なぜ、本のタイトルがお料理本なんだ?」
「え?」
「ほら、よく見てみろ。タイトル『世界の料理』って書いてあるぞ」
「そ、そんなはずは⁉」
エミリーはデミトロフから本を奪い取り、本のタイトルを見返し、中身を見ながらページをめくる。
「う、嘘……」
「ん? いや、少し待てよ……。エミリー、それは本当に料理の作り方が載ってあるんだよな」
「はい……」
「おい、ハウロック。お前も気づいたか?」
デミトロフはハウロックに問う。
「ああ、これは歴とした錬金術と魔法の本だ」
「はぁ……面倒くさいことになったな」
デミトロフは頭を掻きながら、エミリーから本を受け取る。
「あの……どういうことなのですか?」
「つまりは、これ自体がちゃんとした本なんだよ。一見、普通の料理本に見えるが、この中に隠されている言葉自体が錬金術、魔法の本になっているんだよ。普通の人間だったら分かる奴は少ないだろうけどな……」
「デミトロフの言う通りだ。そして、この本を解読するには、他にも色々と必要だ。それに解読ずるのに時間がかかる」
「恐らくは、戦いが終わっている頃かもしれない。当日ギリギリまでは一睡もせずに頑張ればいいところまでは何とかなるだろうよ。後は、学生の俺達がどこまでやれるかだけどな……」
ハウロックは、ニヤニヤしながら面白そうにデミトロフの方に手を掛ける。
「その手を退けろ。まあ、こいつの言う通りだな」
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